自己紹介
「じゃあとりあえず、自己紹介といきましょうか」
サッカーバトル後、部室へと戻った俺たちは、桜井の提案で自己紹介をすることになった。
「俺は最後がいいから、誰かスタートを切ってくれ」
なんて投げっぱなしな。
そう思っていると、石見先輩が手を上げた。
「こーゆーのは一応部長の僕からいかせてもらうね。二年四組、石見祥平。ポジションは右MF。身長は……158センチ」
最後だけ尻すぼみになって答える石見先輩。自分であーやっていうってことは、やっぱり気にしてるのか。
若干自虐気味っぽかった石見先輩の自己紹介で、地味に重くなってしまったこの空気を晴らすかのように、石見先輩の隣にいた先輩がガタッと立ち上った。
「俺は白岩光一だ! ポジションは守りならどこでも。ドリブルはあんまり得意じゃないが、空中での競り合いなら負ける自信はない! よろしく!」
白岩先輩。石見先輩と並ぶとものすごい身長差を感じるほどの大きさだ。きっと180はゆうに超えているだろう。その上ガタイもいい。いうなれば、『巨漢』だ。
そして白岩先輩の隣の眼鏡をかけた先輩がため息をつく。
「順番的に僕か。僕は秋田信也。ポジションは……どこだろ?」
「俺に聞くな。そーゆーのは部長に聞け」
「えっ、僕に聞くの!? んー……信也くんは、MFとかでいいんじゃない?」
「じゃあ部長命令でMFになりました。高校から光一に誘われてサッカーを始めたばかりだから何とも言えないけど、サッカーは好き。テレビとかでやってたらよく見るし、一番面白いと思う。そんなわけでよろしく」
『そんな決め方でいいの?』と石見先輩が言っているが、秋田先輩は『ポジションにこだわりはないし』と返していた。
ふむ。秋田先輩は初心者か。でも今日までの一年間、他の先輩たちと一緒に練習してきたんだから、そこそこは動けるんだろう。身長は170くらいで、筋肉もついてなさそうなひょろっとした感じ。見た感じで初心者っぽさが出てる。
そしてその隣の先輩が立ち上がる。
「俺は似鳥晃。ポジションはFW。攻めこそサッカーの神髄。攻め続ければ負けない。何点取られても、相手よりも一点多くとれば勝てる。それがサッカー!」
「その気持ちわかります!」
「おぉ! サッカーバトルくん! 君とはいい酒が飲めそうだ!」
「俺、未成年なんで酒は飲めないッス」
「俺も未成年だ。まぁそんなわけでよろしく」
田辺と息が合った似鳥先輩。攻め脳の田辺とはホントにウマが合いそうで、体格も割と似てる気がする。兄弟かな?
握手を交わす二人に挟まれていた残りの先輩が、オホンと一つ咳をした。
「残りは俺な。小笠原淳。ポジションはトップ下。トップ下でボール回しをするのが好きだ。パスには自信ある」
「でも足が遅い」
「そうそう。……って他人から言われると腹立つわー」
「おーおー。怒んなって」
「ホントのことだから良いけどさ。家具屋が言ってる通り、俺は足が遅い」
「誰が家具屋だ」
「まぁよろしく」
西岡のさらに奥の桜井が『似鳥だから、家具屋か。ふむ』と言っていたが、こいつの頭の中がよくわからん。
小笠原先輩も似鳥先輩と同じくらいの高校生男子の平均的な身長。だが、手足が長いように見える。ドライブシュートとか得意そう。
これで先輩たちの自己紹介が終わった。
石見、白岩、秋田、似鳥、小笠原。以上五人がサッカー部の先輩。
石見先輩が自己紹介してた時はまだ抑えている感があったが、途中からは紹介に割り込みを入れてくることもあった。それほど仲が良いということなんだろう。そりゃまぁ、一年間も五人で一緒にいたら仲良くもなるわな。
でも部員全員がこうやって仲が良いっていうのは、少し羨ましい気もする。田辺と西岡がどう思ってるかはわからないけど、俺はこういうのを望んでた。だからここなら中学の時みたいなギスギスした関係じゃなくて、『仲間』としてサッカーと楽しめそうだ。
「じゃあ後輩のターンだ」
桜井がそう言うと、田辺が我先にと手を上げた。
「ハイハイハーイ! 田辺篤志です! ポジションはFWです! 難しいことはよくわかんないし、攻めるのが好きだからFWやってます! よろしくお願いします!」
元気の良い田辺の挨拶。部室内だとちょっとうるさいが、これが田辺だ。
試合中もどんなパスにも泥臭く追いかけていき、結果ゴールにボールをシュートして点を増やして帰ってくる。よくできる犬みたいなやつだ。人懐っこいし。
「篤志か! よろしくな!」
「はい、似鳥先輩!」
「俺のことは晃って呼べ!」
「はい、晃先輩!」
そんなやりとりをしてがっちりと握手をする二人。早くも師弟関係が結ばれそうだった。
田辺の隣に立っていたから、順番的に俺か。
「城戸翼です。ポジションはボランチからトップ下の真ん中らへんをやってました。たまにサイドもやってました。一応両利きです。よろしくお願いします」
うん。我ながら無難だ。
「えっ、城戸くんは両利きなの?」
「はい。中学の頃、ポジション争いが激しくて、それで生き残るために両方で蹴れるように練習しました」
「先輩、こいつマジですごいッスよ。両方の足でおんなじ風に蹴れるんですもん」
田辺が俺のことを指さして言う。先輩たちの目線が集まってとても恥ずかしい。そしてハードルを上げるな。もしミスった時の先輩たちの視線が痛いだろう。
そんな俺を見て、西岡が一歩前に出る。ナイスタイミング!
「西岡俊彦です。ポジションはDF。デカいからセンターばっかりやらされてましたが、運動量には自信があるのでサイドもできます。よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げる西岡。
西岡はデカい。最後の身長測定では187センチあったとか。しかもまだ止まってないって言うんだから、もうこれ以上デカくなってどうするつもりなのか。
そのデカい身長を生かしての空中戦は、西岡以上の勝率を見たことがない。きっと白岩先輩以上だと思っている。コーナーキックを俺が蹴る時、いつも頭一つ飛び出てる西岡を狙って蹴っていたのは、言うまでもない。しかし白岩先輩ほどのガタイがあるわけではないので、そのへんで負けるかもしれない。仲間でよかったな。
そして一通りの自己紹介が終わり、全員の視線が桜井へと移った。
「よし。俺の番だな」
桜井は組んでいた腕をほどき、その手を腰に当てて言った。
「俺は桜井恭介。ポジションはどこでもできる。サイドでもセンターでもキーパーでもFWでも。与えられた仕事はきっちりこなすタイプだ。そしてこのチームはとてもバラエティ豊かなチームだ」
それをいうなら『個性豊か』じゃないのか?
「そしてこのチームには欠点がある」
「け、欠点?」
石見先輩が尋ねる。
「それは……人数だ」
……知ってた。
わざわざもったいぶって言うな。まぎらわしい。
※ポジション(一応)
FW・F(フォワード)=攻める人。
MF・M(ミッドフィルダー)=真ん中の人。攻めも守りもする忙しい人。
DF・D(ディフェンダー)=守る人。
キーパー=手を使ってもいい人。
文字数の都合上、ポジションは今後英語で略す場合がございます。
R=ライト・右
L=レフト・左
C=センター・真ん中
S=サイド
例
CF=センターフォワード
LM=左ミッドフィルダー
SB=サイドディフェンダー
など。
後書きにて捕捉させていただく場合がございます。
ご了承くださいませ。