これで11人
「悪かった!」
「いえ。俺の方こそすみませんでした」
放課後、部活に参加するなり、小笠原先輩が桜井に頭を下げた。やはり気にしていたそうだ。
「それに部活サボったのも事実ですし」
「そうだよな。それは許されざる事実だよな」
「開き直んなボケがっ!」
「うごぁっ」
似鳥先輩の背後からのジャンピングニーが決まった。毎回やられてる気がするけど、痛くないんだろうか?
「まぁなんにせよ、これで全員そろったわけだ」
「キーパーが入ったんでしたっけ?」
「田辺のPKをほぼ全部止めてたんだ。ちょっと頭脳に難ありだけど」
「俺、篤志がPK決めてるの見たことないんだけど、どういうことだ?」
「中学の時はバシバシ決めてたんですけどねぇ」
「なんだ? 俺の話か?」
自分の名前が出てきたことで、近くに寄ってきた田辺に似鳥先輩が一言。
「PK下手くそだよなって話」
「ひっでぇ! 晃先輩ひでぇ!」
だいたいあってるんだから反論できまい。
アハハと笑っていると、むくりと起き上がった小笠原先輩が似鳥先輩の背後に立つ。
「人のことを蹴っておいて丸く収めようとすんじゃねぇよ……」
「お前ボールな!」
「家具屋てめぇ!」
逃げ出す似鳥先輩と追う小笠原先輩。
「ふむ。蹴って……丸く……ボール。上手いな」
そう言ってクスクスと笑う桜井。大丈夫か?
と、そこへ新メンバーの清水がやってきた。
「もしや昨日いなかった人……ということはあなたがキャプテンですか?」
「なんで敬語なんだ」
「そうだ。俺がキャプテンだ」
「おー! 初めまして! 昨日から入部している清水豊って言います! よろしくです!」
がっちりと手を握ってまっすぐ桜井を見つめる清水。しかし桜井の顔に見覚えがあるのか、首を傾げてうむと唸る清水。
「むむむ? どっかで会ったことあります?」
「ある」
「やっぱり! どこであったかなぁ。思い出せん……」
「ヒントは体育の授業だな」
「体育……でも先輩と体育で絡むことなんてあったかなぁ……」
「清水。桜井は一年だぞ」
「何言ってんだ。一年がキャプテンなんてするわけないだろ」
「ところがどっこい」
「……マジすか?」
キョトンとした顔で桜井を見る清水。
「マジだ。この間の体育では同じチームだった」
たしかに清水と俺がわちゃわちゃやっている同じコート内で、桜井は敵チームのDFをしていた。前線に上がって来なかったのだから気が付かなかったのかもしれない。
「マジか! マジか! 一年でキャプテンってすごいな! そんなに上手いのか!」
「おー! それはこの篤志様が保証するぜ! なんせ俺にサッカーバトルで勝った唯一の男だからな!」
「すげぇな! でも俺も篤志様とバトルした時には手加減してやってたけどな」
「なんだとー! じゃあもう一回勝負するか!?」
「望むところだ!!」
そう言ってゴールのほうへと走って行くバカ2人。
それと入れ替わるかのように石見先輩と白岩先輩がやってきた。
「おかえり」
「部長。ご迷惑おかけしました」
「いやいや。あんなことみんなの前で言われたら僕だってへこむって。桜井くんはもう大丈夫なの?」
「おかげさまで」
俺を横目で見る桜井。
「さすが持つべきものはパートナーだね」
「ですね。ハハ」
「でもこれでやっと試合になりそうだよね」
「さすがに10人だと厳しいですからね。それに経験者のキーパーが入ってくれたっていうのは大きいと思います。これでDFラインもまとまりそうですし」
「うんうん。まさかこんなに早く11人揃うなんて思って見なかったからうれしいね」
「そうだな」
ニコリと石見先輩が白岩先輩に向かって笑みを向けると、白岩先輩もそれに頷いた。
「最初は卒業までに11人揃ったら嬉しいとか言ってたからな。そう考えると凄まじいほどの発展だ」
「そんなこと思ってたんですか」
「だから一年には感謝しているつもりだ。ありがとう」
いつもドスンと構えている白岩先輩に改めてお礼を言われると、なんだかむず痒くなってしまう。それをごまかすかのように桜井と笑いあった。
とはいえ、こうして11人揃ったサッカー部。
これからが本格的な活動となってくるだろう。
俺たちの戦いはこれからだ!!
第一章 完




