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魔女と使い魔1

 そう言えば幾つになったかなぁ、と私はぼんやり考えながら空を仰いでいた。相変わらず空は青い。眠くなるようにゆっくりと雲が流れている。


 えっと。あれから二十年だから。ああ。指が足りない。私算数ダメなんだよ。いや、もう勉強全般がダメというか。


 ジワリと涙が出る。こんなのだからおつりだってちょろまかされるし、倍の値段で売られたりする。努力をしているんだけど――駄目だ。コレ。


 身を縮めて膝に顔を埋めると、軽く私の頭を撫でる手。それに顔を上げると一人の青年が立っていた。


 世にも珍しい青銅色の髪がさらさらと揺れ、スカイブルーの瞳が私を覗き込む。温かな笑顔はお日様と言うより月の印象が強い。


 整った顔立ち――本人曰く――をしているのだけれど私には良く分からない。とっ散らかった顔なんて見たことないし。目と鼻と口があれば顔は成立するしね。


 洗濯の途中だったのだろう。持っている籠には洗いたてのシーツが入っていた。今から干すのだろう。良い天気だし。


「何を考えている? 華羅(カラ)……指を折って計算か?」


「ん――勉強。かな? 『あの日』から今年で二十年でしょ? で、エスが幾つになったかと思って」


 二十年前。この国の王様が死ぬと同時に私の村は理不尽にも焼かれた。何故。どうして――そんな声も聞き入れられず、女、子供。老人。もちろん男たちでさえ。その掲げられた旗に驚愕と怒りを覚えながら誰もが呪いの言葉を吐き出し倒れていった。


 ――月下軍。この国の名を掲げた軍隊の旗だったから。


 幼かった私と――まだ赤子にも等しいエスは母と父に逃がしてもらい今この場に居る。


 正直に言えばよく覚えていないので――何の感慨も無いのだけれど。もはや父母の顔さえもぼんやりとしか思い出せない。


 冷たい娘――と心の中で誰かが嘲笑したような気がした。


 その通りなんだと思う。別に心なんて痛まない。多分――悼む『心』なんて持ち合わせてなてないのだろうし。


 苦笑が浮かぶ。


「無意味なんだけど? どうして?」


 無意味。その言葉にむっとした顔で私はエスを見返す。


「成人になったらお祝いをしないとだめだし」


 成人は大切だ――私はしたことないけど――子供に区切りを付けて一歩踏み出すと言う意味がなどと高説を述べたら今度は苛だたしそうにこちらを睨む。


「う゛……」


 怖い。昔はあんなにかわいかったのに。私の後をちまちまと追っかけてくる小動物だったのに。何故私が睨まれているんだろうか。言う事だって何でも聞いてくれたのに。


 天使がいない。その事実に少し悲しくなった。


「そんな事言ったら 華羅だって――ああ? でも。ダメか。その身体15歳で止まってるからね、お子様だよね」


 視線が――胸に。薄ら笑いを浮かべて。『無い』と言いたいの。そうなんだよね。人が気にしている事を。


 魔女と言えばスタイル抜群で妖艶と言うイメージが付きまとっているのが悔しい。足をちらりと盗み見れば長くない。泣くよ。


「……ぐきき。魔女は人としての時間が止まるからいいのっ――でも使い魔は違うでしょ? 一応幼少期から青年期まであるじゃないよ」


 私たちは『人』ではない。私は『魔女』と言う存在でエスは――使い魔だ。私が村や両親に『悼む心』をどうしても持てない理由がここにあった。私の事はいい。問題はエスが村に『赤子』として居たことがおかしい。


 使い魔は――元々『魔』と呼ばれる存在だ。この世界にある『裏』に住まう者達の総称だった。『妖魔』『魔獣』『悪魔』とも呼ばれる者達は殆どその例外なく人を喰らう。血肉、魂。その心さえも。それを無理に屈服させ血の契約で縛る。それが使い魔の正体。当然『こちら』から呼び出し契約を持ちかける分けで――その呼び出しには『生贄』と相応の力かいると本に書いてあった。


 力が弱ければ弱いほど下級になっていくのだけれど……。


 下級っても赤子って。下級のレベルに入るのかな。


 私は独り言ちる。ともかく村で誰かがエスを呼び出したことは間違いないのだ。何のために――かは分からない。ただ何となく『軍に潰されるくらいの事』はしたんだろうな。と思う。


 ため息一つ。すっと私は立ち上がった。


 ついこないだまで私と同じくらいの身長だったのに。見上げるのは悲しい。悔しくて睨み付けると『はいはい』とめんどくさそうに言う。


 だって私がエスを育てたんだもの。ここまで立派に。親御さん――魔――だけど草葉の陰で泣いているに違いないし。


「ともかく祝いたいのっ。ね、幾つ?」


 ぐっと背伸びして顔を覗き込めば少し大きく見開いて目を反らした。少しふて腐れたようなそんな顔。少しだけ黙った後で私を無視するようにすたすたと歩きだす。


 少し速足で私は小走りで付いていった。……何となく。突然止まったエスの背中にぶつかりそうになって慌てて足に力を込めた。


「普通に考えたらいいんじゃないの?」


「普通に?」


「そ」


 言われて私はパンっと手を叩いた。あの時はまだ生まれたてだったんだ。可愛かった。メモリーが脳の中で展開され軽いお花畑が視界に広がった気がした。


「……じゃあ二十歳だね。私はてっきり百歳くらい年上なのかと」


 ホラ。『魔』って長寿だし。なかなか成長しないとか聞いてたし。ちなみに私はあの時ええーと十三くらいだったから。ええと。


 ……。


 いろんな意味で考えるのを放棄してみた。ちらりと自分の胸を除いても色気すらない。自分でいっても悲しいけど他て是言われるとすごく悲しい。


 考えてるとエスと目が合う。何故、不満そうにこっちを睨んでるか見当もつかないのですが。


「はぁ?」


 反抗期ですか。やめてください。泣いてしまいます。私は貴方のご主人様なんですよ。此処は強く睨み返してみるべきなんだと自分に言い聞かせ頑張ろうとするが『あ゛』とチンピラ如き声にプルプルしてしまった。


「ごっ、ごめんなさい」


 何か知らないけど。


 この後機嫌を悪くしたエスに私は家事手伝いをすごく頑張った。頑張って――追い出された。散らかるからと……。




 そう言えば。ふと思い出す。私は魔女だ。だから忘れていたけど『魔女契約』したかな。私達。


この魔女精神年齢も止まってます。

家事全般が苦手というよりできません。算数は苦手。

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