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青空の章 3


 私は前世日本人だった。

 特に何かが秀でてるというわけでもなく、ごくごく普通の女子高生だった。

 それで、多分…交通事故だったと思う。最後に覚えてるのは青信号と車のクラクションと人の悲鳴だったから。


 気がつけば、私は赤ん坊になっていた。最初は意味が分からなくて混乱したけど、成長していくごとに理解していった。



 私は死んで、違う世界で生まれ変わったってこと。



 その時の絶望と諦めはよく覚えてる。私は確かに平凡な女子高生だったけど、家族がいて友達もいて将来やりたいことだって沢山あった。

 なのに私は独りで、この見知らぬ世界にいる。


 しかもどうやらこの世界の私には両親がいないらしい。捨てられたのか死んでしまったのか分からない。気づけば孤児院らしきところにいたから。

 何もかもどうでも良かった。この頃のことはボンヤリとしか覚えていない。生きていようと死んでいようと私の世界は何処にもなかったから。


 そんなボンヤリと生きていた頃、孤児院に夜盗が侵入してきた。

 物音に気づいた院長が子供を集めて一室に押し込み出て行かないようにと言って去った。戦いに行ったのか助けを呼びに行ったのか、もしくは逃げたのか。ここの孤児院は小さい。だから職員はいなくて足の悪い老婆が一人で切り盛りしている。

 

 助かる可能性は低い。死ぬのかな。ああ、それもいいかもしれない。

 だってこの世界にとって私は異物だ。

 未練もなにもない。だって何も最初からないもの。死んだって構いやしなかった。


 その時、ふと袖に重みを感じた。見れば、自分より小さな子供達が恐怖に震え、目を見開きながらドアを見ていた。その中の一人が私の袖の端を掴んでいる。縋るものが欲しかったんだろう。助けを求めたわけではない。小さな子から年長者の子供まで震えていた。

 死ぬことが怖いと、恐ろしいと、震えていたから。


 私は一人飛び出した。


 子供でも大人に勝てる方法はある。正面からは無理でも、頭から重いものでも落とせばいいし急所を狙えばいい。

 それからは、私はとても運が良かったんだろう。

 夜盗の人数は3人と少なく、子供達の押し込められていた部屋から離れていた場所をバラバラに物色していた。夜空は雲っていて月明かりはなく、夜盗は手元のランプだけを頼りに動いていて辺りが見えずらい状況の中私は何処に何があるか分かっていた。ボンヤリと過ごしていたのに、ちゃんと室内のことを理解いていた事に小さく笑ってしまったほどだ。恐怖はなかった。だって失敗したら、それで終わりだというだけだったから。


 そして始まった私の襲撃は面白いくらい上手くいった。外へと助けを呼びに行った院長が兵士を引き連れてきた時には、3人の夜盗が床で気絶し転がっているくらいに。

 兵士に怒られた。子供なのに無茶をして死んでしまったらどうするんだと。

 じゃあただ怯えて死を待っていれば良かったのか。ボンヤリと怒鳴る兵士を見ていると、その後ろから黒く大きな塊が近づいてきた。何だろうとよく見れば、それは黒いフードを被った青年だった。

 周りの大人達が厳しい目を向けてくる中、その青年だけが穏やかに青い瞳を揺らめかせていた。


 そして、ゆっくりと私を抱きしめる。




「―…ありがとう」




 聞こえてきたのは感謝の言葉。

 どうして今そんな言葉を言って私を抱きしめているのか。

 分からなくて見上げれば、青空が静かに見下ろしていた。ただ微笑んでゆっくりと頭を撫でられる。


 どういう、人なんだろう。


 見たことがない死神のような真っ黒なローブ。対照的に中の人物は優しげで若い男。兵士に指示を出している所から結構偉い人じゃないかなと思う。


 知りたいな。


 もう、手は離れてしまった。尋ねるタイミングもなく事後処理が進められていく。気づけば彼はいなくなっていた。

 そんな中、先程怒っていた兵士が声をかけてきた。


「お前、1人で大人3人の男を倒したんだってな…度胸あるな。さっきは怒鳴って悪かった。なぁ兵士になってみないか?ここより腹いっぱい食べられるぞ」


 当時私は10歳だった。こんなヒョロヒョロでチビの子供をスカウトするほど国が荒れていることを私は知らず、ただ兵士になればあの青年に会えるんじゃないかと思った。


「なりたい」


 だから私は兵士に『祈願』した。

 孤児院から兵士の詰め所に移動する。城のすぐ横にあり負傷した兵士が詰め込まれ雑魚寝している姿が多く見られた。私くらいの子も老人も、男女関係なく。

 訓練はひたすら戦った。剣の持ち方から人の殺し方まで。人と戦うことに躊躇する者、痛みを怖がる者。多くの新人がそれに躓く中私は積極的に訓練や実戦に参加し敵に立ち向かっていった。


 死んだら死んだで構わない。

 でもあの人にもう一度会ってみたい。


読んで頂きありがとうございます。

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