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魔女と使い魔3

 同じぐらいの背格好だった。女――というより少女と言った方がいいかもしれない。その顔は幼さが色濃く残っていて、大きな目とぷくりとした唇が印象的だ。平素にしていればすごく可愛いのだろうけれど。


 もう『お嫁さんにどうですか?』と言った方が一番早いかもしれない。エスは怒るけど元カノならいいんじゃないかな。と現実逃避していた。


「なによ」


「ええと――こんにちわ。私はエスの妹で華羅と言います」


 ペコリと頭を垂れるとみていた外野が『妹じゃん』って歓喜の声を上げている。ワンチャンあるかもとか言っているけどあるのかな。チャンス。


 少女は『はぁ』と声を出している。何がしたいのか分からないらしいけど少し禍々しい空気が薄まった。良かった。


「兄がご迷惑をかけたみたいで」


「迷惑? そう思うならまたよりを戻してくれない? 私の身体好き勝手にして最低」


「身体……」


 どうしていいのか分からない。身体。身体って――なに。謎の汗がジワリと額に浮くのが分かった。でも酷いことなのだろうとギロリ、エスを睨み付ける。何をしたんだよ。一体。


 責任とってよ。


 そう言われても――ええ。さらに禍々しい空気を放ってヒートアップしてるんですが。気付けば両腕ホールドされてしまってる。


 怖いいいい。


「わ、私に言われまして――も」


 言葉を紡いだ刹那だった。


 ドクン。心臓が一度鳴った。辺り一面の空気が変わるのと呼応するように。ピリッと張りつめた空気。音という音が吸い込まれていくような感覚。


 私は『コレ』を知っている。


「エス!」


 弾けるように私は声を上げていた。少女の手を振りほどき、飛ぶようにして間合いを取る。当の少女はよく分かってていない――そして周りも驚いた様子で私達を見ていたけれど。


「『来る』のを弾く!」


 ポケットの指輪がかたかたと震える。やはり何らかの魔力には反応するようだった。たまたまだったらしい。


 そんなことを考えながら私は指で大きく弧を描いていてた。この軌跡は光となりぼうっと宙に浮かぶ。術式(けっかい)を展開しながら。


 一つ。二つ。三つ。――元々力が少ない私にはきつい。けれど。


 喘ぎにもにた声が漏れる。


「ま、魔女?」


「捕まえろ!」


「い、石を――」


 辺りに居た人間が何かを私にしようとしているが何かを言う余裕はない。その間にドンっと術式に何かがぶち当たった。


 ドン。ドン。


 鈍い音が辺りに響く。それは恐ろしく低く、死の匂いを感じさせるようだった。姿は未だない。けれど私の術――結界を壊そうと努力しているようだった。


 くっと唇から小さく呻きが漏れる。きつい。おそらく上級の『魔』だろう。魔獣――あるいは。ぐっと私は唇を噛んだ。


「なん、だ? ま、魔女が呼んだのか? 魔を」


「魔女――め。この街を滅ぼすつもりか?」


「……殺さないと――この魔女を殺せば」


 そんな事をすれば――この街は。上級の『魔』であればあるほど代償は大きくなる。目の前で目を見開いている女の子では足りないだろう。


 私の命なんて。論外だ。基本的にあいつら共食いだけはしないから――というり『まずい』と言う事を知っているだけかもしれないけど。


 捧げられるものなら捧げている。


 何かをされる前に何かをしないと。


「エス。この人たち。邪魔だわ」


 私は冷徹に言い放つと街の人間はざわついた。何も殺そうとしているのではない。眠ってもらうだけだ。


 『はい』とエスは呟くように言った。もう髪も眼も元に戻っている。こういうときだけ『使い魔』らしくなるんだから――と私は苦笑を浮かべた見せた。


 よし、頑張る。


 頑張らなきゃ。


 大体は私たちの所為だし。




 何故――と聞かれた。昔も一度こんな事があったっけ。あの頃は私たちただの子供に扮して小さな町に紛れ込んでいたんだけれど。


 その町にそれは現れた。今でも誰が触媒になったのか分からない。街の中心には血まみれの死体が横たわっていただけだったから。服から女であったことは想像できた。


 魔獣。山一つぐらいの体躯を持ったそれは本能のまま人を狩る。泣き叫ぶ人。絶望した顔で走り回る人。


 当然私とエスも逃げていた。そうでないと怪しまれるから。でも『怖い』と言うのも確かで。誰か。誰かと願いながら――私は隣に住んでいた友達が無残に殺されていくのを見た。悲鳴を上げて『おかーさん』と泣きわめきながら。


 人は――本来『魔』に抗う術を持たない。剣をもってしても槍をもってしてもそれを倒せない。倒せるのは『魔』を帯びた武器や術だけだった。つまり『裏』の世界の者は裏の世界の武器でしか倒せないと言う事だ。


 そしてそれは例外なく高価だったり希少だったり――。


 だから。私は頑張った。


 別に称賛されたかったわけで無い。それによってその町に居られなくなったことも事実だ。もう少しで捕まりそうになったことも。


 けれど私は頑張った。


 贖罪だったのかもしれない。力を持っているのに助けなかったことへの。『助けて』と叫ぶ友達に私はただ震えて見ている事しか出来なかった。


 もうそんな事。そんな後悔はしたくなくて。


 だから。問いには『力を持っているのに助けて何が悪いの?』と答えておいた。


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