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ミニゲーム

 ルールはフットサルとほぼ同じ形式をとることになった。

 オフサイドはなし。サイドアウトはキックイン。スライディングはなしだが、ボールカットのためのスライディングはあり。キーパーへのバックパスはあり。もちろんセルフジャッジ。

 キーパーが手を使ってもいい範囲であるペナルティエリアは特に設定していないが、桜井と西岡がキーパーということもあって、そこまで離れた位置で手を使うこともないという判断。フィールドの大きさは、実際のコートのペナルティエリアの大きさとほぼ同一。

 フットサルと違うのは、普通のサッカーボールを使うということぐらいだろう。フットサルは普通のサッカーの試合で使われている五号のボールよりも小さい二回りほど小さいボールなのだが、今は外だし、なによりフットサル用のボールはない。だから普通のボール。

 そんなルールの中、俺たち黄チームのキックオフで始まった。

 似鳥先輩が蹴り出したボールを田辺が受け取ると、すぐに俺の方へとボールを落とす。

 その瞬間だった。

 

「うぉおおおおおお!!」

「げっ! 白岩!」


 前にいた似鳥先輩と田辺の間を、白岩先輩が猛ダッシュで突っ込んできた。

 さすがにすごい迫力だ。

 しかしこの程度のプレッシャーなら、中学の時に体験してきたから、ビビるようなことはない。というよりも、白岩先輩がトップの時点で薄々予想はしていた。きっと白岩先輩に前線でかき回してもらい、パスが乱れたところを他のメンバーがカットしに行く作戦だろう。

 それは想定済みだ。そして対応策も準備しておいた。

 俺はそんな白岩先輩に背中を向けると、後ろの西岡へとボールを出す。そして西岡がそれを一気に前線へと蹴り込む。前線から中盤にかけて相手が侵入してくるなら、そこを飛ばして前線へとボールを預けてしまえばいい。

 そして蹴り出されたボールは、こちらの陣地になだれ込んできていた白岩先輩たちの頭を越えて、前線で待つ似鳥先輩と田辺の元へと飛んでいった。

 

「任せろーい!」


 田辺が落下地点に入り、飛んできたボールを胸でトラップしようと受け取ろうとした。


「甘いっ!」

「んなっ!」


 田辺にボールが渡る直前、桜井がそれを胸トラップでカットした。

 ゴールを放棄して、桜井が一気に駆け上がってきていた。まさかの五人全員攻撃だった。

 もしもこれを取られたらターンオーバーのカウンターで先制点を取られるのに……そういうことか。取られない自身があるってことだな。

 桜井はトラップした勢いで一気にドリブルでセンターから左寄りに駆け上がる。狭いコートでは数歩ドリブルすればすぐに相手陣内へと入ってしまった。菊池は右側にいるため、必然的に俺の方へと仕掛けてくる。

 早速一対一か。これは(たぎ)る。

 桜井とは勝負したいと思っていたんだ。俺と似たようなタイプのプレイヤーだろうし、自分で立候補してキャプテンになったような奴だ。

 テクニックで来るか、それともスピードに任せてワンフェイントで抜きに来るか。もしくはパスか。

 様々な選択がある中では、一瞬の判断が重要だった。俺は桜井の腰辺りに視線を置き、ボールに集中しつつ身体全体の動きを視界に入れて腰を落とした。


「先輩!」


 桜井が声を上げた。

 その声に反応して一瞬だけ横を見ると、小笠原先輩の姿が視界の端に見えた。

 やはりパスか!

 俺は小笠原先輩の位置を頭の中に入れ、足を伸ばせばパスカットできるようにと、少しだけ重心を左に置いた。

 その瞬間、桜井の足元からボールが消えた。

 パスしたのか? いや、でも蹴った音がしなかった。じゃあどこだ? 

 そう思って桜井の身体を見たとき、桜井の右後ろからボールが浮き上ってくるのが見えた。

 こいつ、ヒールリフト……じゃなくて、ダブルヒールか! それで俺を抜こうとしてたんだろうが、一回目の浮き上げるのを失敗して横に流しちゃってるじゃねぇか! しかも本人はそれに気が付いていないようで、じっと俺のことを見ている。

 ふんっ。そんな昨日今日練習したような技で俺を抜こうとするなんて、俺もなめられたもんだ。

 俺はその浮き上ってきたボールを取ろうと、身体を入れるために一歩踏み出そうとした。

 するとその時、桜井の身体がクルリと反転し、踏み出した俺に対して背中をぶつける体勢になった。

 必然的に俺は桜井の背中にぶつかった。

 よろける桜井を思わず支え、俺の動きは止まった。


「おー。悪い悪い」

「あぶねぇじゃんか」

「ぶっつけ本番は難しいな」

「マンガネタで俺を抜こうなんて、俺のことを甘く見過ぎじゃないか?」

「ハハハ。ドンマイ」

「は?」

「バカ翼!」


 桜井の身体が離れ、田辺の罵声が聞こえた。

 正面にいる田辺を見ると、田辺の視線は俺ではなく、その後ろのゴールを見ていた。

 振り向くと、石見先輩がゴールへボールをシュートしているところだった。

 いつの間にかボールがその辺から無くなり、俺の後方にいる石見先輩の元へと行っていたのだ。

 なにが起こったんだ?

 ガッツポーズをしながら自陣に戻る赤チーム。

 俺はゴールの中からボールを取っている西岡に話しかけた。


「今、何が起きたんだ?」

「どこまで見えてた?」

「見えてた? えっと、桜井がダブルヒールに失敗して、ボール取ろうとしたらあいつがよろけて背中向けて突っ込んできたところ、まで?」

「やっぱりか」

「だから何があったんだよ」


 俺の『後ろでボールをよこせー』と叫んでいる田辺にボールを投げた西岡が、腰の辺りをポリポリとかきながら言った。


「あれはダブルヒールじゃなくて、ヒールパスだ」

「パス?」

「多分ヒールリフトで横に逸らしたボールを、回し蹴りの要領でかかとで蹴ったんだよ。それを小笠原先輩が受け取って、俺がマークに行ったところを、石見先輩にパスしてゴール。そんな感じだ」

「はぁ? じゃあよろけたのは、ダブルヒールに失敗したからじゃなくて、ボールを回し蹴ったあとの惰性ってことか?」

「それと、城戸を押さえておくためだろう。守りは城戸しかいなかったから」

「もしそれが本当だとしたら、あいつ……かなりすごいんじゃないのか?」

「だろうな」


 薄々感づいてはいたけど、桜井って、もしかしてすごいやつなんじゃないのか?

 でも一応全国大会に進んだほどの強豪校にいた俺でも、あんなにすごいやつならどこかの試合で当たって覚えているはずだ。

 なのに全然覚えていない。

 桜井。あいつ何者なんだ?

※中盤を飛ばす

敵のプレスがキツイ時にDFから大きく蹴り出して前線の選手にボールを託す方法。

FWに上手い選手がいて、敵のDFがオーバーラップなどで少ない時に行うと効果的。

またの名をカウンター。

……カウンターの方がわかりやすいか。

でも時間をかけて攻めることもある分、カウンターとはまた少し違うのが難しいところ。

うん。カウンターでいいね。

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