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夏の大会

 夏の大会。

 この大会を最後に三年生が引退するという部活動も少なくはないはずだ。受験だなんだという時期ではあるが、部活を真面目にやってきた三年生はほとんどが参加するだろう。

 そのため、そういうチームの士気は厄介なほど高い。『三年生のため』『先輩のため』『悔いを残さないようにするため』。そんな想いがチームからにじみ出ている。

 が、ウチのチームには三年生がいないためにそんな想いがにじみ出ることはなかった。でもこちとら負けるために試合をしているわけではないので、負けたくないという気持ちは一緒だった。


 そんなこんなでその夏の大会が始まる。

 初戦の相手は錦岡(にしきおか)高校。俺らの出身校である大紋中からそこに行った奴が二人在籍している学校だ。 ぶっちゃけそれ以外の情報は無い。それも田辺が『たしかあいつらが行ったような気がするなー』程度だ。あとは前の大会で二回戦敗退という実績くらいで、対して強くないというのが伺える。とはいえ、初戦敗退しているウチからしてみたら格上なのは間違いないのだが。

 今回、ウチのチームには前の時みたいなゾーンプレスやらの秘策的なものはない。

 小早川さんと米田さんにも言われたのだが、ウチは『普通に普段できることを試合でできれば負けない』とのこと。

 桜井もそのつもりだったのか、いつの間にか戦術担当へと昇進していた藍野とシステムについてなんやかんやと話し合い、そう決めたんだとか。相変わらず藍野のポジションがよくわからない。

 そして今。

 試合直前の控え場所で、俺たちは最後のミーティングを行っていた。 


「俺たちは前とは違って11人揃ってます。ですが、それを有利として見ないように。前の大会で善戦できたとはいえ、所詮は善戦です。勝ってはいないですし、練習試合でも二軍に一度勝ったっきりで、後は引き分けか負けばかりです。今度こそ、今日こそ公式戦で勝利を掴みましょう!」

「「おう!!」」


 桜井のそんな言葉に、メンバーの半分くらいが威勢のいい声を上げた。

 もう半分は、元々寡黙な人間だったり、唐突な桜井のクサーイ台詞に笑いをこらえていたり、笑ったりしていた。ちなみに俺は前者。

 そんな笑っていた小笠原先輩、田辺、似鳥先輩に向かって桜井が少し照れながら言った。


「ちょっと、せっかく言い事言ったんですから笑わないでくださいよ」

「桜井ってさ、時々そういうクサイこと言うよな。ククク」

「言う言う」

「なんかマンガみたいだわ。ププ」


 またそんなこと言ったら桜井の豆腐メンタルが崩れますよー。


「まぁでも今回ばかりは勝つぞ」

「ばかりってなんだよ。今回からは負ける気はしないからな」

「よーし。じゃあ篤志! クサイ桜井の代わりにドカンと一発かましてやれ!」

「勝つぞー!!」

「ブハッ!」

「はえーよ」


 噴き出す小笠原先輩と似鳥先輩。

 もうこの人たちはいつも通りというかテンションだけで生きてるようなところがあるな。

 桜井をチラリと見たが、そのやりとりを見て笑っていたのでメンタルは崩れていないようで安心した。

 試合のためにグラウンドへ向かっている途中、西岡が俺の元へやってきた。


「緊張してないみたいだな」

「だな。みんないつも通りっつーかいつも通り過ぎるな」

「ハハハ。だけどそのくらいがちょうどいいだろ。変に緊張するよりも良い」

「緊張感は大事だろ」

「少なくとも桜井は緊張してるみたいだ」

「桜井?」


 後ろを指さした西岡の先を見ると、後ろでこわばった顔で最後尾を歩いている桜井がいた。


「……おい桜井」

「ん? なんだ?」

「なんだじゃねぇよ。何緊張してますーって顔してんだ」

「緊張なんかしてない」

「うそこけ」

「……翼はなんでもお見通しだな」


 気が付いたのは西岡だけどな。


「緊張もするさ。今回も負けたらキャプテン交代した方が良いんじゃないかとかって考えてしまうんだ」


 西岡と顔を見合わせた。そして桜井に一言。


「もうみんなお前以外がキャプテンなんてありえないって思ってんだから、今更キャプテン交代なんてありえないっての。もっと自信を持て」

「そうだ。桜井は自信が足りないと思う」

「翼……俊彦……」

「そうよ。私のシステムを批判してまでいろいろ練ってるんだから、もっと自信を持ちなさい」


 後ろからやってきた藍野にまで喝を入れられた桜井。

 桜井は、自分の頬を両手ではたいて、バシッといい音を鳴らした。


「よしっ。そう言われたら頑張るしかないな! いっちょ勝利をこの手に掴み取りますか!」


 気合いの入った桜井。

 だからそう言うセリフがダメなのではないだろうか?

 意外とロマンチストだったりするんだろう。

急に暑くなってきたせいでだらけてます

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