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体育で

「今日の体育はサッカーだ。じゃあ二列になって、チーム作って、紅白戦だ」


 そんなこんなで、今日の体育はサッカーだそうだ。

 正直、サッカーは部活以外ではそこまで真面目にやっていない。いや、真面目にやっていないわけではないのだが、あまり上手にやると他の未経験者との差が開きすぎてしまって面白くないというかなんというか。つまるところ『手加減』というやつだ。

 先生の言った通りに二列に分かれて、右チームと左チームに分かれての紅白戦。

 桜井とは別のチームだった。というか、桜井と同じチームになった試しがないような気がする。

 とりあえず俺のチームが赤、桜井のチームが白となった。

 一応成績には関係ないわけでもないのだが、来月に行われる球技大会の練習も兼ねての授業での紅白戦だそうだ。ちなみに外スポーツはサッカー、屋内スポーツがバスケとなっている。次の体育の時間にバスケをやって、どっちにするかを決めることになっている。本気で球技大会で優勝を狙うなら、サッカーのほうがいいんだろうなとは思うけど、こういう機会でしかできないスポーツにも興味はある。悩みどころだ。

 というわけで紅白戦が始まった。

 とは言え初心者の集合であるため、オフサイドはなし、スライディングもなし、過度なタックルはなしという、割と緩い感じの試合になりそうだった。

 俺はチームの話し合いの結果、経験者が守った方が良いということで、CBの位置にいる。やっぱりみんな攻めが好きなんだろう。現に攻めあがっている今、守りは誰もいない。全員攻撃、俺だけ守備状態だ。

 案の定ボールを取られた攻め組は、走って戻ってくる奴は数人で、ボールを取られたことを悔やんでいる奴ばかりだった。

 桜井なのだが、やはりあのことを引きずっているのか、テンションが低いままで淡々と守備活動に励んでいた。ボールを取って、声がした方へパスを出す。やる気ないなー。

 おっと。そんなことを思っていると、目の前に敵が近づいてきていた。

 一応後ろにもキーパーはいるが、あてにしてはいけない。どうせ『シュート=早い=怖い=避ける』となるんだろうし。


「ヘーイヘイヘーイ! こっちだ! 俺がフリーだぞー!」


 センターをドリブルで上がってきた選手がテンションの高い声がした右サイドへパスを出す。フリーっつーか全員フリーだよ。マークできないし。


「よっしゃ! まかせとけぇい!」


 ゴロで転がってきたボールを走りながら自分の前に蹴り出すようにトラップをした。

 ん? 経験者か?

 普通未経験者は止まってトラップをしたりするが、素で上手いやつなんかは、走りながら勢いを殺さないトラップをしてスピードを保つ。

 今のトラップは完全に後者だった。

 だがドリブルが上手かったり早かったりというわけではなかったので、追いつくのは容易だった。


「やべぇ!」


 口に出して自分のピンチを表現したそいつは、止まって足の裏でボールも止めた。

 そして周りをキョロキョロと見て、パスを出そうとしていたが、そこは俺がキチンとパスコースを塞いでおく。ライン沿いにしかドリブルできないようなポジショニングをして、真横にピッタリとついている。

 そいつはパスできないとわかると、フェイントを入れて抜こうとしてきた。

 止まっているボールの上で足を交互に行き来させ、またぎフェイントを仕掛けてきた。

 しかしそのスピードはゆっくりなもんで、なんというか今すぐにでもボールを取れそうだった。というか取った。


「くそぉっ!」


 非常に悔しそうな彼には申し訳ないが、いくら体育でも負けるのは嫌だから、ちゃんと仕事はさせてもらう。すぐに追いついてくるが、前線でボールを待っている奴らに対してロングボールを蹴り込んでやることに決め、俺は大きく踏み込んだ。

 すると後ろから追いついてきた彼が前へと回り込んできた。


「させるかぁっ!」


 腰を落としてパスを出させないようにされた。こんな状況、もっと厳しい中で何回もされてきたんだから、避ける術は心得ている。

 俺はキックフェイントを入れて横にずれると、彼から一歩以上離れた場所で再度踏み込んだ。

 今度こそ前線にパスを出す。

 そう思って蹴ったボールは、視界の端から伸びてきた手によってはじかれてしまった。


「はぁ!?」

「やべっ!」


 俺の驚きと、手の主の声が重なった。

 ホイッスルが鳴って、もちろんハンドを取られた。

 俺は伸びてきた手の主を見ると、自分の手をバシバシと叩いているさっきの彼の姿があった。


「いつもの癖ってこえぇ! バカ! 俺の手のバカッ!」


 癖? 経験者かと思っていたが、まさか……。


「城戸ー! チャンスだぞー! 早くくれー!」

「お、おう!」


 前線の攻め組に呼ばれて、ボールを早くセットして前線へと蹴り込んだ。

 蹴り込んだ後に彼にいろいろ話を聞こうと思ったが、彼はキチンと守備のほうに戻っていた。

 うちのクラスではなく、隣のクラスの彼に、あとで話を聞こうと心に決めた。

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