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婚約破棄の現場でアクシデント

婚約破棄の現場で~モブは苦笑する~

作者: Ash

早くこの茶番は終わってくれないかしら・・・。

私は今、非常に退屈しています。


あ。こんにちは、皆様。

私はソールズベリー伯爵令嬢のミリアと申します。

今現在、私の目の前では何度目になるのかわからない茶番が繰り返されています。

国の将来を担うエリートが婚約者に対してあらぬことを並び立てて、婚約破棄を宣言するアレです。


将来のソールズベリー伯爵である愚兄から始まったこの茶番劇は、騎士団長の令息、宰相の令息、公爵家の令息、そしてとうとう王子様の番が回ってきました。


ヒュー♪ ヒュー♪


これほど面白い催し事(醜聞)は滅多にありません。

生粋の王侯貴族が主演しているんですよ。

一番身分の低い愚兄も先妻であるどこかの貴族のご令嬢が母親ですからね。

貴族の館や王宮で働いていなければ、庶民では見ることができなかい催し事(醜聞)です。

でもね、毎回見させられているこちらの身にも、なってもらいたいくらいです。

見物人の数も今回は多いですが、前回の公爵家の令息の場合は婚約者とそのお友達である令嬢たち、それに通りすがりで野次馬気分の者しかおりませんでした。それ以外はこの茶番を見ているのは時間の無駄だと立ち去ってしまいます。確かにそうですけどね、確かに。

愚兄の時は生温かい目で見守っていました。

あ~、馬鹿やってんな~と。

愚兄が駄目でも可愛い弟がいますから、安心して道を踏み外してくださってもソールズベリー伯爵家は安泰です。愚兄の元婚約者は弟のほうが歳が近いですし、本人も愚兄より弟のほうが良いと申しておりました。

ありがとうございます、愚兄。

弟と元婚約者の幸せの犠牲(笑)になってくれて。

ところが、この茶番の登場人物。婚約者を捨てさせる泥棒猫は毎回、同じなんですよ。

揃いも揃って、国の将来を担うエリート(笑)は同じ娘相手に婚約者を捨てるんですよ。

何ですか、この茶番。

捨てるほうも捨てるほうですが、そこまでした相手は他の男の婚約破棄の元凶になるんですよ。

これって、愚兄は既に捨てられているって言いません?

あ、今は王子様が婚約破棄をしているんでしたね☆


愚兄だけでなく、騎士団長の令息、宰相の令息、公爵家の令息も捨てられているんでしたね☆


王子様の婚約者である公爵令嬢様が必死に弁解していますが、愚兄と騎士団長の令息に取り押さえられてしまいました。騎士団長の令息はわかりますが、こういう時、爵位が一番低い愚兄も力仕事に駆り出される絶対☆身分社会。

伯爵令嬢歴十年の私にはまだまだ受け入れがたい世界です。


貴族と言ったら皆同じにしか見えません。その中でも身分差がひどいなんて庶民として育った身ではわかるはずもないでしょう?


家同士の諍いはあるかと思いますが、この程度の男とはさっさと縁が切れたほうが身の為です。

それに婚約者のご令嬢たちは全員美人ばかり。愚兄の元婚約者はまだ可愛らしいといったほうが近い年齢でしたが、育てば社交界の華と呼ばれるにふさわしい姿になると期待していたくらいです。

許すまじ、愚兄。

ま、可愛い弟とその嫁になる可愛い義妹と思えば、よくやった愚兄。

典型的な貴族夫婦になるよりも、愚兄の元婚約者は可愛い弟とそれなりに想い合った夫婦になったほうが良いです。

貴族の結婚なんか跡取りさえいれば、夫婦共に浮気し放題ですからね☆

子どもはそれに順応するか、潔癖すぎて壊れるかどちらかなんですよ。

いくら今は伯爵令嬢でも私は元庶民ですから、貴族相手との結婚なんかしませんからね。

可愛い弟に養われてあげます。

親戚の老嬢オールドミスとなって弟の子どもたちの家庭教師もしてあげるつもりですから、そこは許してね。

あはっ☆


泥棒猫が意地悪そうな笑みを浮かべています。婚約者である令嬢が責められていたり、ひどい宣言を受けている時にいつもこんな顔をするんですよ。

私ならこんな性悪な泥棒猫、願い下げです。

どうしてそれがわからないんでしょうね、国の将来を担うエリート(笑)は。

さて、王子様が公爵令嬢様に目の前から消え失せろとかとかほざいておられますし、令嬢の弟君であるはずの公爵令息は糾弾側に回って使えないようですし、そろそろ公爵令嬢様の保護に行きますか。

こういう時、元庶民の感覚を持つ私は気にせずに動けるんですよ。

身分差?

ああ。ありましたね、そんなものも。

愚兄があっち側にいるので私の行動は多少、大目に見てもらえているようです。

私が動かなかったらこの国は今頃どうなっていたことか。

こんなことをされた元婚約者の家々がかなり怒っているんですよ?

相手の家のほうが上だからって泣き寝入るとでも?

貴族社会ですから、既に反・国の将来を担うエリート(笑)同盟が組まれています。

王家、公爵家、宰相家、騎士団長に含みを持つ家はいくらでもいますからね。

ソールズベリー伯爵家は?

そこは私と弟が何とかしました。

あはっ☆

持つべきは可愛い人たらしの弟です。


「皆様、おやめください! もう充分でしょう!」


私は王子様たちの前で地に伏している公爵令嬢様を取り押さえている愚兄の頭を殴りました。

だって、騎士団長の令息にそんな真似をすれば大事になりますが、愚兄ですからね。腐っても愚兄ですからソールズベリー伯爵家内の身内争いですむんですよ。

恨むなら、泥棒猫の手下になった自分を恨んで下さい、愚兄。


「ミリア! 何度言ったらわかるんだ! すぐに手を出すな! 里が知れるだろう?!」


ええ。お里は庶民ですが何か?

愚兄にそう言い返したい私ですが、今は特大の猫をかぶります。


「淑女に無暗に手を触れている破廉恥な貴男に仰られたくありませんわ」


こう言われてしまえば、泥棒猫にご執心な愚兄や騎士団長の令息も躊躇しますからね。

血縁者でもなければ、婚約者でも妻でもない貴族の女性にエスコート以外で触れることは批難されるべき行為なんです。

だって、彼女は私の愛人ですと公言しているようなものなんですよ?!

面倒くさい貴族の決まりごと万歳!!

前も前々もこの手段で、愚兄や騎士団長の令息も手を離させた経験が私の自信のもとになっています。

それでも駄目なら、前々の時に言った言葉を繰り返すだけです。『罪を問えるだけの証拠を提出して、王家や騎士団から捕縛の命も出ていないんでしょう?』と。

我々、反・国の将来を担うエリート(笑)同盟が捕縛の命なんか降ろさせませんから、そんな命令なんか出ないですしね。

あはっ☆


「・・・っ!!」


渋々、愚兄や騎士団長の令息は公爵令嬢様から離れました。

もっと早く、離れなさいよ。

この観賞用の美貌を誇る公爵令嬢様が貴男方のせいで心に傷を負ったら、どうするつもり?!

私は安心させるように笑顔を浮かべる。

この笑顔は貴族として生きていくために一番初めに身につけさせられたものです。これは練習しましたから、第一級品ですよ。


「大丈夫ですか、公爵令嬢様」


すみません。元庶民なんで家名を覚えていません。

身分が高い人からしか話しかけられませんし、王子の婚約者である公爵令嬢様とは縁がありませんからね。元庶民の伯爵令嬢なんか高位貴族の女性たちから嘲笑の的でしたし、庶民臭いと何度言われたことやら・・・。

おかげで私は愚兄の元婚約者以外とは交流をしなくなったんですが。

公爵令嬢様はその美しい青い目を瞬かせました。こんな美貌の女性を捨てて、あの貴族ならどこにでもいそうなレベルの容貌の泥棒猫を選ぶ理由がわかりません。


「貴女は・・・?」


「ソールズベリー伯爵家のミリアですわ。貴女を取り押さえていたのは愚兄です」


申し訳なさそうに私が言うと、公爵令嬢様の目に怯えの色がよぎりました。

おい、愚兄。あとでもう何発か殴らせなさい。

顔が変形するまで殴らせなさい。


「さあ、お立ちになって。愚兄どもは自分たちの世界に戻っていますから」


「ですが・・・」


戸惑われる公爵令嬢様。

公爵令嬢様にいじめられたと言った泥棒猫を慰める愚兄たちは、口々に自分たちの元婚約者たちの悪口を口にしている。

だいたい、あの泥棒猫の言い分とそれを裏付ける証言をしている連中の繋がりが読めなくて、どうして国の将来を担うと見なされていたのかわからない。国の将来を担うエリート(笑)だわ、本当に。

なんか泥棒猫が寝言を口にしているようですが、アーアーアーアーアーアー。

私ニハ聞コエマセン。


「さ、あのような人たちは放っておいて。ご実家の方をお呼び致しますから、静かなところでお友達たちとお待ち下さい」


私は公爵令嬢様の手を取り、お友達たちのもとへとエスコートしました。

大きな衝撃を受けて憔悴した公爵令嬢様とそのお友達たちは支え合うように立ち去って行きます。


「ふう」


今日も良い仕事した。

流石だ、私。

公爵令嬢様のお友達たちの中に見覚えのある人もいたようですが、今は無視です。無視。

お貴族様の生活って、肩が凝って、本当に大変だわ。

首を左右に傾けるとぽきぽきと良い音がします。

肩凝ってんな~。


「さて。これでひとまず、膿は出し尽くしたな」


と、王子様の声がしました。


あれ?

よく見ると泥棒猫とその証言者が騎士たちに捕まって、連行されています。


「は~。まったく、慣れないことをしすぎて疲れましたよ」


と、公爵令息。


「国の為です。それが駄目なら家の為だと思いなさい」


と、宰相令息。


ううん?

どういうことですか?

私には理解できません。

元庶民にもわかるように説明して下さい。


「大げさに痛がるなよ。鍛え方が足りないぞ、ソール」


と、騎士団長令息。


「ミリアが手加減なしで本気で殴るから本当に痛いんだ。庶民だったミリアは貴族の令嬢と違って力が滅茶苦茶あるんだぞ」


と、愚兄。

殴られ足りなかった模様だ。

私が無言で拳を振り上げると今度は愚兄に手首をつかまれて、振り下ろせませんでした。

クズがクズがクズがクズが。

様子を見ていないでさっさと無駄に良い顔が変形するくらい殴っておけばよかった。


「それは悪かったよ、ソール。姉様があんな取り巻きに騙されていなければ、こんな茶番を繰り広げなくても良かったのに・・・」


と、公爵令息。

取り巻きに騙される?

公爵令嬢様のお友達たちの中に見覚えのある人がいたけど、もしかして・・・。


「人を信じることは良いことだが、信じる相手を見極める為にも人を見る目は養っておかないと後々まで困るから、マリアには良い薬になるんじゃないか?」


と王子様。


「今回のことで炙り出された連中はどうしますか?」


と、騎士団長令息。


「要注意として警戒するに決まっているでしょう、ハワード。彼らは王家に対してすら牙を剥く気でいたのですから」


と、宰相令息。

・・・。

言われてみれば、反・国の将来を担うエリート(笑)同盟は王家に対しても何かしようとしていましたね。

私、もしかして反逆の徒になってしまったんでしょうか?

良くて国外追放。悪くて処刑?

滝のようにだらだらと冷たい汗が背中を流れ落ちます。


「思いもよらなかったのも釣れたし、今回は恐ろしいほどうまく行ってくれて安心したよ。これもお節介なミリアが陰で動いてくれていたおかげだな」


と、愚兄。


「お節介とは何ですか! お節介とは!」


思わず、愚兄の言葉に反論してしまいました。

今までは愚兄以外に口を挟むと命の危険があると黙っていましたが、愚兄なら家族ですし、何を言っても大丈夫。

私は聞きたいことや言いたいことを口にします。


「自分を庶民だと馬鹿にした連中にすら手を差し伸べるお馬鹿なミリアだから、連中も油断してボロを出したということだよ。反乱の頭に据えようとしたようだけど、こちらにいつ口を滑らすかと、流石にそれはやめたようだ」


可哀想なものを見るような目で愚兄は私を見ながら言いました。


「あー! 見覚えがあると思ったら、公爵令嬢様のお友達たちの一人は昔、私を『臭い。庶民臭い。庶民がこんなところに紛れ込んでいるわ』と言っていた令嬢じゃないですか?! ムキー!! それに反乱の頭って、私はただの元庶民のなんちゃって伯爵令嬢じゃないですか?! 名ばかりの伯爵令嬢ですよ?!」


私は怒りのあまり叫んでしまいました。


「相変わらずの鳥頭」


と、目をそらしながら、幼馴染である騎士団長令息は溜息を吐いた。


「確かに馬鹿だ」


と、呆れたような公爵令息。

ムキー!!


「家の奥で大事になさい」


と、愚兄に同情するように宰相令息。

愚兄に同情するとはどういうことですか?!

それに家の奥って、私は幽閉の身ですか?!

庶民に戻して下さいよ!

母がソールズベリー伯爵と再婚して、伯爵家の令嬢になっただけですから!


「まだまだうまく立ち回っている家もあるから、気は抜くな」


と、王子様。


「ミリアがまたトラブルを引き起こすと、うまく行くこともうまく行かなくなるから、続きはミリアを家に戻したあとにいつものところで」


と、愚兄。


「私は邪魔者ですか!」


私はトラブルメーカーじゃありませんよ!

なんですか、その歩く発火物扱いは?!

愚兄の中で私の人物像はどうなっているんですか?!


「邪魔者だな」


と、王子様。


「邪魔者だよ」


と、公爵令息。


「邪魔者以外の何だと?」


と、宰相令息。


「頼むから、大人しくしていてくれ」


と、騎士団長令息。

幼馴染なのにこの扱いは何ですか?!

私が庶民だった時からの知り合いでしょうが?!

正当に評価してよ!


「邪魔しかできないじゃないか」


と、愚兄。

ムキー!!


暴れる私を愚兄は実家まで連行していきました。

勿論、国の将来を担うエリート(笑)はちゃんと国の将来を担うエリートになりましたよ。

今回は私だけが空回りしたようなものでした。

公爵令嬢様のマリア様も王子様と結婚しましたし、その弟である公爵令息は別の方と、宰相令息は元婚約者の方(どうやら反・国の将来を担うエリート(笑)同盟の内部情報を流していたのは彼女とその家のようです)と、我が幼馴染の騎士団長令息は別の方と、愚兄の元婚約者は我が弟と。

それはそれは幸せになりました。

私以外は幸せになりました。


私?


ソールズベリー伯爵家の奥に幽閉されて生涯を過ごしました。

公爵令嬢様のマリア様も愚兄の元婚約者で可愛い義理の妹も遊びに来てくれましたが、幽閉の身に変わりはありません。

これ以上、ボロを出しまくってソールズベリー伯爵家に傷を付けてはいけないと幽閉された結果、幻の伯爵夫人と呼ばれているそうです。

どうして、こうなった?

ミリア:ひどいと思わない、ハワード! なんで私があの愚兄と結婚させられる羽目になるわけ?

ハワード:俺は貴族の一員になったお前と再会した時に、ソールにお前に近付くなと言われたぞ。

ミリア:私がハワードと再会したのって、五年以上前よね?! そんな前から私は狙われてたの?

ハワード:五年前って、お前まだ子どもだったじゃないか。あっ。ソールの足音がする。

ミリア:なんで足音で誰かわかるのよ!

ハワード:・・・強く生きろ。

ミリア:私を連れて行きなさいよ、裏切り者!

ハワード:ソールの為に幽閉生活に耐えてくれ。

ミリア:愚兄のためなんかに誰が幽閉生活に耐えるもんですか~!!

ハワード:それなら、母親と異父弟おとうとの為に耐えてくれ。

ミリア:グギギギギギ・・・(歯ぎしりの音)。


※乙女ゲーで身内も攻略対象の場合、リアルだとミリアのようにゲーム開始する前に強制ログアウトさせられてしまう(外堀が埋められている)と思います。

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