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魔女と使い魔4

 結論から言う。


 負けた。悲しいほどに。惨敗。結局街が燃えるのを見なければならなかったし、私はまたもや追われる羽目となった。


 力が圧倒的に無いんだ。こんな事なら何もしない方がマシだったかもしれない、と燃える街を見ながら私は涙を流すことしか出来なかった。


 こんな事なら。心の中で呟いてぐっと拳を握りしめた。


何度同じことを繰り返せば私は気が済むのだろうか。


「しょうがねーよ。俺たちの実力で――魔獣三匹は無理だ。華羅は頑張ったと思う」


 頑張ったから許される。そんな話だったらいいのに。まず――私は私を許せなかった。力の無い私。やはり人を一人か、二人助けるのが精いっぱいで。


「でも、何かあったはずだもの――絶対に私たちの所為なんだし」


 何かあったのだろうか。


 私たちの実力はおそらく魔女の最下位に位置するものだ。エスなんて魔力なさすぎで物理で戦うタイプになってしまった。対人間ならそこそこの戦力になると私は思うのだけどやはり魔となると難しい。


 彼の身体は傷だらけになっている。ほとんどが私を庇ったせいだけれど。それを見てまた悲しくて悔しくなった。


 大体私が行かなかったら良かったのだ。そうしたらこんなことにはならなかったのに。


「ごめん」


「かまわない。俺は――華羅の使い魔だし。盾に使おうが何だろうが。で、次はどうする? あの森には戻れないし」


 多分街近くの森はしがみつぶしに探されていると思う。あの森普通の森だし、今まで誰も来なかったことが奇跡な位。


 どうしよう。私は力なく笑った。行く宛てなんてあるだろうか。寧ろもう――と嫌な考えが過って頭を振った。


「エスはどう思う?」


 聞くとエスは『そうだな』と呟いてから言葉を紡ぐ。


「魔女らしく生きるとか?」


 言われてクスリと笑みを落とした。そうしたら生きていくのは少し楽になるのかもしれない。けれどと私は空を仰いだ。


 欲しい物がないんだ。私。


 若さも、永遠の命も。別に要らない。美人になったから何かあると言うわけでもないし。贅沢な食事も必要ない。


 粗末な服とささやかな暮らしで良かった。


「生きれると思う?」


 なら魔女になぜなったのかと言われるが『なりたくてなった』わけではない。二十年前私は死にかけて目を開ければ増し欲が備わっていた――それだけの話だった。隣にはエスが居て。


「だよなぁ――俺も無理だ」


 どういう意味で『無理』なのかは分からなかったしエスはそれ以上何も言わなかった。ただ、燃えている街を無表情で見ているだけだった。


 赤い炎に照らされる横顔はまるで絵画を見ている様な気分になる。それをぼんやり見ているとエスと視線が合った。


 不審そうだ。まぁ、横顔をガン見しているのだから仕方ない。私は苦笑を浮かべて見せる。


「何?」


「キレ―って思って……ああ、そだ」


 私は思い出してスカートのポケットに手を突っ込んだ。まだリングはそこにある。それを取り出した。


 これをくれたおじさんが生きていてくれるといいのだけれど。


 シルバーの無機質なリング。どこにも傷は無かったが買う前よりも少し輝いている様に見えた。


「手を出して」


「……」


 エスは少しだけ眼を見張ったがゆっくりと手を私に差し出した。長い指、大きな手。いつの間にこんなに成長したのだろうと考える。


「こんな日になってしまってごめんね。そんなつもりじゃなかったんだけど」


 するりと長い指に収まったそれはとてもぴったりだった。ホッと私は生きを付く。


「あなたに祝福を。成人。おめでとう」


 もし、もし私が死んだら使い魔はどうなるだろうか。何故かそれはどこの文献にも乗っていなかったしエスも教えてくれなかった。


 私のことなんて忘れてくれるといいな。それは少し寂しいことかもしれないけど。エスはこう見えても優しいと知ってるし。本質は『魔』の癖に。


 私は軽く笑顔を浮かべていた。少し泣きそうな顔をしているかもしれない。


 泣いてほしくないな。


「なに?」


「なんでもない」


 そんな事を考えながらその夜は更けて行った。


さくっと一つ街がこの人たちの所為で大変なことになりましたが…都合上さくっと終わらせました。



ちなみにもう一つのリング→『かわいい嫁に渡す予定』とエスに大真面目に言って取り上げられてます。

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