鉄道連絡船 ①
「先輩、お久しぶりです!」
「久しぶりって、1週間しか経ってないよ」
「1週間も経てば久しぶりですよ」
カレンダーは5月となり、このはゴールデンウィーク明けの最初の活動日。いつも教室で、木藤と桜は1週間ぶりの再会であった。
「先輩はゴールデンウィーク、どこか行きましたか?」
「うん、家族で河口湖へね。富士山が綺麗で、温泉で疲れを癒したよ」
「爺くさいですよ」
木藤の言葉に、桜がクスッと小さく笑う。
「うるせー。そう言う江田さんは?」
後輩の言葉に苦笑いしつつ、聞き返す。
「家族で四国に行きました!」
嬉しそうに答える桜。よっぽど楽しい思い出になったのだろう。その笑顔を微笑ましく見ながら、木藤はさらに質問する。
「飛行機?それとも電車?」
「電車です。岡山まで新幹線で、そこからええと・・・マリンライナーていう快速電車に乗り換えました」
「へえ。じゃあ、瀬戸大橋を渡ったわけだ」
「はい!大きな橋で!下が海で、スゴイ迫力でした!」
桜がその時のことを思い出し、興奮して言う。
「瀬戸大橋は海面からの高さが65m以上もあるからね。そりゃ大迫力だよ」
「そう言えば先輩。お父さんがその時、橋は出来る前は船が通ってたよって言ってましたけど、そうなんですか?」
「そうだよ。昭和63年の4月に瀬戸大橋が開通したけど、それまでは本州側の宇野から四国の高松まで、宇高連絡船が行き交っていたんだ」
「へえ、そうなんですか」
「ちなみに、同じ年の3月に本州と北海道を結ぶ青函トンネルが開通したけど、そっちにも青函連絡船ていう連絡船があったよ」
「あ、なんかニュースで見たことある気がします。ところで、何で連絡船て呼ぶんですか?」
「それはだね、鉄道を繋ぐ連絡船と言う意味だからだよ。鉄道がまだない区間を船で繋ぐんだ。実際に宇高連絡船と青函連絡船の運営は鉄道会社、つまりは国鉄とそれを引き継いだJRがやってたし」
「え!?JRて船もやってるんですか?」
「今でもJR西日本が広島県の宮島航路とか、JR九州が釜山との航路なんかをやってるよ」
「知らなかったです」
「まあ、今は船を移動手段の選択肢にする機会は大分減ったからね。でもね、昔は船が非常に重要な交通手段だったんだよ。今みたいに大きな橋を掛けたり、海底トンネルを掘ることが技術的に出来なかったから。そして鉄道連絡船は、国の動脈である鉄道同士を繋ぐ船だったからね」
「そんなにたくさんあったんですか?」
「10以上はあったよ。その中で一番最初の鉄道連絡船は、明治15年に開通した琵琶湖の長浜と大津間で走り始めた琵琶湖航路だね」
「え?海じゃなくて琵琶湖なんですか?何で琵琶湖に?」
桜のイメージとして、海はまだわかるが湖に鉄道連絡船と言うのはパッとこないものだった。
「当時はまだ東海道線が全通していなくて、その未開業区間を船で連絡したんだよ。だからこの航路は東海道線が繋がった明治22年には役割を終えているよ。その他にも長崎県の早岐~長与間を結んだ大村湾航路とか、四国の多度津と広島の尾道を結んだ多尾航路、京都の舞鶴と鳥取の境港を結んだ山陰航路のように、鉄道が完成したから明治時代の内にその役割を終えた航路がいくつかあるね。でも一方で昭和に入るまで長く運行した航路や、太平洋戦争終了まで運行した航路、そして現在も運行している航路もあるんだよ」
「それが、さっきの宇高連絡船と青函連絡船ですか?」
「まあ、鉄道連絡船としての代表的な航路はその二つだね。大型の船を使っていたし、何と言っても本州と四国、北海道を繋ぐ大動脈だったから。だからこそ、その歴史も波瀾万丈に彩られているけどね。よし、今日の話は鉄道連絡船についてしよう」
「はい、よろしくお願いします!」
「じゃあまず、日本最初の鉄道連絡船についてはさっき話した琵琶湖航路だって言ったね。鉄道連絡船の多くは明治時代に航路が出来たんだ。たださっきも言ったけど、鉄道連絡船は鉄道が出来るまでの代替手段だから、明治の内に廃止になった航路も結構ある。そんな中で、明治31年開業の門司と徳山の門徳航路と明治36年開業の宮島航路、明治36年開業の岡山から高松までの航路、明治38年の関釜航路、そして明治41年の青函航路。これらはその後も長く運行を続けた航路なんだ。この内門司と徳山の航路はその後本州側の起点が下関に、岡山から高松までの航路は本州側起点が宇野に変わって、それぞれ関門航路と宇高航路と呼ばれる航路になったんだ。日本本土と九州、四国、北海道、さらには後に日本が統治する朝鮮半島までが、鉄道連絡船で繋がったってわけ」
「明治時代に一気にできたんですね」
「開国から40年、近代化も進んで日本列島、と言うより大日本帝国内の交通網が完成の域に達したってことだね。じゃあ、それぞれの航路がどうなっていったか見て行こうか」
「はい!」
(作者注・・・連絡船の開業年度は鉄道連絡船としてのもので、青函航路のように既設航路が既にあった航路もある)
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