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青空の章 2



「それ、なに?」


 珍しく庭にいなかった薬室長は、その職務通り薬品の実験室にいた。流石に薬品を扱っている彼に飛びつくことはしないが、なるべく近くにいたいので座っている彼の隣に立った。


「コウちゃん・・・僕仕事中・・・」

「勤務時間外でしょ?大丈夫、私休憩中だし手は出さないよ。それで何?初めて見るよねぇ」


 机の上に置かれているフラスコには見たことのない鮮やかな青色の液体が溜まっている。周りにある薬品や薬草は物騒なものではないけど・・・


「毒?」

「違うよ。僕もこんな色になるとは思ってもいなかったけど・・・」


 そう言ってフラスコを軽く揺らす。彼の横顔は優しく満足げだ。

 ・・・成功したのかな?良かった。

 彼が嬉しいなら私も嬉しい。


「これは、いい夢を見ることが出来る薬」

「・・・危険な薬物的な?」

「違う違う!こう・・・よく悪夢にうなされて起きる兵士とかいるからね。それを改善した睡眠薬って言えばいいのかな」

「なるほど」


 彼が作りそうな薬だ。


 この国はとても疲弊している。

 それはこの国の歴史と前王と王妃、それに連なる貴族の野心が高かったせいだ。まぁその前の王も、前の前の王も、そのまた前もってくらい続いているらしいけど。

 色々な国の領土を欲しがり国民を虐げ兵を派遣する日々。

 今の陛下が王位につかれてからはそういったことはなくなったが、国民や兵士達が受けた傷は浅くない。今でも無理に出陣させられた兵士は悪夢にうなされているだろう。そんなこと関係ないとばかりに馬鹿なことを続けている貴族も多いけれど。

 そして薬室長は医務室長と仲がよく関連した職場だ。恐らくそういった悪夢を見て眠れないという相談をうけた医務室長から薬を作れないか打診されたんだろう。


 ・・・それで作れちゃうからなぁ。

 私の好きな人は有能なのだ。


「・・・疲れてる?」


 鮮やかな青を見ていると大きな手のひらが頬を、正しくは目元を撫でた。

 座っている彼が覗き込むようにして私を見ている。隈でもあったかな・・・化粧でも誤魔化せられなかったか。


「ちょっとね。でも大丈夫!サミエルドに癒されれば疲れなんて吹っ飛ぶもの」


 ニッコリと笑みを浮かべてみせたが彼の顔は曇ったままだ。

 うーん疲れてはいるけど、本当に大丈夫なんだけどな。



 キラキラ、キラキラ。

 彼の青い瞳に私が映る。



 茶色のハネっ毛に黒の瞳。どちらかと言えば可愛い系の平凡な私の顔。やっぱり何処か他人のように思えてしまう今の私の顔。

 頬に伸ばされていた手を掴むとそれを引き寄せて手のひらにキスをしてみる。ついでとばかりに軽く舐めてみれば、少し塩辛いのとピリピリした苦味。あ、薬品かな?


「苦い~」

「か、からかうから・・・!人体には影響ないものだったから良かったものの・・・」

「ごめんなさい。今度からはサミエルドが許可してから舐めまくるね」

「許可しないよ?!」


 ちぇー。

 ふてくされていると、彼はやっぱり苦笑いを零す。

 そして懐から1つ飴玉を取り出すと私の手に握らせた。

 立ち上がりすれ違いと同時にポンポンと頭を優しく叩かれる。


「無理、しないように」


 それだけ言って、出ていってしまう。


「―…好き」


 もう聞こえないと分かっていても、同じ気持ちを返してくれなくても。

 彼のことが好きで好きで仕方が無い。

 この世界に生まれる前でも知らなかった。


 人を好きになると、こうも世界が輝くことを。



読んでくださりありがとうございます。

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