表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/45

中央突破

「「よろしくお願いします!」」


 センターサークルで互いに礼をした。

 自軍中央付近で円陣を組み、また桜井のベタでクサイ台詞に小笠原先輩がツッコミ、石見先輩が無理やり締めてフィールドに散らばる。

 今日は少しフォーメーションを変えて、3-4-3で真ん中をダイヤモンドにして挑んでいる。ほとんどは前と変わっていないが、小笠原先輩を3トップに組み込んで攻撃専門にし、前回キーパースタートだった桜井がダイヤモンドの前、ボランチのポジションに俺が上がった形になっている。前の練習試合でいろいろと試した結果、これが一番しっくりきたのである。DFが3バックになってしまい、世間一般では『3バックは守備力が一番高い』などと言われるのだが、うちのチームの場合は、SBの西岡と石見先輩が攻撃参加もするため、両SMFの秋田先輩と菊池が、SBの攻撃時には下がってDFに回るというシステムになっている。もちろん今回も俺の仕事はフォローメインなので、俺がそのDFのカバーに入ることもある。結局は戦況次第だ。

 そんなわけで相手のキックオフから始まった。

 相手チームの同郷の二人なのだが、スタメンに入っていないようで、二人ともビブスを着てベンチスタートとなっている。一応中学時代はレギュラーとベンチの間を行ったり来たりしていた二人なのだから、スタメンでもおかしくはないはずなのだが、やはり三年生最後の大会だからというのもあるのだろうか。それか単純にスタメンを取るほどの実力は無かったかのどちらかだろう。

 今の段階での錦岡高校のフォーメーションは、両サイドの選手がハーフウェイラインの両端に来ているためちょっとわかりにくいが、あーゆースタートダッシュを仕掛けてくるのはSMFだと相場で決まっている。なので、サークル内にいる2人がFWで、その両端と後ろでスタバっているのがMF、残りがフラットでDF4人。つまり4-4-2で、4-2-2-2いったところだろう。

 予想通りキックオフと同時に、両サイドの9番と7番がこちらの陣地内へサイドから駆け上がってきた。そんなことはだいたい予想するまでもなく、パスを出させないようにプレスをかけに行くのが定石となる。

 しかも今回は桜井がフィールドプレイヤーとしてスタメンでいるため、中盤よりも前の厚みが前回の比じゃなくなっているため、似鳥先輩と田辺のプレスの思い切りの良さというかキレが増しているように思う。

 そんなウチのFW二人が敵のFWの二人に襲い掛かると、たまらずボールを下げる。FWの11番が落としたボールは、下がり目に控えていた8番へと渡り、なおもプレスをかけに行く2人を避けるように左サイドへと流す。そこで田辺が追うのをやめ、似鳥先輩一人で追っていく。田辺はそのまま8番へのパスコースを塞ぐ。

 8番が出したボールの先には、DFと思われる6番が助走をつけて走ってきており、そのままダイレクトで大きく前線へと蹴り出してきた。プレスを振り切るには最適な行動かもしれないが、このボールは中途半端な場所へと飛んでいき、桜井と俺の間辺りに飛んできた。相手のFWはもっと前に飛んでくるものだと思って攻めあがっていたらしく、飛んできたボールは少し下がった桜井が胸トラップで軽く奪った。

 

「上がれっ!!」


 トラップと同時にスイッチを入れた桜井が大声で叫ぶと、前線に残っていた似鳥先輩、田辺の二人がスペースへ走り込む体勢に入り、小笠原先輩は桜井の斜め前を走り始めた。左サイドからは秋田先輩が走り、右からは桜井に送れるような位置で菊池が上がり始めていた。

 完全に前のめりになっていた敵の守りはDF4人にボランチの位置にいる2人。こんな序盤でまさかのチャンス到来。

 ドリブルで駆け上がる桜井を好きにさせてはマズいと、先ほどパスを出した8番が慌ててプレスに来るが、桜井のドリブルはそう簡単に止めることができるわけもなく、あっさりとスピードに乗った桜井に抜かれてしまっていた。スタートからトップギアの桜井。


「簡単に抜かれんな! 遅らせろ!」


 敵のキーパーからそんな言葉が聞こえたが、すでに数的有利になっているチャンスを桜井が逃すはずもなく、『ドドドドドド』と聞こえんばかりのドリブルで攻めあがる。

 そんな桜井にもう一人のボランチの10番がプレスに走ってきた。

 それを見た桜井は、並走気味に近づいていた小笠原先輩にパスを出すと、初戦でも俺との連携で見せたような壁パスであっさりと10番のプレスを抜けた。このパターンは練習を繰り返してきたので、桜井のパススピードも加減されていたし、もしも走り抜けた先に敵が迫ってきていたパターンも練習済みだったのだが、杞憂だったみたいだ。

 そんな連携でボールを持ったままペナルティエリアへと接近した桜井へ、敵のキーパーの指示が飛ぶ。


千葉(ちば)小田(おだ)も行け! 止めろ!」


 さっきは遅らせろとか言ってたのに、焦りが指示に出てしまっている。

 その指示に従ってCBの2人が前へ出た瞬間、スーッと田辺が横にスライドするように外に開き、それを視界に入れた桜井がすくい上げるようにして山なりのボールを田辺の元へ出した。前に来ていたDFの2人の頭を越えたボールは、田辺の足元へスポリと収まり、前に出てきたキーパーの股を狙ったシュートは、相手のゴールネットを揺らした。


「よっしゃー!」


 片手を上げて喜びながら戻ってくる田辺に、似鳥先輩と小笠原先輩がバシバシと平手の攻撃を加え、田辺が嬉しそうに痛がっていた。

 電光石火の中央突破だった。

 ともかく、これで先制点だ。

※外に開く動き


ボールを受け取る側がこの動きをすることによって、いくつかの利点が生まれる。

『DFの視界から外れる』

『パスを出す選手からすると、パスを出しやすくなる』

『オフサイドにかかりにくい』

ホントはもっとたくさんあるんでしょうけど、書いていたらきりがないので代表的な3つでした。

ちなみにFWの基本中の基本の動きでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ