東京メトロ(営団地下鉄)東西線 ②
「東京における地下鉄の歴史は、昭和2年12月に浅草と上野間の路線を、東京地下鉄道株式会社が開通させたことに始まるんだ。これは今の銀座線の一部だね」
「東京地下鉄道株式会社?東京メトロでも、都営でもない会社なんですね?」
「この会社は地下鉄の父とも言うべき早川徳次と言う人が作った会社で、純然たる民間会社だったんだよ。戦前の東京の地下鉄は、この東京地下鉄道株式会社の浅草~新橋間と、昭和14年に開業した東京高速鉄道株式会社の新橋~渋谷間の路線が一体化した。現在の銀座線が唯一の路線だったんだ」
「え?たったの1路線だけなんですか?」
まだまだ鉄道に詳しくない桜でも、東京の地下鉄はスゴイという印象がある。たくさんの路線があり、スゴイ数の人を運んでいる。それなのに、その東京の地下鉄が戦争前は1路線だけと言うのは意外だった。
「そりゃまあ、戦前の話だからね。他にもいくつか地下鉄計画はあったけど、実現しないまま戦争の時代に突入しちゃったから。で、この二つの地下鉄会社については熾烈な買収劇があったんだけど、今回はそこが主旨じゃないから飛ばすね。そうして開通した東京の地下鉄は、昭和16年7月に営団地下鉄に一本化されたんだ」
「ふ~ん。ところで、そもそも営団て何ですか?」
当然の疑問を、木藤が説明する。
「そうか、今の若い子には聞き馴染みのない名前だよね」
「木藤先輩だってまだ若いじゃないですか!」
その言葉に木藤は苦笑しながら、説明してやる。
「営団て言うのは、戦時下に作られた特殊法人で、他にも住宅営団とかがあったよ。簡単に言うと戦争を行う上で、国が様々な分野を統制しやすいようにした公営組織ってことだね。これらの多くは戦争が終わると解体されたけど、地下鉄の運営は戦争とはあまり関係ないから残されたんだ。そして戦後は国鉄と東京都の合同出資による企業体へ移行したんだよ。実はこの国鉄が出資しているのが、東西線にも大きな影響を与えたんだ」
「どういうことですか?」
「そもそも東西線の当初計画の路線図をみると、東京の中心部から江東区方面へ伸びる路線だったけど、そこから先の千葉方面への延伸計画はなかったんだ。営団地下鉄は基本的に東京を走る地下鉄だからね。一応営団側からの提案として、総武線と同じく混雑に苦しんでいた中央線の線増増強として、西側の終点である中野から三鷹方面への乗り入れは早々と計画されたんだ。ただどちらにしろ中野も三鷹も東京だけどね」
「だったら、どうして千葉に?」
「その東西線を千葉の総武線につなげて欲しいと、今度は営団の出資者である国、つまりは国鉄が営団に頼み込んだんだよ」
「何で国鉄がそんなお願いを?・・・て、ああ!それがさっき言ってた総武線の話ですね?」
桜が納得したとばかりに笑顔になり、その様子に木藤も微笑む。
「大正解。千葉から東京への路線は、現在こそ総武線より海側に地下鉄東西線やJR京葉線が出来たけど、その二路線がない時代の総武線は既にパンク状態だった。だから、バイパス路線として東西線の東陽町から西船橋までが作られることとなったんだよ。しかも、単にバイパスとして接続するだけじゃなくて、東の終点の西船橋からは総武線に、さっき言った西の終点の中野からは中央線に乗り入れする形で、総武線と中央線の輸送力の増強も図られたってわけ」
「そんなに昔の混雑って凄かったんですか?今よりも?」
「殺人的な混雑だったってことは間違いないみたい。定員の3倍乗せて走ったとか」
「うわ~」
すし詰めギューギューの車内を思い浮かべ、桜はゲンナリとする。
「話はちょっと脱線するけど、新幹線の開通まで国鉄は予算の多くを新幹線に投じていたけど、新幹線が開通するとこの東京の混雑の緩和に乗り出したんだ。いわゆる通勤五方面作戦だね」
「通勤五方面作戦?」
「五方面ていうのは、東京から外周へと伸びる東海道、中央、総武、東北、常磐の5路線のことだよ。国鉄はこの5路線の抜本的な混雑緩和に乗り出したんだ。それが通勤五方面作戦ね」
「なるほど」
「その方法としては主に線増、つまり既存の複線の線路を複々線、もしくは複々線を三複線にして輸送力を強化する方法だったけど、東西線のようにバイパスになる路線との相互直通も盛り込まれたんだ。もう一つの路線として、常磐緩行線と地下鉄千代田線がそれにあたるよ」
「先輩、緩行線てなんですか?湖とかで走る船のことですか?」
「それは観光船。緩行線ていうのは、快速とかの優等列車が走る路線に対して、普通列車が走る並行路線のことだよ。有名なのは中央・総武緩行線と常磐緩行線だけど、ただし途中でバイパス線を通る部分もあったりして、快速線とずっと並行してるってわけでもないよ。つまりは、快速電車と普通電車をわけなきゃいけないほどに、列車の本数が多いってことだね」
「スケールが大きい話ですね」
「まあ、東京だからね」
ここまでずっと話続けてきた木藤は、ここでお茶を一口口にして喉を潤した。
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