第一章 王女継承と蜂起の影 第一節(14)
「隣町は、綺麗な場所だけではありません。海に面しているので、外交、貿易も盛んで、賑やかな街です。いろんな街の人たちが交わる経済の街です」
「ふーん」
「しかし、一歩、路地に外れると、闇市をしている怖さもあります。暴くれ者や人身売買がはびこる街でもあります。街に着いたら、私から離れぬよう、お願いします」
「はーい」
「女王。聞いておられますか?」
「え!聞いてるよ。聞いているに決まっているでしょっ」
落ち葉のじゅうたんを踏み歩くアルテミスは、足元をキラキラした目で見ながら答えている。
「発展して、賑やかな場所には必ず危ない場所もあります。お気をつけ下さい。ところで、やはりお買いものをしたくありませんか?」
「お買いもの?」
「はい。隣町には大きな市場が連なっているので、いろんな街からの特産物が買える場所なんです」
「お買いもの!?私、お買いものもできるの?していいの?私、初めてのお買いものだよアレス!いつも、お世話係が買ってきてくれてたから、買うなんていう機会なくて、お買いものっていうのがどういうのか、知りたかったの!」
「はい。そう仰せられると思って、隣町を選んだんです」
「なに、早く言ってよー」
アルテミスの足運びが速くなる。次第にスキップに変わっていく。連れられている馬も足並みを揃える。
「女王は素直な方です」
アレスは、先に進むアルテミスに聞こえないくらいの小さな声で呟いた。
「何か言った?」
スキップして前に進んでいる、アルテミスは振り返った。
「いえ、何も言っていませんよ」
「そっ」
アルテミスは更に先に行く。連れている馬も心地よさそうにしているから、安全な場所だ。少し遠く離れても大丈夫だろう。
「女王。女王はいつまでも素直で純粋な御心のままで。…先代王、私は、この運命を信じています」
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