青空の章 5
「・・・またサミエルド?」
「え、ニヤついてました?」
「してたしてた。なんか後ろに花舞うくらいに」
「ちょーっと出会いから恋に落ちるまでの回想をしてました」
「いいねぇ。回想出来る暇があって」
書類仕事に追われる陛下の護衛が私の仕事なんで。
私も出世したなぁ。ただの平民から王様の側近なんて。
まぁこの出世も色々あるんだけど。
「準備は終わった?」
「ええ。明日本番なのに終わってなかったら大変ですよ」
「そうだねぇ。コウみたいな有能な臣下に恵まれて私は光栄だよ」
ニッコリと本音半分、冗談半分。いや、憐れみが少し入ってるかな?
じっと見つめれば彼は笑みを深めると「今日はもう上がっていいよ」と告げる。
「護衛なんて真面目にやってるの、君くらいだよ。それに・・・明日は忙しいんだし、会いに行ってきなよ」
つまり邪魔だからサミエルドに押し付けるわけですね。少しだけ考えた後、「じゃあ失礼します」と気楽に部屋を出る。確かに今なら護衛はいらないし、元々サミエルドには今日会いに行く予定だったから。
鼻歌交じりに廊下を歩けば、中庭にしゃがみ込んでいるサミエルドの姿。あの真っ黒ローブは間違いないね。
また草花を眺めてるんだろうか。こっそり抱きつこうと忍び寄り、背中に飛びつこうとダイブを
「わぷっ?!」
した所で、クルリと彼がこちらを向いた。そしてしっかりと抱きとめられる。少し固い胸元に鼻がぶつかり痛いけど、それ以上に驚いた。
「さ、サミエルドに抱きしめられた・・・死んでもいい・・・」
「だっ・・・?!いつも急に抱きついてきて危ないから抱きとめたの!!」
真っ赤になって私を引き剥がそうとするけど、そうはさせまいと両腕を伸ばしてしがみ付いた。クンカクンカ、はぁぁ~サミエルドの匂いろぬくもりサイコー。
ニマニマと顔を向ければ赤い顔を困ったようにさせてから、諦めたように頭を撫でられた。わーい。
「コウちゃんは年頃なんだから・・・男に抱きついちゃダメだってば」
「好きな人にしか抱きつかないもーん。男は狼ってやつ?なになに?襲ってくれるの?」
「襲いません!!」
ちぇー。慎みなんてクソ食らえだよ。好きなんだから、襲われたって別に怒らないのに。寧ろ私が襲いたい。
「好きだよ、サミエルド。だーい好き」
「はいはい。ありがとう」
「私に、世界を与えてくれてありがとう」
「え?」
手を伸ばして、彼のフードを引っ張った。
驚きに見開かれた青空を見つめながら重ねた唇は、少しカサついていて熱かった。
そして隠し持っていたハンカチを袖からスルリと取り出すと、彼の鼻に押し付ける。
「うっ?!うー・・・」
咄嗟に鼻で大きく息を吸ってしまったのか、クタリと大きな体がもたれかかってくる。鍛えているおかげで難なく支えることが出来た。
「良い夢みてね」
ハンカチには、あの良い夢を見ることが出来ると言っていた鮮やかな青が染み込ませてある。サミエルドと同じ、青空の色。
さて、では彼を安全な場所まで運びますか。そして陛下の所へ戻ろう。
明日、この国は滅ぶのだから。
短めで失礼します。