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魔女と嘘3

 ドクン。心臓が鳴る。それは『そうだよ』と言っている様にも思えたけれど私には記憶がどこにも無かった。ただ。『死んだ』とすれば『あの時』ぐらいだろう。私たちが出会った日。私がすべてを失った日。


 付け加えるようにして燈芽が呟くように言う。


「……それを強引に引き留め時間を戻して止めてるから莫大な力を消費する――馬鹿みたいに魔力が無ければできない芸当ですね――今頃魔力が無くなって泣いてるんじゃ無いですか? おまけに顔も見せられなくなって」


 泣いて……いや泣かないだろうな。さすがに大人だし私を騙していたくらいだし。でも。膝くらい抱えて隅に座っていて欲しいっていう願望はある。そのくらいは罰が当たってもいいのではないだろうか。


 そう思えば少しだけ、少しだけだけれど楽しくなった。


「でもそれって――あいつの魔力が尽きたらそれまでじゃないかよ? 死なないとは少し違うくね?」


 楡の問いにははっと軽くアルが笑った。


「うーん。そうだね。尽きればだよ」


 まるで子供に合わせるかのような口調。それを子供が大人にしている光景は違和感がある。さすがに何か察したらしくむっとした顔を楡は浮かべていた。


「もしかしてバカに――」


 無視だ。


「しらないの? まず尽きることは無いんだ。増えることはあっても、減っていくと言う事は無い。決められた力は死なない限り残るんだ。それで僕らの世界はバランスを保ってる」


 その死は限りなく遠くて――あくまで人の寿命に比べればの話だけれど。少しだけ悲しそうにアルは視線を地面に落してみせた。


 それに気づかない楡はパンっと思いついた様に手を鳴らして見せる。


「倒せばいいじゃん。死にたくなったら。力が無いんだろ? それだったらあたしでも倒せるし。なぁ、カラ?」


「……わかんない」


 倒す。その言葉が酷く遠くに聞こえる様な気がした。現実的では無いようなそんな言葉に私は目を伏せる。


 本当に一つ街を滅ぼしたのならそれ相応に倒されるべきなのだろうと思う。それはもはや人類の敵だ。あれほど守りたかったのに簡単に壊してしまうエスはもはや『魔』以外の何物でもないのだろう。それは分かる。


 ――けれど。


 嫌だ。


 そう悲しい位思ってしまうの何故なのだろう。割り切れなどしない。どうしても笑って欲しいし、幸せになって欲しい。


 生きることができるのであれば、生きて欲しい――そう願ってしまうのだ。


 自分が特別生きたいと思う事がないのに不思議な話だった。


「……分からないよ――だからね」


「だから?」


「会って決める。自分がどうしたいのか。どうなりたいのか。どうしなければならないのか――」


 それは何一つ選ぶことができない自分の逃げだという事は分かっている。けれどもしかしたら、何かあるかもしれない。信じたい。そんな思いもある。そんな事なんてしないと。私はエスを知っているつもりだったけれど。


 おそらく。私にとって『嫌』な方向に話しは進むのだろう。そんなに世の中うまくいくはずなんてない。


 私はエスを――。


 私は軽く疲れたような笑顔を見せていた。


「ええと、倒さなくとも、力を失くすようにお願いするのも良いんではないですか? 聞くとも思えませんが。カラさんが泣いて頼めばもしくは――魔女らしく色仕掛けとか」


「無理だろ。ちんちくりんだし」


 ――まぁ。そうかもしれない。いくらなんでも色仕掛けは無理があるような気がするし、私もその方法が上手く思いつかない。


 具体的な方法と言えば手を繋ぐとか――いや何か違う気がする。


 私は考えるのをやめて苦笑を浮かべていた。


「まぁ、色仕掛けは無理だし、多分頼んでもそんな事は了承してくれない――と思うんだ」


 今までだって私の言う事やお願いは殆ど無視されて来たんだから。反抗期こじらせすぎてもう無理な気がするのだけれど。


「いや。する」


 何故、断言。しかも二人――楡を除いた――とも口をきれいにそろえて。反論は許さないと言う表情で見ているので私はどう答えていいのか分からなかった。


「ええと――」


 考えていると窓にコツコツと何か当たる音が聞こえる。振り向いてみれば鮮やかな赤い鳥がくちばしでガラスを叩いていた。


「あ。あたしのディが戻って来た」


 がらりと引き戸の窓を持ち上げれば楡の腕に手慣れた様子でちょこんと乗る。全体的に見れば猛禽類のようなイメージだけれどその目は真ん丸で厳つさは全く感じられなかった。


 言ってしまえば可愛い。


 見たことのない鳥だけれどペットだろうか。


「鳥さん?」


 覗き込めば軽く『ぴい』と鳴いた。どうやら人に懐いているようだ。


「使い魔だよ。偵察に行ってもらってたんだ」


「へぇ」


 魔がこんな可愛い生き物だとは知らなかった。基本的に人型以外は恐ろしく凶暴で――と言う固定観念が崩れていく。いや、人型には使い魔以外ほとんどあったことも無いのであまり知らないけど。


 ぴいぴいと歌う様に囀る鳥に楡は『うんうん』と答えている。


「マジか。すげぇな」


 何が。すごく気になる。ゲラゲラ楽しそうに笑っているし。後ろの人たちは分かっているのだろうか。そう視線を向ければ――分かっているそんな顔をされている。


 ……。


 知りたい。


「あの?」


 問いかければ楡に掌で制止された。


「……もうちょっと。うん――うん」


 ……。

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