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近鉄特急 ①

 前回までは近鉄名古屋線だけに焦点を当ててきましたが、今回からは他にも話題が飛ぶのでサブタイトルを変更しています。


 

「さて問題。昭和39年、つまり1964年の10月10日に始まった戦後日本を上げての大イベント。それは何でしょうか?」


 木藤が桜に問題を出す。


「ええと、1964年の10月ですか・・・何でしたっけ?」


 思い出そうとしたが、桜は早々にギブアップした。


「ヒントは、2020年に2回目が開かれるよ」


 ヒントを聞いて、さすがに桜もわかった。


「あ!東京オリンピックですね!」


「正解。そしてその東京五輪に合わせて10月1日に開業したのが、世界の鉄道の歴史を変えた新幹線なんだ。東京~新大阪間を最高速度200kmで走る夢の超特急。当時自動車や航空機の台頭で鉄道は斜陽産業、つまり未来に期待できない産業とすら言われたけど、この新幹線の開業を機に世界中で高速鉄道が開通するようになって、その空気を払拭したんだ・・・と、今回の本題はそこじゃないけどね。で、この新幹線の開業は近鉄特急にも大きな影響を与えたんだ」


「それは、やっぱり悪い意味でですか?」


 話の流れ的にそう察した桜。


「その通り。新幹線が開業したことで、名阪間の輸送にとつてもないライバルが現れることとなったんだ。今もそうだけど、近鉄特急で名古屋から大阪の間は最速で大体2時間ほど。それに対して新幹線は半分位の時間で結べるからね。しかも当時は今ほど国鉄と近鉄の間に運賃の差がなかったから、自然と乗客は新幹線に流れてしまい名阪特急、特に停車駅が少なくて最速で結ぶ甲特急は大打撃を受けたんだ」


「うわ~。直通してからたった5年でですか?」


 台風の大被害から世紀の大工事を経て復旧したのに、たった5年しか天下がとれなかったことに、桜も憐みを感じずにはいられない。


「世の中変化する時はめまぐるしいからね。名阪特急、特にノンストップで最速で走る甲特急はこれで大打撃を受けて、一時は2両編成で運転するまでに落ち込んじゃうんだね」


「2両て。短か!」


 田舎をトコトコ走る電車を想像してしまう桜。


「ちなみに、同じ名阪特急でも停車駅の多い乙特急の方は乗客が増えたらしいよ。速度は遅くても、こまめに乗客を拾える電車の方が受けたわけだね」


「皮肉ですね」


「だけど近鉄がえらかったのは、とにかく名阪甲特急を残したことだね。廃止すると復活させるのに苦労するもんだけど、とりあえず残しておけば、規模を拡充するのも容易だから。それからもう一つ、近鉄は発想の転換をしてその新幹線を利用したんだね」


「と言うと?」


「確かに新幹線と並行する名阪甲特急は大打撃は受けたけど、近鉄は名古屋と京都でじかに新幹線と接続したんだ。特に京都からの路線はそれまで奈良電鉄、通称奈良電ていう別会社だったのを、新幹線の開業前年に合併して、近鉄の京都線にしたんだ。これで近鉄は新幹線で京都まで来た乗客を有名観光地である奈良や橿原神宮に輸送可能になった。また名古屋まで来た乗客を、伊勢方面へも流せる。つまり、新幹線との競合ではなく、協調と言う新たな形を採ったんだ」


「なるほど」


「それで京都と奈良、それから橿原神宮を結ぶいわゆる京奈と京橿特急に投入されたのは、名阪特急のような新造車じゃなくて、皆奈良電出身の改造車だったんだ。何でだと思う?」


「え?う~ん・・・お金をケチったからとかですか?」


「まあ、そういう面もあったんだろうけど、一番大きな問題だったのは車両限界」


「車両限界?」


 新たなキーワードに桜が首を傾げる。


「車両限界て言うのは、車体の幅や高さ、長さとかの限界のこと。奈良電は開業時から近鉄と乗り入れしていて軌間こそ1435mmだったけど、車両限界は小さくて、当然車体は小さい車両しか入れない。だから名古屋線や大阪線用の大型車はまだ入れなかったんだ。もちろん、車両限界を大きくする工事には着手したけどそれだって何年も掛かる。また架線の電圧も京都線は600ボルトで、1500ボルトの大阪線や名古屋線より電圧が弱かった。これも昇圧する必要がある」


「面倒ですね」


「面倒だけど、統一しないと齟齬が大きいからね。と言っても、それだって一朝一夕にはできない。でも、乗客はすぐにでも運ばなきゃいけない。だからそれまで食いつなぐ策が必要となった。それが奈良電時代の電車を特急車に改造するってことだったんだ。幸い奈良電時代にも料金不要の特急はあって、特急用の電車はあったから、種車はすぐに確保できた。その車両に冷房載せて、トイレ付けて、座席を良くして、塗装も変えて急ごしらえの特急電車、680系にしたんだ。満を持した名阪特急に比べると、急ごしらえ感満載だったわけ」


「で、どうなったんです?」


「これが近鉄が当初想定した以上の大当たり。大人気過ぎて増発が重ねられたんだけど、そのせいで車両が不足しちゃった。だって用意した特急車の680系が2両2本の4両しかなかったんだから」


「たったの4両!?」


 人気観光地を走るのにそれだけと、桜は思わずにはいられなかった。


「一応予備車は用意してあったんだけど、683系ていうその車両はクーラーなしの吊り掛け車で、その予備の683系をフル回転しても足りないから、ついに一般の普通電車まで特急に投入するって事態になったみたい」


「うわ~・・・ところで先輩」


「何?」


「吊り掛け車て何ですか?」


「ああ、それ説明しなきゃいけなかったね。僕もそこまで機械に強くないから簡単にしか説明できないけど。吊り掛け式ていうのは、モーターの駆動方式のことだよ。電車を走らせるモーターは当然台車に付いてるんだけど、このモーターを車輪の軸、つまり車軸に載せた方式が吊り掛け式ていうんだ。構造が簡単で、明治時代から使われている方式だよ。ただ欠点として音と振動が大きいのと、加速性能がとにかく悪いんだ。オマケに重いから線路にも悪い」


「ええ~!悪いこと尽くしに聞こえますけど」


「でもさっき言ったように構造がシンプルだから、使い方次第では便利な方式だよ。現に今でも電気機関車や路面電車には吊り掛け式がまだ残ってるし、スペース的にカルダン駆動に出来ない軽便鉄道の車両もそうだね。でもさっき言った通り普通の旅客電車には不向きな点も多い」


 そこで木藤はいったん喉を潤す。


「で、その後に登場したのが、今も主流のカルダン方式。これは継ぎ手を使ってモーターから車軸に動力を伝えるから、車軸には直接モーターをつけない。構造は複雑になるけど音も振動も吊り掛け式より小さいし、軽くできる利点がある。もちろん加速性能も段違いでいい。現在もリニアモーター式を除けばこれが主流だよ」


「なるほど~じゃあ、さっき言った680系ていう電車はカルダン式だったんですか?」


「そういうこと。ちなみにカルダン式を採用した電車を新性能電車。吊り掛け式の旧式電車を旧性能電車て言うこともあるよ。他にもカルダン式には高性能電車ていう言い方があるけど、これには吊り掛け式が低性能電車なのかっていうクレームが入ったなんて話もあったとかなかったとか」


「へえ」


「で、話を戻すけど、近鉄としては予想外の京橿・京奈特急の人気に応えなきゃいけなくなったわけ。とにかく、予備の予備までフル回転なんて、異常な状態だからね」


「どうしたんですか?」


「新造車を投入することになったけど、これがまた本当にピンチヒッター感満載の電車だったんだ。18000系て言うんだけどね」


「一体どんな電車だったんですか?」


「一言で言えば。吊り掛け式の半分新造車」


「ええ!?」


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