スカウト
「おい」
「ん?」
体育の授業も終わり、グラウンドから更衣室へ向かう道中、俺はさっきの豪快ハンドを繰り出した例の彼に声をかけた。
「お前はさっき何回も俺のボールを奪った奴! なんだ? 復讐かコノヤロー。復讐なら満足か? サティスファクションか?」
「何言ってんだ。試合なんだから取ったって別にいいだろ。そんなことよりもさ、あんた名前は?」
「……武士に名を聞くときは自分の名前からっていう言葉があってだな」
武士じゃないじゃん。
「あー、城戸翼。ほい」
「俺は清水豊だ。で、何の用かな?」
「清水はさ、キーパーやってたのか?」
「ギクゥッ!!」
「!?」
清水のとんでもない驚き方に、俺の方が驚いた。
「ど、どうした?」
「いいいいいやや、別にななななんでもにゃいぞー?」
かみまくりじゃねぇか。
「なんでもなくないだろ。もしかしてキーパーやってたって言うのは隠してたのか?」
「ドキンッ!」
「!?」
身体をビクゥ!っと跳ねあげさせて驚く清水。また驚いてしまった。もしかしてめんどくさいやつか?
いちいち反応してたら話が進まん。平常心平常心……。
「き、城戸どはどどうして俺がキーパーをやっていいるるっってわわわかかったのかなー?」
すげぇな。この噛み方は逆にすごい。
「いや、試合中に俺が完全に振り切ったのに、そこから足じゃなくて手で反応してきたから」
でも決定的なのは自分で『昔の癖がっ!』って言ってたとこだけど。
「バレテしまっては仕方がない……その通りだ。俺は西松中学で正ゴールキーパーとして活躍していた!」
「やっぱりか。じゃあウチのサッカー部に」
「入らん!! ぜぇっっっっっっっっっっっっっっっっったいに入らん!!」
「……なんでそこまで」
「入らないって言ったら入らないんだ! これは俺が高校に入ってから決めたことなんだ!」
「そこまで拒まなくても」
「俺は一度決めたことは守る男! それが清水豊だ!」
「おいちょっと待て!」
清水はそう叫ぶと、ドカドカと走り去ってしまった。
なんともめんどくさそうな奴だった。
でも中学で正ゴールキーパーをしていたやつがなんでサッカー部に入らないんだ? なんか理由があるのだろうか?
とても短いですが、今日はこれだけ。
キリよく書いたらこうなっちゃいました。




