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そんなわけで

 というわけで、


「初めまして。菊池貴央(きくち たかお)です。十六歳です。サッカーはマンガで読んだことくらいしかありません。でもきっとできると思います。よろしくお願いします」


 部活発表会のあと、一人部員が増えた。

 部活発表会のマンガの再現は『わかるひとにはわかる。だがわからない人にはわからない』というなんとも興味のある人向けの発表となってしまった。同じクラスのやつ何人かに感想を聞いてみたが、何とも微妙な反応だった。

 しかし一人とは言えども、メンバーは増えた。部活での桜井のオーバーヘッドとダブルヒールを見て入部を決めたそうだ。

 例のVTRはというと、結局『ワンツーカウンター』以外はすべて成功できた。その成功するまでに半端ないテイク数をこなしていたのだが、ほぼ徹夜で編集したという秋田先輩のおかげもあって、まるで一発で成功したかのような出来になっていた。

 似鳥先輩と小笠原先輩は、最初こそ足がぶつかって怪我をしないかとビビりながらやっていたところもあったが、そこは仲の良さで、次第に慣れてきて、二十数回目のチャレンジで成功となった。打ち返す側にいた似鳥先輩が終わってから『足がいてー』と言っていたので、試合ではあまり使えそうにないことが証明された。

 桜井と田辺は、互いにバイシクルとオーバーヘッドの練習をしていたが、桜井は練習と本番を各一回で終わらせるという、高スペックさをアピールしてみせた。それに対抗心を燃やしてか、田辺はやったこともないバイシクルを五回で成功させたのだから、それはそれですごいと思った。残った時間で、本当に練習してきたであろうダブルヒールをスピードに乗った状態でこなしてしまった桜井の撮影も、すぐに終わった。

 その後二人は、ワンツーカウンターの練習をしていたのだが、蹴ったボールが勢いよく戻ってこないとカウンターにならないのに、そこまで強いバックスピンを蹴るのは不可能と判断し、結果ボツとなった。

 グラウンドの端では、陸上部から走り高跳びのマットを借りてきて、スカイラブハリケーンの練習をしている白岩先輩と石見先輩がいた。白岩先輩に問題はなかったのだが、石見先輩が終始『ちょっ待って! 怖い! 意外と怖い!』って言っていたもんだから、なかなか進まず、意を決して飛んだ一回目を秋田先輩の策略的録画ミスによってなかったことにされ、再度飛んだ二回目をきちんと録画してもらっていた。マットの上に仰向けになる石見先輩の目には、涙が浮かんでいたとかなんとか。

 そして俺だが、シュート性のボールをポストに当てるのは、十回に一回は成功した。しかしそのボールがとんでもないところに飛んでいくことが多く、予想通りのマグレをうまいこと撮影してくれていた秋田先輩のおかげで、八十本目のシュートで録画を終えた。もう試合中にサイドネットを狙ったら、思わずポストに当たっちゃうんじゃないかというくらいは蹴り込んだ。しばらく俺にサイドネットを狙わせない方が良い。


 と、新入部員も入ってきたということで、ミニゲーム用の小さなコートをグラウンドの真ん中に作り、そこで五対五のミニゲームをすることになった。もちろん桜井の提案である。なんでも実力を把握したいんだとか。

 VTRの撮影のおかげでそれなりに仲は良くなっており、小笠原先輩と似鳥先輩がそれぞれのチームのリーダーとなり、ジャンケンで一人ずつチームのメンバーを選んでいった。

 その結果。

 小笠原チーム『小笠原・桜井・白岩・石見・秋田』

 似鳥チーム『似鳥・田辺・城戸・西岡・菊池』

 こうなった。

 二年生チームと一年生チームで、桜井と似鳥先輩を入れ替えただけのようなチームになった。最後まで残っていた菊池がなにやら言っていたが、初心者が最後まで残るのはこの選び方の(むご)いところである。ドンマイ。

 黄色のビブスを身に着けた俺たち似鳥チームは、自陣の中央で円陣を組んだ。


「いいかお前ら。簡単な戦術としては、俺が点を取る。篤志と城戸と菊池でボールを回す。西岡が守る。以上だ」

「えー。俺も攻めが良いッスー」

「菊池! お前はまだ初心者だ! だからこそボールタッチが多い真ん中でボールに触れることから始めるんだ!」

「えーっ。わかりましたー。了解っすー」


 なんとか了解してくれたようだが、菊池は予想以上にチャラいな。

 菊池は石見先輩ほどではないが小さく、聞くと165センチだそうだ。

 まぁそんなわけでミニゲームでポジションもなにもないが、トップ(FWのこと)に似鳥先輩、その下に左に田辺と右に菊池、DF兼キーパーの西岡と田辺達の間に俺、という1-3-1で、真ん中の3が逆三角形になるようなフォーメーションとなった。正確には1-2-1-1となる

 対する赤ビブスをつけた小笠原チームだが、一番こちら側、つまり敵のトップにいたのは、巨漢の白岩先輩だった。その陰に隠れるように石見先輩と小笠原先輩と秋田先輩が横一列に並んでいて、最後尾に桜井が立っていた。

 なんだこのフォーメーション?

 一応1-3-1で真ん中がフラットとなるのだろうが、先頭に白岩先輩?

 俺は相手チーム全員がニヤニヤと笑みを浮かべているのを見て、これが桜井の言っていた『戦術サッカー』というやつなのか、と思った。

※フォーメーション

陣形のこと。

よくテレビなどで『3-4-3』などのように数字で表されることが多い。

これは『DFが3人。MFが4人。FWが3人』という陣形を表している。基本的にキーパーは数に含まれない。

フォーメーションにもいろいろあり、最近の日本代表は『4-5-1』という陣形を取っていることが多い。

また『4-2-3-1』のように三列ではなく四列で表記されることもあるが、これは『DF1人。守り寄りMF2人。攻め寄りのDF2人。FW2人』というように、細かく表記したものである。なので、わからなくなっても真ん中の二つの数字を足してしまえば通常の三列表記になる。

四列表記がメジャーになるということは、今後五列表記なんかも出てくるわけで、『三列表記とはなんだったのか?』となりかねない。

もうわけがわからないよ。

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