青空の章 1
軽やかに廊下を駆け抜ける。
今日も綺麗に天気は晴れで王庭に咲き誇る花々はキラキラと朝露に反射し輝いてみせる。
ああ、なんて素晴らしいんだろう。今日も世界は美しい!
そうして見えてきた庭の隅っこで今日も今日とて薬草の世話をしているローブを被った彼の姿。ニンマリと笑みを濃くするとその背中にダイブした。
「サ~ミ~エ~ル~ド!」
「わぁ?!」
ブカブカの真っ黒ローブの下は意外と男らしく鍛えていると知っている。女としては筋肉質の私の体を驚きながらも難なく受け止めてくれる。はああ~今日も薬草とお日様のイイ匂いがする。クンカクンカ。
「ちょ…コウちゃん嗅がないで?!というか毎回抱きついてくるの止めてってば…女の子が軽率に男にしちゃダメ!!」
「サミエルドにしかしないも~ん」
「僕にもしちゃダメ!!」
必死に私を引き剥がそうとするとフードが外れ彼の顔が顕わになった。少しクセっ毛の短いクルクルとしたクリーム色の髪。丸く男の人にしては大きな青の瞳は少し垂れ目。私より年上で背丈も上なのに真っ赤になってあわあわしている姿はまるで思春期の少年のようだ。童顔だものね。かわいい。
私、コウ16歳は今、彼…サミエルド=ローフィー35歳に恋している。もう愛しちゃってる。一回り以上年上だけど35といっても髭ないしイイ匂いするしいちいち接触ごとに真っ赤になるし…男真っ盛りなのにねー。薬室長なのに部下にはよくからかわれている。
つまりはかわいい。
「はぁぁ…可愛い。私の癒し…」
「いやいやいや!こんな年上のおじさん可愛くないからね?!コウちゃんの方が可愛いでしょう」
「いや~こんな可愛げのない女は初めてだって陛下に言われてるから。サミエルドを見習えって言われてるから」
「陛下まで何言ってるの?!」
必死に言いながら私を引き剥がそうとクルクル回る。
あはは。女とはいえ私は陛下直属の騎士の一人なわけで、難なくへばりついたままである。
クルクル回る彼の隙をついて正面からハグしてみせる。まだ早朝なので胸当てをつけていない私の平均より小さめのそれが彼との間でくにゅりと潰れた。そして固まった。かわいい。
「サミエルド、大好き」
何百回目かの告白を笑顔で告げた。
**
「本当に君ってサミエルドのこと好きだよね」
書類を裁くことに飽きた彼…この国の王が私に言った。
そりゃもう、
「愛しちゃってますから」
「猫かわいがりしてるようにしか見えないけど…本当に『男』として彼が好きなの?サミエルドってイイ奴だし可愛いけど、男として見てる子少ないけど」
「見てますとも」
可愛いと確かに思うし癒されるしぎゅーぎゅー抱きしめたい。でも、
強引に繋いだ手のひらはスッポリと私の手を包めるほど大きいし、抱きついた背はゴツゴツ固い。見上げれば困ったようで赤い顔で微笑む彼は、しっかりとした男の人だ。
「あれだけイイ男は私は見たことないです」
「目の前の男は?イイ男じゃない?」
そう冗談っぽく尋ねてくる陛下をじっと見てみる。
彼の両親である前国王と王妃は二年前に仲良く病死しており、18歳という若さで国を継いだ王は見目麗しい。赤く燃えるような絹のようにすべらかな髪をひとつに結び、その端整な顔は見事な王スマイルを浮かべている。
…私からすれば胡散臭い営業スマイルなんだけどなー。
やや釣り目の彼は王家だけが引き継ぐという赤から青へと不思議なグラデーションのかかる綺麗な瞳で私をじっと見つめ返している。
「陛下は一般的にイイ男だと思いますよ。ただ私の中でのイイ男には当てはまりませんけど」
「…そうだろうね。まぁ僕がイイ男であろうとなかろうと、やることは変わらないけど。コウ、準備は?」
「五日もあれば始められるかと」
「そうか」
満足そうに、疲れたように頷いた彼に私は「カウントダウンですねぇ」とのん気に言った。
この位の短さでテンポよくいきたいと思います。お付き合いくださいませ。