1-3 おけらモンスター
お金を稼ぎましょう。
「こまったね。」
「こまったっす。」
ここは「交易の街 メジハ」。各地方への交通の要所であり、様々な種族のものたちが集まるこの地では物流が目まぐるしく、また商業都市としての一面も見せるにぎやいだ街である。そんな活気あふれる街の中、浮かない顔をして大通りを歩く二匹のモンスターの姿があった。勇者志望のスライム、プルタブと、料理人志望のゴブリン、ナッツである。
「お金…どうしようか。」
昨日の酒場でのどんちゃん騒ぎのあと、酔いどれ気分で宿屋に戻った二匹であったが、翌朝チェックアウトの際に財布の中身を見た二人は顔を青ざめた。なんとか一宿のお代を払うことはできたが、今の二人はほぼ無一文の状態である。
「昨日の酒場でやけ酒しすぎたっす…。」
「僕もこの街に来てから装備品と個人素質認定テストを受けてすっからかんだよ…。」
「こうなりゃ闘技場にでも行って一稼ぎするっすか?」
「…今の僕たちならものの数秒で経験値にされちゃいそうだけど…。そうだ!ナッツ、君の料理を売ってみたらどう?料理には自信あるんでしょう?」
「ダメっす!おれっちみたいな半人前の料理人が店を構えるなんて!…それにここら辺はちゃんと役所のほうに申請許可を出してからじゃないと、屋台も出すことはできないっすよ。」
「そうかぁ。だけどせめて今日一日分の宿屋代は出せるようにしないと、僕たち今日は野宿だよ。」
「野宿はまずいっすね…昨日の冒険者みたいに乱暴な人もいるっすから、身ぐるみ全部はがされるだけじゃすまないかもっすよ。」
「とにもかくにもまずお金だね…」
はあ~、と大きなため息をつくプルタブ。冒険者たるもの、ギルドのクエスト報酬で生計を立てたいものだが、こちらはたかが一般のスライムとゴブリン。もちろん近隣の村を襲う盗賊団の退治や、ましてお国から直々にお触れが下されているドラゴンの討伐など、到底無理な話である。ともかく、どうにかしてお金を稼がなくては。闘技場はどうだ?いやいや、屈強な傭兵とスライムの対決など結果は目に見えている。カジノは…?それこそご破算街道まっしぐらではないか。何か、何か…とプルタブが思案に耽っていると、
「「うおおおぉぉぉーーーーー!!!」」「「やっちまえーーー!!!」」
と何やら耳をつんざくような歓声が沸き上がる。一体何だとあたりを見渡すと、大通りの一角に大きな人だまりが出来上がっている。どうやらその歓声の行き先は、その人だまりの中心に向けられているようである。
「すごい盛り上がりっすね、兄貴。」
「そうだね。中で何をやってるんだろう?ちょっと聞いてみよっか。」
プルタブとナッツは人だまりの端のほうに近づき、その中心で行われている何かを見守っている一人の男に声をかけた。
「あのう、すみません。」
「ん?なんだい、スライムのあんちゃん。あんちゃんもこの喧嘩見に来たってか。」
「喧嘩?」
「おうよ、見てみろよ。あの猫の嬢ちゃん、なかなかの凄腕だぜ。」
と男が指をさした先には、猫の亜人の少女と、格闘家の風貌をした男とが相対してた。先に仕掛けたのは亜人の少女。すばやいフットワークで相手の格闘家の男の懐に飛び込もうと試みたが、男も即座に反応して砂埃を舞わせながらの足払い。しかし少女はすんでのところで男の足払いを飛び越え、大きくジャンプした。男は頭上に目をやるが、少女は太陽を背に男の頭上を取っていた。男が太陽の光に目をくらませたその一瞬の出来事だった。
「ハアッ!」
と少女の気合いの掛け声と同時に、男の脳天に渾身のかかと落としがさく裂した。倒れる男の後ろにふわりと着地を決め、こぶしを上に掲げる猫の亜人の少女。すると、またしても彼女を囲っている無数の人だまりから、割れんばかりの拍手と歓声が挙がった。
「まーた勝ちやがった!これで14連勝じゃねえか?今日はいいもん見れて気分がいいぜ!」
「うわあ、お強いですね彼女…けど一体なんのためにこんな道端のど真ん中で試合をしているんですかね?」
「ああ、なんでも嬢ちゃんは武者修行の旅だとかで、でっかい街に旅してはその場で猛者たちと戦って腕を磨いているんだと。で、勝った相手から賞金をいただいて、それを路銀にしているってわけだ。」
「路銀?」
「おうよ。一戦500Gで対戦相手を募ってるらしいぜ。今14連勝目だから7000Gは稼いでいるんじゃねえか?」
ほらよ、と男が顎でしゃくった先には、使い古された金属鍋の中にたんまりと積まれたゴールドの山が築かれていた。
「な、7000Gも…!」
「ああ、一日で7000Gも稼ぐだなんて、一流の冒険者でもなきゃあできないぜ。」
「う、羨ましいっす…」
「なんだ、二人とも金は入用ってか?…へへっ、そんなお前たちに朗報だぜ?なんと、彼女に勝つことができれば、今彼女が稼いでいる分の金をすべて寄こしてくれるそうだ。」
「「!?」」
「嬢ちゃん曰く、『私は金稼ぎにこぶしをふるっているのではない。この大金が欲しければくれてやる。私に勝ちさえすればな。』だそうだ。豪気なこったぜ。まあ、嬢ちゃんは武者修行の旅の途中らしいからな。あの稼いだ金はさしずめ、より強いやつをおびき寄せるための餌ってこった。…で、どうだい?あんちゃんたちも挑戦してみるかい?がっはっは!ちょいと厳しい話だったか、あんちゃん達には!まあそうだろうな、見たところあんちゃんたちは普通のスライムにゴブリン…あり?どこ行った、あんちゃん達?」
「「新たな挑戦者が現れたぞーーー!!!」」
その大歓声の渦巻く人だまりの中心には、ただのスライムが一匹、格闘猫少女に相対していた。…いつになく目をぎらぎらと光らせながら。
猫少女と対決は次のお話。ちょっと短くなりそう。




