再現リスト
いろいろと案を出し終え、『出来そうで出来ない』という次元のものは切り捨て、かつ地味すぎるものも排除した結果、いくつかの案だけが残った。
まずはテレビ番組でもやっていたという、キャプテン翼の『反動蹴速迅砲』。相手のシュートをカウンターでほぼゼロ距離で蹴り返し、そのままシュートするというカウンターシュート。これは実際に再現出来てたしテレビでも放送されて知名度がありそうということもあって、即採用となった。やるのは小笠原先輩と似鳥先輩。
次に一応キャプテン翼で有名な『オーバーヘッドキック』。足を振り上げて頭の上のボールを蹴るアレだ。そしてそれの派生形である『バイシクルシュート』。バイシクルはシュートというマンガで登場しているから、一応再現ということで採用。やるのは、元々オーバーヘッドをできる田辺がバイシクルを。同じく元々できる桜井がオーバーヘッドを担当。この二つはできるできないではなく、いかにきれいに見せるかが重要だそうで、自信のある二人に任せることとなった。
次はホイッスルの『ポストにボールを当ててパス』。一見地味だけど、ナレーション次第でよく見えるのではないかという石見先輩の案に乗っかっての採用。やるのは俺。シュートするのは西岡。ポストに当てるのはできなくもないだろうけど、それを思った方向に飛ばすのが難しそう。マグレを撮影してもらおう。
そして読んでいる人なら有名な、シュートの『ワンツーカウンター』。反動蹴速迅砲の一人バージョン。自分でバックスピンをかけたボールを数歩手前に蹴りだし、その戻ってきたボールに対してトップスピンをかけて撃つという一人カウンターシュート。これはできるかどうかわからないけど田辺がやってみるそうだ。
シュートばかりだと物足りないということで、言い出しっぺの桜井が『ダブルヒール』もやることとなった。ヒールリフトで腰辺りまで上げたボールをもう一度逆脚で蹴りあげて、タイミングをずらして敵を抜き去るというテクニック。『練習してみる』と言った桜井。あんなのできるかどうかはもうわからない。そもそも他のもできるかどうかはわからないのだから、不確定要素で良しとなった。
最後にギャグ枠ということでキャプテン翼の『スカイラブハリケーン』。やるのは白岩先輩と石見先輩。これを提案したのは小笠原先輩。笑いながら言ってたんだから、ギャグ枠というのは間違いないらしい。終始『こんなのできないって』と言っていた石見先輩と『俺にできるのがない』と嘆いていた白岩先輩のコンビだ。むしろ原作再現どころか完全に一致しそうな勢いだ。あとは石見先輩の前歯を出っ歯にすれば完璧。
そんなわけでいろいろと決まった。
よくわかったのは、サッカーを始めたきっかけが『マンガに影響された』という人が多かったということだった。
俺と石見先輩、白岩先輩、秋田先輩以外は全員がマンガに影響されたらしい。約半数。そりゃ話が盛り上がるわけだ。俺はサッカーをやっていたからこそマンガを読んでいたということもあったが、他は小さいころからマンガを読んで、その影響で『あんなキャラみたいなことをしてみたい』という憧れからサッカーを始めたらしい。しかし現実はあんなにホイホイ宙を飛べるはずもなく、理想と現実のギャップを突き付けられたが、現実のサッカーの面白さに気が付いたからこその今があるんだとか。小笠原先輩と似鳥先輩が語ってた。
やっぱり影響はされるものなのか。
桜井はというと、ノートにいろいろとメモをしながらも、周りの話を聞いてはフッと笑みを浮かべていた。そんな桜井を見ると、桜井も影響されたんだろうかと思った。
……先に言っておくが、別に桜井のことが気になって見てたわけじゃない。ただキャプテンをやると言っていた割には話し合いに口を出してこなかったから、何を考えているのかと思って見てみただけだ。他意はない。
「いやーとても充実した部活だったわー」
「田辺、楽しそうだったな」
「超楽しかった! 中学んときはあんなことしなかったじゃん? だから逆に新鮮って感じだった。しかも自分たちで作り上げてくって感じがたまんないよなー。西岡もそう思ったろ?」
「ん」
部活帰りに駅の近くのロッテリアで、三人で駄弁る。
中学の時は愚痴やらなんやらばっかりだったのに、と考えると、やっぱりこの名波坂高校を選んで正解だったのかもしれない。
そう考えていると、田辺が俺のことを見てニカッと笑った。それにつられて俺も笑みを浮かべた。
西岡もハンバーガーをモグモグしながらジッとこっちを見ているし、楽しいのだろう。
それだけでもこの学校を選んでよかった。そう思った。
※シュート
サッカーマンガ。掛川高校に入学した田中俊彦のお話。
キャプテン翼に次ぐ知名度のサッカーマンガ(個人論)。
キャプテン翼・ファンタジスタ・シュートは、同世代でサッカーをしていた人たちならどれかは読んでいるはず。
『久保さんの死』『幻の左』『フラッシュパス』は有名。