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ぷるぷるクエスト  作者: 筆無精武将
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まねかれざる猫

猫とバトル。

 物流が盛んなこの地、メジハの街では、野心に燃える商魂たくましい商人はもちろん、調度支度や闘技場で腕試しといった様々な理由から、多くの冒険者や傭兵たちが各地から集まってくる。メジハの街を中心に東西南北に延びる大きな道路を進んでゆくと、北の国、東の国、西の国、南の国と呼ばれる大国につながっている。元々はこの東西南北に位置する大国の貿易品を運ぶ中間地点として、宿屋や茶屋が集まっていた小さな町だったのだが、二十年ほど前にこの物流に目を付けた時の大商人、ガッポリー一世が手腕を振るい、この小さな町の財政を一手にまとめ上げ、わずか一代でメジハの街という大都市を作り上げた。ガッポリー一世のおかげで活気づいたメジハの街は、昼夜問わず客引きで張り上げられた声や闘技場から聞こえる歓声でにぎやかである。

 そんな活気のよいメジハの街である、腕っぷしのよい荒くれモノや冒険者によるストリートファイトもこの街では定番のようなものだ。今日も例に漏れず、武器屋、道具屋が立ち並ぶ大通りの一角で野次馬の輪の中心に、冒険者らしき一人と一匹が相対していた。

「次の相手は君か。私はチーシャ。ここよりはるか東の国より海を渡り、修行の身によりこの街に立ち寄った。」

白い胴着に紺のパンツ姿、腕には白金に輝く手甲。全身燃えるような赤毛に短く切り揃えられた髪の下、金色の鋭い眼光。チーシャは小柄ではあるが他種族から見ても美しい顔立ちの獣人族である。

「僕はプルタブ。見ての通りスライム族だよ。」

「…スライム族はこのような決闘の場には顔も見せない、穏やかなやつらだと思っていたが…まあいい。尋常に勝負…」

「お金…」

「な、なんだ?」

「この勝負に勝ったら、あのお金、全部くれるんだよね?」

「…なんだそんなことか。ああ。金なんてすべてくれてやるさ。では始めるぞっ!」

 話し終わるや否や、チーシャは一瞬でプルタブとの距離を詰め、プルタブの顔目掛けて拳を突き出す。プルタブも負けじとその拳をいなすかのように木の盾で受け止め、チーシャの体に木剣を振り下ろす。すんでのところで身をひるがえし、一飛びでチーシャはプルタブとの距離を置く。

「なんでぇ、やるじゃねえか、あのスライム小僧!」「一撃で決まっちまうもんかと思ってたぜ!」

(今の兄貴は一味違うっすよ。)

やいのやいの、と観衆が騒ぐ中、ゴブリンのナッツは黙って二人の決闘を見届けている。

(あの兄貴の目は本気っすよ。なんせこの決闘には今夜のおいらたちの宿代がかかってるんすからね。)

 予想外にいい反応を見せるプルタブに驚いているのは観衆だけではない。相対している本人、チーシャもである。

(なるほど、ただのスライムではなさそうだ…あの鋭い目、あいつの信念が見えるようだ。この試合にすべてをかけて挑もうとしている、真の武士の目だ。)

 「やるじゃないか。でも、ここからが本番だよっ!」

 チーシャは軽いフットワークで右に左にプルタブを翻弄する。プルタブはチーシャの素早い動きについてこれず、相手の出方を待つしかいないでいる。

「お金…お金のために勝たなくちゃ…でもこれじゃあ反撃できない…!」

 チーシャの動きに翻弄され、プルタブに一瞬の隙が生まれた。その刹那を見逃すチーシャではなかった。

「そこっ!」

 気合いの一声と共に、チーシャは隙が生じたプルタブの左腕を蹴り上げる。プルタブの掴んでいた盾がその反動で空中に舞い上がる。さらにがら空きになったプルタブの上半身に、チーシャはとどめと言わんばかりの鋭い肘鉄をお見舞いさせた。

(もらった…!)

 チーシャは肘鉄がプルタブの胴体にクリーンヒットした確かな手ごたえを感じると、にやりと口元を緩ませた。なんだ、大したこともない。少々期待外れだったか。はるばる海を渡り、修行するまでもなかったか、と余韻に浸っているその時。

 頭上からの気配を察知して、手甲で覆われた両腕を組んで防御を固める。ガキン!と、その上にプルタブの両腕から振り下ろされた木剣が、チーシャの手甲とぶつかり合い、金属の甲高い音が周りを響かせた。

「っ!!」

 おおっ、と観衆が一瞬どよめき、途端にどよめきは歓声に変わった。間違いなく今日のストリートファイト一の盛り上がりである。その盛り上がりに反してチーシャは冷や汗が止まらなかった。…油断した。少しでも反応が遅かったら、脳天に木剣の一撃を食らい失神していた。肘鉄を当てた瞬間、あろうことか私は気を緩めたのだ。

 …許せない。何より勝負のさなか気を緩めてしまった、己の未熟さ、甘さが許せない。チーシャの焦りは次第に自分への怒りへ変わり、その怒りはチーシャの武人としての心に火をつけた。

「ふんっ!」

「! うわぁ!!」

 チーシャは木剣を受け止めた両腕を渾身の力で振り上げ、プルタブの腕をはねのけた。そしてまた一飛びでプルタブとの距離を少し空けると、きっ、とプルタブを一瞥した。

「次は、絶対に仕留める。」

 チーシャは拳を構えた。すると観衆のボルテージは最高潮となる。

「おい、またあれが見られるぞ!」「炎の拳だ!」

 観衆の熱狂で囲まれたプルタブは周りの気温が一気に上がるのを感じ取った。いや、観衆のせいだけではない。見ればチーシャの拳がかすかに揺らいで見える。蜃気楼だ。チーシャの拳から熱気が発せられている。

「秘爪、紅蓮獅子(ぐれんじし)!」

 チーシャの拳が炎に包まれる。突然の出来事に呆気を取られたプルタブをよそにチーシャは一気に距離を詰め、炎をまとった拳でプルタブを殴りかかる。

「あぶないっす、あにき~!」

 ナッツの一声で正気にもどるプルタブ。

「う、うわっ!」

と咄嗟に木の盾でチーシャの拳を受け止める。なんとかクリーンヒットを免れたが、ほっとするのも束の間、ぷすぷすと音を立て木の盾が黒い煙をあげ始めた。

「あちっ!熱い熱い!!」

 プルタブはたまらず盾を投げ捨てた。盾の炎の勢いは止まらず、すぐに灰と化してしまった。

「もう君を守るものは無くなったね。今度こそこれで、終わりだよ。」

チーシャが拳を再度構える。

「どうだい、ここで降参するなら私は君に手を出さない。痛い思いはしたくないだろう?降参しないなら、私は手加減はできないよ。」

チーシャの目は本気だ。あの炎の拳をもろに食らえば全治数週間は下らないだろう。

「うう、ど、どうすれば…」

 ここで負けを認めるか、しかし、今夜の宿代はどうする?光ある所に闇があり。昼間には往来も多く盛り上がりを見せるここメジハの街では、夜になると窃盗やひったくりの事件も起こりやすい。そんな街中で野宿などしようものなら、なけなしの財布の中身はもちろん、身ぐるみ一式剥がされてしまうだろう。ここでなんとかチーシャに勝ち、あの賞金をもらわないことには…

 炎、炎だ。炎さえ何とかすればあとは僕自身の打たれ強さでカウンターを叩きこんで勝てる。問題はあの炎をどうやって消して、なおかつ相手の攻撃の後隙をどうやって作るかだ。さっきは相手の油断を誘ってうまくいったが、二度は通じないだろう。どうしよう…水、水かなんかがあれば…

 …水?はっとするプルタブ。そうだ、あるではないか。炎を消し、なおかつ相手の攻撃の後隙を作る唯一の手が。

「さあ、どっちか選びなよ。どのみち君の敗北は決まってるさ。さあ早く!」

 チーシャの催促の言葉に、プルタブは黙って両手で剣を構えて応えた。プルタブはまだ、戦う意思はある。

「!玉砕覚悟…最後まで戦うつもりなんだね。気に入ったよ、私も渾身の一撃で君の気持ちに応えてあげるっ!」

 ダッ、とプルタブに向かって突進するチーシャ。拳を引いて渾身のパンチをお見舞いするつもりだ。突進するチーシャに向かってプルタブは大きく両手を頭上に掲げる。諸刃の剣である。カウンターを狙うため、プルタブの胴体はがら空きだ。

「これで、終わりっ!!」

 チーシャは構わずプルタブに拳を叩きつける。プルタブがカウンターをする前に、彼を沈める自信がチーシャにはあった。渾身の炎を一撃を今、プルタブに叩き込み、その拳はプルタブの体を“貫いた”。

 一瞬何が起こったのか、チーシャも観衆も理解できなかった。チーシャの炎をまとった拳がプルタブの、ヒト族で例えると鳩尾あたりを貫き、チーシャの拳はプルタブの体に包み込まれてしまった。正気に戻ったチーシャは、

「き、君!大丈夫か!?今手を抜いて…。!ひぃ、手、手に液体がまとわりついて、背、背筋がぞっとするぅ!!」

 プルタブのみずみずしい、というかほぼ水分で構成された体に包まれたおかげで、チーシャの拳をまとっていた炎は一瞬で消え去った。そして、プルタブの体で手を拘束されたチーシャに向かって、プルタブは振り上げた両手をチーシャの頭目掛けて…

   がつん!

「ふにゃっ!」

 手をプルタブの体に突っ込んだまま、チーシャは頭に木剣の平らな面で叩かれ気絶した。沸き上がる歓声の中、ナッツがプルタブにかけ寄ってくる。

「ナッツ君…」

「あにき~!やったすね!いや~、やっぱあにきはすごいっす!これで今夜もふかふかのベットで寝れる…あにき?」

 チーシャの拳を体に突っ込んだまま、プルタブも気絶してしまった。



 メジハの街のとある病院の一室でプルタブとナッツとチーシャが話し込んでいた。あの決闘の後、気絶した両人を観衆たちが抱えて最寄りの病院へ運び込んだ。いくら打撃耐性があるとはいえ、体に炎を拳を突っ込んだのだ。数日は安静にしておくようにと医者にくぎを刺された。チーシャは軽い脳震盪だそうだが、大事をみて、こちらも数日病院でお世話になるそうだ。

「私の完敗だよ。お金は全部君に譲ろう。とはいっても、私の入院費ぐらいは残しておいてほしい。」

 ベットの上でチーシャはプルタブとナッツに微笑みを向けていた。決闘で負けたことは悔しかったが、それ以上にこれほど心躍る決闘はなかったという。賞金に関してチーシャは快く受け入れてくれた。

「私もまだまだ修行が足りないことが分かった。これからも精進していくよ。」



「ああ~、体ががちがちになっちゃったよ。」

「スライムなのに肩こりとかになるんすか?あにき?」 

数日後、退院したばかりのプルタブとチーシャは、ナッツと共に病院の前にいた。

「む、言葉の綾だよ。体がなまっちゃう、ってことだよ。」

「じょ、冗談っすよ、あにき。機嫌直してくださいっす。」

「ふふっ」

プルタブとナッツとやり取りに笑みを漏らすチーシャ。彼女もすっかり元気になり、無事プルタブと同じ日に退院することができた。

「な、なんすか?」

「いや、君たちといると飽きないな、と思ってね。」

「…チーシャはこれからどうするの?」

「これまでと同じく、修行に明け暮れるさ。ただ今度は今までよりも楽しい日々になりそうだ。」

「?よく分らないけど、頑張ってね。じゃあ、僕らはとりあえず武器屋で装備を新調しようか。じゃあ、チーシャ、僕らはここで…」

「さよならっす!チーシャの姉さん!」

 プルタブとナッツは武器屋に足を向けた。大金を手に一匹と二人は意気揚々と歩いていく。

「…チーシャ、なんで僕らと同じ方向についてくるの?」

「ど、どうしてって、私、一文無しになっちゃたから、その、できれば君たちといっしょについて行ければなあ、と…」

「だってお金は全部くれるって言ったじゃないっすか!」

「お、お金はくれてやるとは言ったが、私がついていかないとは言ってない!」

「そんなぁ、聞いてないよー!」

 大通りの朝を走る一匹と一人。それを追いかける新たな仲間の一人。これまでより、より楽しく、騒がしい日々になりそうだ。

猫ちゃんが仲間に加わりました。最初は雑魚モンスターパーティーを作りたかったけど、ヒロイン枠が思いつかなかったので猫ちゃんを出しました。仲間に関してですが、最初の街で最終パーティーを作ってからた旅に出ます。あと二人ほどを予定してます。早く旅に出してあげたいなぁ。

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