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逃亡

「ってことなんですけど、どう思います?」

「そりゃあ……」

「連れてくるしかないでしょう」

「だよな」


 昼休み、ウチのクラスに来た田辺と西岡、藍野の三人に清水のことを話していた。


「そいつは何者なんだ?」

「いや、それがなかなか会話にならないやつでさ、よくわかんないんだよ」

「いっちょ俺が聞いて来るか?」

「翼でダメだったんだから、篤志が行っても一緒だろ」

「そうそう……ってどういうことだよ!」

「……冗談だ」

「俊彦が言うと冗談に聞こえないんだよ」


 田辺と西岡があーだこーだと言っている中、藍野が口を開く。


「どうして清水くん、だっけ? その人はサッカー部に入らないのかしら? 中学でキーパーしていたなら高校でもサッカー部に入ってもおかしくないでしょ?」

「たしかに。確実にレギュラーになれるわけだし、レギュラーになれないからっていうのは違うだろうな」

「じゃあなんだ? サッカーが嫌いだからってのか? あっ、怪我してるとか」

「今日の体育んときはめちゃめちゃ走り回ってたぞ。あれで怪我だって言うなら、怪我人は危篤扱いしないとならなくなる」

「じゃあ家庭の事情かしら? 経済面で苦労してるとか?」

「どうなんだろうか? さすがにそこまでは……」

「あーもーじれったい! 俺が聞いてきてやる! それで万事解決だろ!」


 田辺が立ち上がった。そして廊下へ向けてバーッと走って、すぐにバーッと戻ってきた。


「翼!」


 まぁ言いたいことはわかっているつもりだ。

 さぁ言ってみろ。


「どれが清水だ!?」


 だよな。


 そんなこんなでお隣のクラスへとやってきた。

 清水は席に座って、他数人の友達と雑談していた。手には紙パックのジュースが握られている。


「翼」

「今度はなんだ?」

「経済面で苦労してるやつが昼休みにジュースを買うのか?」

「……知らん」

「よし、行ってくる」


 清水に向かって歩き始めた田辺。自分のクラスではないクラスはなんだか若干緊張する。でも田辺は気にせずズカズカと歩み寄って、目の前に立った。清水を含めた数人の視線が一気に田辺に集まる。


「お前が清水か」

「ん? そうだが……そっちは?」

「俺は田辺篤志。突然だが、お前、中学んときキーパーやってたんだってな」

「ややややってない!」

「嘘つけ! もう裏は取れてんだよ!」


 そう言ってドアのところにいた俺を指さす田辺。清水の視線が俺に向いたので、一応愛想笑いを浮かべた。すると清水は立ち上がった。


「な、なんだよ」


 急に立ち上がった清水にたじろく田辺。

 と思ったのもつかの間、清水が脱兎のごとく教室から走り去って行った。


「あっ! こんにゃろ! 俺様から逃げられると思うなよ!」


 清水を追いかけて田辺も走り去っていった。

 突然の出来事にケラケラと笑っていた清水の友人一同。その一人から手招きされたので、俺はそちらに向かった。


「清水って面白いっしょ?」

「え? あぁ、まぁ」

「あいつがサッカー部に入らなかった理由とか聞いた?」

「えっ、知ってんの?」

「やっぱり聞いてなかったんだ」

「豊が話すわけないか」

「人見知りだもんな」

「「「アハハハハハハ」」」


 なんだこの空気。


「それで清水がサッカーをやめた理由って……?」


 桜井のこともあったし、俺は少し慎重に聞いた。

 しかし友人たちはなんともかるーく話してくれた。


「あいつ、中学ではキーパーだったんだけど、『やっぱりサッカーの華は攻めだろ!』って思ったらしくて、サッカー部に入って攻めをやりたかったらしいんだけど、ほら、あの部活発表会で、キーパーの服着た人いなかったじゃん?」

「それで自分が入ってもキーパーをやらされると思って、サッカー部には入らなかったんだってさ」

「理由が超雑なのな」

「「「アハハハ」」」


 楽しそうにバカにしたように話す友人たち。

 やりたいポジションができないっていう悔しさはわからんでもない。でもそれだけでサッカー部に入らないって言うことになるんだろうか?


「っていうことは、まだサッカーは好きなんだよな?」

「俺らに聞かれても、なぁ?」

「好きなんじゃない? 今日の体育のサッカーも楽しそうだったし」


 サッカー好きなやつが簡単にサッカーをやめれるはずがない。きっとサッカーはしたいに決まってるはずだ。

 こういう交渉の類は桜井の得意分野なのに、肝心のあいつが機能停止してるのが悪いんだ。

 でもここは俺が桜井の代わりを果たさなければ。


「サッカー部に入ってほしいんだけど、清水って入ってくれそうにないかな?」

「どうだろうか?」

「さっきのを見てる限りだと、入りそうにないとかじゃなくて、会話になりそうもないしなぁ」

「なんとかしてサッカー部の練習を見に来るだけでもさせたいんだけど、なんか清水が来てくれそうなエサみたいのとかないかな?」

「んー……なんかあるか?」

「さぁ?」

「豊が好きなものか……」


 上を向いて腕を組んで考える友人一同。

 そして一人がクスッと笑ってから思いついた。


「あー、関係ないかもしれないんだけど、清水が食いつきそうなネタあるぞ」


 その言葉に俺は身を乗り出してしまった。

 でも後から思ったことなのだが、エサにしてもそれはひどいんじゃないかと思ってしまった。

 そんなんじゃ釣られないだろう。と思った。

「く、くまがそんなエサにつられるとでも思ってるのかくま!?」

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