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第一章 王女継承と蜂起の影 第一節(12)

その頃、民衆の中では、アルテミスの挨拶が七つの街にも浸透し、挨拶が定着した。一部では王節おうせつという、挨拶の名称も名づけられ始めていた。

「では行きましょう、女王」

アレスとアルテミスは、荷物を馬に載せ終わると、綱をひいて城門前に向かった。

そこには父が見送りに来ていた。

「何ヵ月もの旅路になるだろう。これを持っていきなさい」

父は、小袋に入れたお金をアルテミスの手に持たせた。

「お父様。お金は持ちましたよ?」

「これは、本当に何かあったときに使うのだ」

「何かあったとき?」

「いつどうなるか、わからないからな」

「でもこんなにたくさん…」

「女王、頂いていきましょう。旅路では何かと役に立ちます」

アレスは、アルテミスに言う。

「わかっているようだな。持って行きなさい」

父は一瞬微笑むと、アルテミスにお金の入った袋を渡す。小さなアルテミスの手には重い。

「わかりました。持っていきます」

アルテミスは小袋を荷物に入れ、馬へと乗った。

「アレス、アルテミスのことを頼んだぞ」

「お任せ下さい。…お言葉ながら、もし、城に…」

アレスが話している途中で、父は話を挟んだ。

「大丈夫だ。城なら親衛兵もいれば、アレスの小隊もいる。気にせず行ってこい」

「…かしこまりました」

二人の会話を待ちながら、アルテミスは乗っている馬の頭を撫でている。

アレスは何か言いたいことをぐっと押し込めたようにも見えたが、アルテミスの目には、これから始まる初めての旅に、大きな喜びと期待しか映っていなかった。

「大丈夫だよ、早く行こっ」

アルテミスは両足をバタバタとさせながら、アレスに言った。

「…では行ってまいります。」

「うむ。」

父とアレスは目と目を合わせると、アレスは父に一礼した。

「はい。行きましょうか、女王。」

アレスはアルテミスに応えると馬に近づく。

すると、馬は乗りやすいように屈み、アレスが乗ると立ち上がった。

アレスは、ありがとう。と言いながら馬の体を擦る。

「行ってきまーす。お父様ー、帰ったら旅の思い出いっぱいしますねー」

アルテミスは見送っている父に手を振りながら、遠足に行くかのように軽やかな足並みで出発した。

父は沈んだ顔でも喜んでいる顔でもなくどこか遠くを見ているような顔で見送っている。

しかし、その眼差しは、しっかりとアルテミスとアレスを見て続け、アレスもまた父の顔をずっと見ていた。

ご試読、誠にありがとうございます。

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