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湯グラドルしる  作者: 織田 涼一
第1章:聖女が事件を連れてきた
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グラドルの休暇

「まこっちゃん、さっきの相談だけど……」

「柚姉、その前にちょっと聞いていい?」


 佐々木さんの顔を見ると頷いてくれた。

柚はこの画像を見ていないようで、二回目のOKが出た熱湯風呂の動画しか確認していなかった。

風呂上りだからか、頬が少し赤くなっている。寝る時は一旦外に出るので、湯冷めしないようにしないといけない。

石油ストーブの上に置かれたヤカンから、ティーパックの紅茶を三つ用意する。


「まず、呼び方だけど『まこと』って呼び捨てでお願い。さっきの二つは、どうもむず痒くて……」

「まあ、いっか。それで質問は何かな?」

「さっき佐々木さんに見せて貰ったんだけど、この時のこと覚えてる?」

「あぁ……。私の相談もそれなんだよね」


 柚は紅茶に口をつけて「あちっ」っと一言呟いてから、ふーふーと息を吹きかけ一旦飲むのを躊躇する。

そして、この時のことをぽつりぽつりと分かる範囲で語りだした。


 柚は熱湯風呂に入ると、あまりの熱さに思考を半分以上放棄していた。

目を瞑り我慢をしているうちに、一瞬嫌なぬるさを感じ、すぐにやってきた温度差に我慢出来ず走り出した。

次に思い出したのは石畳だった。バスローブ姿で目を覚まし、水着をつけていない事を確認した。

その石畳の部屋にあったのは、机とベッドだけ。そこまで話すと、柚は皮袋を差し出してきた。


「柚さん、これは?」

「分からないんだよね……。ただ、石畳の部屋にあったとしか」

「持ってきちゃったんですか?」

「だって、しょうがないじゃない。後でちゃんと返すから……」

「……それは夢じゃないって事かな?」

「まことはどう思う?」

「うーん、なんとも。中身は確認した?」


 柚が首を振るので、確認しようということになった。

もし落とし主が現れたら、中身を確認して貰わなければいけない。

落し物かどうかはさておき、何か手がかりになる物が入っているかもしれなかった。

茶巾のように縛ってある紐部分を緩めると、大小さまざまな黒い石が入っていた。


「これは宝石かな?」

「ガラスにしては、微妙な光沢ですよね」

「まことは宝石に詳しい……訳ないよね。どんなものか調べられない?」

「『黒い』『宝石』『画像』っと、この辺りで検索かな?」


 パソコンで検索すると、いくつかヒットする。

ブラックダイヤモンド・オニキス・ブラックスピネル・セレンディバイト・ヘマタイト。

良くは分からないけど、こんな綺麗にカットされていないし、そもそも色が違うように思える。


「もし異世界に行ったなら、魔晶石とか魔石とか言われるものもあるよね」

「佐々木さん。さすがに、それは……」

「ねえ、何の話?」

「こういう風に人が消えて、異世界で活躍する話が多いんだよ」

「うーん、あの場所が異世界かって聞かれると難しいな」

「柚さん。もし目の届かない所に行っても、無茶しないでくださいよ」

「分かってるってば。マネージャーは私の保護者じゃなくて、お仕事を取ってくるのが仕事なの」


 柚より少し年上の佐々木さんは、猫を前にネコジャラシを左右に振っているようにも感じる。

そんな二人はさておき、種類が特定出来ないなら、数を数えて控えておく必要がある。

一個を手に取り照明に透かしてみた。外側が若干光を通しているということは、透明度は結構低いのかもしれない。

紫色も入っているのか、全てが同じ種類の宝石じゃないと思った。


「これって、どのくらいの価値なのかな?」

「さすがに、鑑定に出す訳にもいかないですよね」

「事務所を通すせば何とかなるかもだけど、出所を聞かれたら答えられないね」

「柚姉、これ絶対SNSに載せちゃダメだよ」

「え~……。折角、面白そうな話題なのに」

「どこから炎上するか分からないのがSNSだからね。佐々木さん、ちゃんと見ててくださいね」

「任せてよ。でも、ケルちゃんも見てるんでしょ?」


 佐々木さんが指摘したのは、リミアのアバターの話だ。

俺のアバターはグレーのフードを被っていて、顔が特定されないようになっている。

そして普段巡回してくれる人形アバターは、頭が三つある犬で神話のケルベロスをデフォルメしている。

ホームページもきちんとあって、ソフトのDLから設置の仕方、ブログも細々と運営していた。


「うちの子は柚姉のところを良く見ているけど、それでも本人と周りがチェックしてくれないと」

「それは社長にも言われてます。あ、そうだ。まこと君、何か困った事とか欲しいものとかない?」


 みんな手に宝石を持ちながら話をしている。

最後に柚が一番大振りの宝石を持つと、バシュっという音がした。


「えっ? 何?」

「柚さん、何をしたんですか?」

「な、何もしてないわよ」

「ちょっと、待ってくださいね。1・2・3……やっぱり一個減ってる」


 とりあえず、皮袋に仕舞って触れないようにした。

皮袋を閉じる前に、画像を何方向からか写真に取り、データで残しておく。この宝石はとりあえず佐々木さん預かりとなった。ほとんど柚と行動を共にしているので、どちらが持っていても問題はない。

佐々木さんはこの部屋に泊まるので、荷物もここに置いてもらう予定だ。


 柚と一緒に家に入って、順番になったので風呂でゆっくりする。

佐々木さんは、『はなれ』で事務仕事をするらしい。

『あの宝石はなんなのか?』『柚姉の体は大丈夫なのか?』湯船に浸かりながら、ふと柚の仕事の過酷さを思い出した。 

明日は柚も一緒に畑仕事を手伝うと言っていたので、早めに就寝しないといけない。

佐々木さんは定番の撮影係りだ。二人は本当に、休むつもりはあるんだろうか?


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「柚ちゃん、それはまだよ」

「おばあちゃん、こっちはどうかな?」

「うんうん、美味しそうな白菜ね」

「マネージャー、ちゃんと撮ってね」


「柚さん、それって収穫の邪魔なんじゃ?」

「佐々木さん、良いんですよ。ところで、今日はその……」

「ご近所さん達が来るんでしょ? 一緒に飲もうよ」

「おい、今日は宴会だぞ」

「はいはい、そうなると食材が足りないわね」


 小さな村では、外からのお客さまには敏感だ。

おじいちゃんもおばあちゃんも、ニコニコが止まらないのがよく分かる。

買出しに立候補すると、佐々木さんも付き合ってくれるようだ。

柚が頑張っているので、せめて裏方だけでも力にならないといけないと思った。


 収穫も一段落したので一旦家に戻り、佐々木さんの車でスーパーへ行く。

カードを見せて、「好きなものを買っていいよ」と格好良く言ってくれたが、ここはカードが使える大きいスーパーではない。それでも、アドバイザー料を貰っているので、財布にはそこそこ入っていた。

佐々木さんはカートの上下に買い物カゴを置き、結構な量を入れている。ちょっとお高いお酒も入れていたけど、おじいちゃんのことを話したら、「本当に美味しいものは少量で満足出来るよ」と教えてくれた。会計は佐々木さんが済ませた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「芸能人が収穫にきてるとね」

「仙道さん家はいいわねぇ」

「今日は飲まんか? うちの柚葉もいける口だぞ」

「おおぉ、いいな。今から飲むか?」

「大野さん、奥さんに怒られるわよ。仕事が終わってからね」


 農家が多いこの土地で、柚は頻繁に来るお客の相手をしていた。

まことから事前に出演する番組を聴いた祖父母は、何かというと自慢していたようだ。

子供自慢・孫自慢は、祖父母に許された特権だ。喩え出演時間が数秒しかなくてもだ。

仙道家には、何故かファッション雑誌も多くある。二人は柚葉の静かな応援団になっていた。


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