近鉄特急 ④
近鉄編これにて終了!
「昭和63年に登場した特急「アーバンライナー」こと21000系電車は、性能的に言えばそれまでの電車の延長線上にある車両だったけど、外観が一新して強烈なイメージを人々に与えたんだ。それまでの近鉄の特急電車にはない流線型の車体に、色もそれまでの車体がオレンジで紺色の帯から、車体全体はクリームでそこにオレンジの帯が入ったそれまでにないものだった」
「確かに、今までの電車とは全然違いますね」
桜が見せられた写真を見て、云々と頷く。それほどまでに、デザインがそれまでの車両とガラっと変わっていた。
「この「アーバンライナー」が登場した後、つまり時代が平成になると、近鉄の特急電車は飛躍的に発展していったんだ。「アーバンライナー」と同じ流線型で狭軌の吉野線用特急の26000系「さくらライナー」、汎用型ながらデザインと車両の機器を一新した22000系ACE、「アーバンライナー」と同じ流線型ながら伊勢への観光特急として造られた23000系「伊勢志摩ライナー」そして「アーバンライナー」の増備車で時代に合わせた設計がなされた21020系「アーバンライナーnext」と言った新型車が続々とデビューしたんだ。これらは今でも第一線の主力車両になってるよ。そしてこれらの特急が、毎日2府3県を走ってるんだ。近鉄が作り上げた特急ネットワークは、大きく花開いたってことだね」
「スゴイ!最初は大阪と名古屋だけだったのに、本当に大きくなったんですね」
「一方で、近鉄の特急は今も変化を続けているよ。例えばかつて行われていた名阪ノンストップ特急は2012年に廃止になってる」
「ええ!?何で止めちゃったんですか!?」
伊勢湾台風からの奇跡の復旧をやってまで走らせたノンストップ特急をやめてしまったことに、桜は驚きを隠せない。
「途中まったく止まらないことよりも、停車することで乗客の利便性を優先したってことだね。これまでのようなサービスだけではダメってことだよ。2010年代はそれが顕著になったけど、特に大きいのが鉄道の役割が変わり始めたことなんだ」
「鉄道の役割ですか?」
「うん。鉄道の役割はなんと言ってもお客さんを運ぶこと。つまり、輸送機関たる交通機関であること。それがこれまでの常識だったね。でもそれだけでは鉄道がやっていけない時代に突入したんだ。少子高齢化に突入して人口が減っていくとなれば、通勤や通学目的で乗る人も減っていくことになる。加えて道路網はますます便利になって、人がさらに車に流れてしまう。だから各鉄道は生き残るために、交通機関としてだけでなく、路線や走らせる列車の価値を高めて、列車に乗ることそのものを目的としたお客さんに来てもらう必要も出てきた」
「列車に乗ることを目的に?」
木藤は頷く。
「そう。単なる移動手段としてではなく、その列車に乗りたいと思えるような列車を投入する。最近は特にJR九州ががんばってるね。次々と観光列車を投入しているけど、あれも乗ること自体を楽しむ列車だから」
「あ!ニュースで見ました。1回乗るのに何十万もする豪華列車ですよね?私も一度乗ってみたいです。でも、庶民じゃ夢のまた夢ですよ」
「近鉄が造ったのは、そこまで敷居の高い列車じゃないね。その名も50000系「しまかぜ」。志摩に流れる風のごとく、青と白の流麗な車体が美しい電車だよ」
「うわ~!確かに綺麗ですね!」
「これまでの特急車は基本的に全線の特急に充当される汎用車だったけど、この「しまかぜ」は文字通り「しまかぜ」という1日1往復だけ名古屋と大阪、京都から走る観光特急のみに使われる特別な車両だったんだ。それを証拠に、車両の定員が大幅に減ってその代わりに軽食がとれるビュッフェ車に本革を使用したプレミアムシート車が連結されているんだ」
「聞くだけで豪華そうですね」
「でもななつ星とか、瑞風みたいな豪華寝台特急のようにべらぼうに高いわけじゃないから。もちろん追加料金はとられるけど、ちょっとした贅沢と思えば、庶民でも出せる範囲の値段だよ。同じような電車に2016年に登場した16200系「青の交響曲」があるよ。こっちは通勤型電車からの改造車だけど、内装は観光特急に相応しい豪華なものになってるんだ。この電車は阿部野橋と吉野の間を走ってるよ」
「へえ~。どっちも乗ってみたいです」
「だったらお父さんとお母さんにねだってみたら?伊勢か吉野旅行に行きたいとか言って」
「あ!いいかもです!なんだか先輩と話してたら、電車で旅行に行きたくなってきちゃいました」
「だったら精一杯楽しんでおいで・・・あ、あと」
「あと、何ですか?」
「ちょっとでいいから、乗っている時にはその路線や車両について想いを馳せて欲しいな。その路線の歴史や、車両の歴史とか。それがあると、また旅も違った視点で見えてくると思うよ」
「・・・はい、そうします」
「それじゃあ、今日の活動はここまでにしようか」
「お疲れさまでした、先輩」
「お疲れ様」
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