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ぷるぷるクエスト  作者: 筆無精武将
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1-2 似たもの同士

「申し訳ありませんが、お客様は勇者登録に必要な条件が満たされておりませんので、申請書を受理することができません。」


 ここは「交易の街 メジハ」。ヒト族、いわゆる人間や亜人族、果てはモンスターまでと、姿かたち関係なく多くの種族が旅支度を整えたり、あるいは観光目的で訪れたり、あるいはこの地で一山当てようと夢見、商売を始めようとするなどそれぞれの理由でこの街に集まってくる。東西南北の各地方から多種多様な種族が集うこの地では、酒場や宿屋、歓楽街などが並び立ち、商業都市としてその名を大陸に響かせている。そして街の中でも特に人通りの多い大通り沿いに所狭しと並ぶ建物の中、ひときわ大きなレンガ造りの建物、冒険者ギルドの中の勇者登録受付のカウンター前にて、一匹のスライムの少年、プルタブが唖然とした顔で突っ立っていた。


「え?ゆ、勇者登録ができない?な、なんで?もしかして申請書に記入漏れがあったとか…。」

「いえ、記入漏れはございません。しかしお客様は勇者認定に十分な功績や素質を証明するものをお持ちではありません。勇者登録には、勇者登録申請書にお客様ご負担となります受付料1000G、そして凶悪な魔物討伐などのご本人様の実績を証明できる報告書、あるいは勇者認定に十分な素質を備えている証明となります証明書が必要となります。お客様の場合ご本人様の実績を証明できる報告書、あるいは素質証明書がございませんので勇者登録申請書を受理することができません。」


 口をぽかんと開けたままプルタブは受付嬢の言葉を頭の中で整理していた。いちスライムの脳みそはこれほどの多くのタスクを処理するに適する造りになっていないのである。なんとか受付嬢の言葉の意味を理解しプルタブは生唾を飲み込み、再び口を開けた。


「じゃ、じゃあその報告書やら素質証明書やらはどこで…?」

「はい、実績報告書は冒険者ギルドで発行されております、凶悪魔物討伐の依頼書を受理していたただき、魔物討伐後にて当ギルドから実績報告書を発行いたします。素質証明書はしかるべき施設にて個人素質認定テストをお受けいただくと発行されます。もしお急ぎのようでしたら当ギルドでも個人素質認定テストのサービスを行っております。その場合こちらの書類にサインしていただき、別途料金にて500Gお支払いいただくことになりますが…。」

「!う、受けます!そのテスト受けます!」

「ありがとうございます。ですが前もってご注意のほど確認しておきますが、個人素質認定テストを受けたからといって勇者登録ができるかどうかはまた別となっております。あくまでお客様個人にどのような素質がおありなのかを認定するのみとなりますのでご了承ください。」

「は、はい!勇者になれる可能性があるのならなんでも…!」



 人通りの多い大通り沿いではもちろん商売目的に多くの飲食店が利益を出そうとせめぎ合い、連日その賑わいは衰えるそぶりを見せようとしない。今日もまた例外ではなく、真昼間にも関わらず酒場ではジョッキが運ばれ酒が振る舞われ、客引きたちが声を張り上げ通行人の足をとどめてようと熱心である。そんな活気に包まれている大通りの中、とぼとぼと下半身を引きずらせながら当てもなく歩いているプルタブの姿があった。その手には何やら一枚の紙を握られている。


「はあ~。まさか勇者になるのがこんなに難しいことだったなんて…。おとぎ話とか空想の世界では簡単になれるのになあ…。」


 勇者申請書受理のために冒険者ギルドにて個人素質認定テストを受けたプルタブだったが、その結果はあまり芳しいものではなかった。その素質証明書にはプルタブのステータス情報とともに個人の特性を示す欄に短い文章が書き込まれていた。


『斬撃、打撃耐性有り。ごく一般的なスライムよりは打たれ強い。』


 これだけ。他に一切の記載はない。つまりはプルタブはごく一般的なスライムよりも少しだけ、ほんの少しだが打たれ強いという事実が、500Gを支払うことで明るみとなったのである。さらに明るみに出た事実がもう一つ、個人素質記入欄の下に真っ赤な判子で、


『勇者認定不可』


 と非情な6文字が押されてた。

 個人素質認定テストで勇者と認定されるには、一般人よりも尖った特殊技能が求められる。例えば魔法に対して才能が秀でてているとか、剣技やら格闘術やらの経験値が豊富だとか、とにかく一般人とはここが違うというすばらしい能力が必要となるのである。たかだか少しだけサンドバック気質の持ったスライムでは勇者認定は下されないのである。


「はあ~。なんかいろいろあって疲れたな…。近くの酒場にでも入って食事でも取るかな…。」


 プルタブはため息交じりに賑わいを見せる一つの酒場、「猫又 またたび」という看板の下をくぐった。 酒場の中は人間や亜人族、モンスターがいっしょになり同じテーブルを囲み酒を飲み交わしている。プルタブは込み合った店の中をかき分け、隅の方にテーブルの席が一つ空いているのに気が付いた。席の向かいにはジョッキを片手にうなだれているゴブリンの少年が座っている。


「あの、相席いいかな?」


 プルタブはゴブリンの少年に声をかける。


「あ~…いいっすよ~…。」


 ゴブリンの少年は少し酔っているのか、気だるそうに返事をしてきた。ゴブリンの少年は赤い三角帽子を目深にかぶり、腰には小さいながらも立派なナイフをひっさげている。冒険者のようではなさそうだが、プルタブと同じ何か目的を持ってこのメジハに来たのだろうか。


「あ、お姉さん、このダークベリーの果実酒、水割りでお願いします。」


 プルタブは猫の亜人のウェイトレスに注文をすると、向かいのゴブリンの少年がどうにも気になって声をかけた。どうも自分と同じ境遇というか同じ雰囲気を醸し出しているように感じたからである。


「こんにちは。僕はスライムのプルタブ。勇者登録をしようとこの街に来たんだけど、どうやら今の僕では勇者になれないらしくて…。何もすることがなくなったんでこの酒場に来たんだけど、君も何か目的があってこの街に来たの?」


 プルタブが話しかけると、ゴブリンの少年は目を見開いてプルタブを見つめ、話し始めた。


「スライムのお兄さんも困ってるみたいっすね。実はおれっちは料理人志望でして、とある料理人集団のところに弟子入りを願い出たんすが、弟子入りの条件に出されたハードルが高すぎてどうしたもんかと悩んでたところなんすよ…。”料理人集団 ベルゼブブ”っていうところなんすけど…。」

「ベルゼブブ?」


 ”料理人集団 ベルゼブブ”とは古今東西あらゆる魔物を自分の手で狩りとり、そしてそのまま調理して食べ尽すという、魔物料理専門の武闘派料理人集団のことである。最近では昆虫型の魔物の料理方法の可能性を探っているらしく、武闘派料理人とともに料理研究家としての一面も併せ持っている。そのショッキングな料理材料から巷では"ゲテモノ集団"なんかと呼ばれているらしい。


「そっか、君も大変なんだね…。なんか僕たち似たもの同士みたいだね。」

「そうっすね。おれっちみたいな境遇のお方が他にもいるなんて、世間は意外とせまいっすね。あ、おれっちはゴブリンのナッツ。お兄さんとは気が合いそうっす!」


 などとプルタブとナッツが話していると、プルタブ達の一つ後ろのテーブルが何やら騒がしい。


「や、やめください、お客様!」

「へへへ、いいじゃんかウェイトレスさん。少しくれぇよ~。」


 背が高く、いかにもガラの悪そうな顔つきの人間の冒険者が酔った勢いそのままに、猫又のウェイトレスにちょっかいを出しているようだ。冒険者はウェイトレスの腕を握って離そうとしない。


「はなして!」

「うおっ!」


 余りにしつこく絡んでくる冒険者に向かってウェイトレスが力いっぱい突き飛ばした。酔っていたこともあり、突き飛ばされた衝撃と同時に冒険者の足はもつれ、カウンターの椅子へとガシャンと大きな音を立てて倒れ込んだ。


「いってえな、このアマァ!」


 倒れこんだ痛みに怒りに身を任せて、冒険者は山ほど料理の盛られたテーブルを蹴り倒し、腰に提げている鉄の剣を抜き血走った眼でウェイトレスをとらえ、ゆっくりと差し迫ってくる。ウェイトレスはあまりの恐怖に腰を抜かし、他の客も冒険者の抜きはなった剣によって迂闊には行動できないようである。

 もちろんプルタブも他の客の例に漏れず、どうしようもなくテーブルの裏側で身を隠すように一連の騒動を見守っていた。


「うわああ、ナッツくん、た、大変なことになったよ。あのウェイトレスさん殺されちゃうかも…。…ナッツくん?」


 プルタブがナッツに話しかけようと後ろを振り向くと、そこにいるはずのナッツがいない。どこに行ったのかと見まわしたが、ナッツの居場所は冒険者の怒号によって明らかになった。


「なんだぁ、お前ゴブリンの小僧?」


 見るとウェイトレスの前に冒険者に相対しているナッツの姿があった。


(ナッツくん、なんでそんなところにいるの~!?)


 プルタブが心の中で叫ぶが、そんなことにお構いなしに冒険者はナッツに向かって剣を向ける。


「よおよお、ゴブリンの小僧、いっちょまえにねえちゃんを守って英雄気取りか?さっさとどかねえとこの剣でブスリとお前の脳天に…」

「今、料理を台無しにしたのはお前っすか?」


 は?という顔をして冒険者はナッツの言葉に首を傾けた。


「?何言ってんだおめえ。」

「さっきテーブルを蹴ってせっかくの料理を床にぶちまけたのはお前か、と聞いてるんす。」


 確かに先ほど冒険者が蹴ったテーブルの上にあった料理は、見るも無残に床に散らばってしまっている。


「料理は料理人がお客様に喜んで食べてもらうために、魂を込めて作るものっす。一言おいしい、と言ってもらうために日夜料理人は努力してるっす。それをお前は、丹精込めて作られた料理を足蹴にして台無しにしたっす。お前は料理を楽しみにしているお客様と、それを作った料理人の気持ちを踏みにじったっす!料理を大事にしないやつは人間の屑っす!ここから出ていけっす!」


 ナッツが冒険者に向かって怒りの言葉を吐き捨てた。冒険者は一瞬面くらったようだが、「屑」という言葉に反応したようで、すぐに顔を真っ赤に声を張り上げ、


「上等だこのガキ!そんなに料理好きなら今すぐお前の頭をこの剣でミンチにしてやるよ!」


 とナッツの頭上に向けて剣を振り下ろした。


「危ない!」


 とプルタブは叫んだが、振り下ろされた剣はナッツにはあたらなかった。ナッツは剣が振り下ろされると同時に前転し、冒険者の足元へともぐりこんだ。そして冒険者の足に向かって渾身の蹴りをお見舞いした。


「いてえ!」


 冒険者はまだ酔いが醒めておらず、蹴られた勢いでその場にズドンと倒れ込んだ。ナッツはウェイトレスのほうに振り返り、


「今のうちに逃げるっす!」


 と叫んだ。が、その隙を付いて冒険者は長身の姿からは予想だにできない速さで立ち上がり、ナッツに向かって突撃し剣を振りかざす。


「死ねや、ゴブリン風情が!」

「!やばいっす!」


 剣はまっすぐナッツに向かって振り下ろされた。ナッツは目をつぶり、死を覚悟した。しかし、剣が振り下ろされたにも関わらず、体のどこにも痛みは感じられない。それどころか、剣が振り下ろされた瞬間、体中にひやりとした冷たい液体のようなもの覆われて、ある種の心地よさを感じた。ゆっくり目を開けてみると、プルタブがナッツの上に覆いかぶさり、冒険者の剣からナッツを庇ってたのだった。


「うう~、だ、大丈夫ナッツくん?」

「なんだおめえは、つうかなんで剣が効いてねえんだ!」


 確かに剣はプルタブの体を切り裂いたが、液体状の体でできたプルタブの体は、ぷるんと一揺れしたかと思うと、切り裂かれた箇所が閉じてゆくのだった。それに、


「ざ、残念。僕は通常のスライムより丈夫らしいですからね。」


 と得意そうにプルタブは言ってのけた。呆然としている冒険者に向かって、「それ今だ!」と声がしたと同時に他の客達が冒険者を押さえこんだ。冒険者は一通り客達に手痛い報復に会った後、メジハ治安維持局の兵隊たちに連れてゆかれ、酒場でのひと悶着はこれにて一段落とあいなった。



「いやあ、それにしても兄貴にはほんとに命を救われたっす!命の恩人っす!」

 

 酒場でのひと悶着の後、プルタブとナッツは店員と他の客達から感謝され、盛大に料理と酒が振る舞われた。パーティーは夜まで行われ、プルタブ達が解放された頃には月が空の真上で大通りを照らしていた。そこから宿屋へと帰る道すがら、プルタブとナッツが話していた。


「ナッツくん大袈裟だよ…あと兄貴は勘弁してよ。恥ずかしいから。」

「なに言ってんすか!兄貴が庇ってくれなかったら今頃おれっち、船盛りみたいに頭が切り離されたところっすよ!」

「そ、そうかな~。まあナッツくんが無事で何よりだよ。」


 プルタブがまんざらでもなさそうに照れ隠ししながら話していると、ナッツは突然真剣な面持ちでプルタブを見つめて、話し始めた。


「兄貴、おれっち考えたんすけど、おれっちを兄貴の旅にいっしょに連れてってくれませんか?」

「え?ええ!?」


 プルタブは素っ頓狂な声をあげてナッツの方を見るが、ナッツは真剣そのものである。


「兄貴は勇者になるために何かしら手柄を立てなきゃいけないんすよね?おれっちも弟子入りの為に指定された魔物を狩りに行かなきゃなんないっす。けど、今のおれっちにはその魔物を倒すだけの経験値が足りないっす。そこで、兄貴は手柄を立てるために魔物を討伐して、おれっちは兄貴の手伝いをしながら経験値を稼ぐ!どうっすか?お互いにとってもいい話だと思うんすけど…。」

「…うん。いいかもしれない。けどほんとに僕なんかについて来ちゃっていいの?」

「もちろんっす!おれっち、兄貴が助けに飛び出してくれたその時から、兄貴のハートに惚れたっす!兄貴はスライム中のスライムっすよ!それにおれっちも駆け出しとはいえ、料理人の端くれ。旅中の料理はおれっちに任せてくださいっす!」

「うわあ、それは楽しみだな!じゃあこれからもよろしくね、ナッツくん!」

「はいっす!」


 かくして、一匹のスライムに一匹のゴブリンが仲間に加わった。これは立派な勇者を目指す一匹のスライムと、一流の料理人を夢見る一匹のゴブリンの物語である。

さっそくキャラ追加。次は女の子を追加したい。

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