五人
「いやぁ、恭介ってすごいな! なんてゆーの? 器用ってゆーか頭いいっていうか」
「ハハ。褒めても何も出ないぞ」
「出なくたって褒めてやるぜぇい!」
二日連続でロッテリアに寄って駄弁っている。
今日はサッカー部の一年生五人全員で来ている。俺と田辺と西岡、そして桜井と菊池。高校生の財力なんてたかが知れてるもんだから、ポテトをつまみにジュースを飲んでる。
「中学の時からあんなんだったわけ?」
「まぁ、ね」
「ふーん。桜井ってどこ中出身?」
「あー……光海中学」
「光海!? 光海って言ったら全国大会の常連じゃん! そりゃあ上手いはずだわ」
田辺の質問に答えた桜井は、なんとも渋い表情をしていた。そんな桜井を俺はストローでアイスティーを飲みながら見ていた。
「やっぱレギュラーだったわけ?」
「さすがに強いところでレギュラーはとれないかな」
「マジかよ! 桜井よりもうまいやつがまだわんさかいるってわけ? もう化け物しかいないんじゃねぇの?」
「ハハハ」
田辺は何も考えてないんだろうか? 桜井がさっきから質問に答えにくそうにしている。きっと俺だけじゃなくて、他も思っているだろう。
そんな中、菊池がポテトに手を伸ばしながら言った。
「その、光海中ってそんなに強いん? 俺中学の時は部活やってなかったわけだから、強豪校とかってよくわかんないんだよね」
菊池は全体に質問をする。こーゆーのはキャプテンが説明するんだと思ったら、なぜか俺に視線が集まった。なんでだよ。
仕方なしに説明を始める。
「この辺の中学ってさ、何校かが強豪って呼ばれてて、そのうちの一つが桜井の光海中ってわけ。それで他に二つあって、一つが俺たちの通ってた大紋中学。もう一つが北里中。全三校が強豪って呼ばれてて、全国を目指す時にはいつもこの三校が争ってたんだよ」
「へー。じゃあ城戸達が行ってた中学も強かったんだったら、桜井んとことよく戦ってたん?」
「毎年接戦で、ウチの監督がムキになるくらいは因縁って感じだったかな」
「ふーん。そんなマンガみたいなところあるんだなー」
そう。よく戦っていたのだ。
なのに、桜井は見たことがない。試合に出ていなかったなら見たことないのも当然だろうし、敵視しているチームの選手の顔なんて覚えているはずもない。だいたい背番号で覚えてるから、名前なんて情報は知らなくても当然だろう。
でも桜井のさっきの顔を見てしまうと、なんだかそれだけじゃない気がしてならない。
桜井ほどの選手を使わないということは、同じポジションでもっとうまい選手がいたってことだろう。桜井のポジション……どこでもできるとは言っていたが、さすがに得意なポジションはあっただろう。
考えていても仕方ないし、質問タイムになって申し訳ないが、聞いてみるか。
「桜井ってどこのポジションやってたん?」
「一応左ハーフ、かな」
「左利き?」
「いや、翼と同じで両利き」
急に名前で呼ぶな。ちょっとドキッとしたじゃないか。
「桜井も練習して両利き?」
「もちろん。今後を考えるとやっぱり両利きだと何かと都合いいわけだし、練習とか好きだったし」
「マジかよ。練習好きとか頭おかしいんじゃねぇの?」
田辺が割って入ってきた。本当に田辺の練習嫌いは酷かった。冬場の校内ランニングで周回数をごまかして監督に何度怒られたことか。
「こう見えても努力家だし」
「出たー。天才が言う発言だから。上手いやつがそれを言ってもただの嫌味だから」
「アハハハ」
イーッと田辺が歯を向けながら言った。
練習が好き、か。俺も試合よりも練習のほうが好きだったな。部活帰りに近所の公園で、田辺と西岡と三人で、『サッカー』というよりも『玉蹴り』をしていた時の方が楽しかった。部活は、なんだか息苦しかった。
「俺、ついていけんのかなぁ」
ふと菊池が呟いた。というよりも本人は気にしてないけど、心の声が漏れたって感じだった。
俺たちはそのつぶやきに顔を見合わせた。
そして田辺が言う。
「あの部活なら大丈夫だ! 問題ないさ!」
親指を立てる田辺。
菊池は口の端を釣り上げて笑い、ポテトを一本食べた。
「まぁ初心者だからってわけじゃないし、君らみたいに上手くはないからひがみでも何でもないけど、楽しくサッカーできたらなって思うかな。よろしく」
「恭介がキャプテンなんだから、大丈夫だ! なっ!」
「……もちろんだ! 明日からビシバシ行くからな!」
「あっ、練習は軽めでお願いできますか?」
「受理しかねる」




