気まずい
明けて翌週の月曜日。
「おはよ」
「おう。おはよう」
教室に行くと、藍野とあいさつを交わした。
いつもなら席の都合上、桜井のほうが先に挨拶をしてくるはずなんだが……。
「桜井は?」
「さっきどっか行った」
「さいですか」
ということらしい。
やはりいろいろとくるものがあったのだろう。人前で黒歴史を言わされた上に、大爆笑されたんだ。メンタルがやばい。
桜井って、意外とメンタル面に問題があったんだろう。ってゆーか、中学で失敗したなら高校ではおとなしくしてればいいのに。
「城戸君」
「ん?」
「呼んでる」
そう言われて、藍野の視線の先を見ると、小笠原先輩が教室の入り口のとこで手を上げていた。
何かと思ってそっちへいくと、『来い』と言われて階段のほうに引っ張られた。連れていかれた先には、田辺と西岡、菊池もいた。
「で、どうしたんすか?」
「いや、その、なんだ。桜井、知らね?」
「なんかどっか行ったっぽいっす」
「マジか……あいつメンタル弱すぎだろ」
誰のせいだよ。もちろん心の中で留めておく。
小笠原先輩は頭をガシガシとかきむしった。
「あいつ、部活来るか?」
「さぁ? 俺にはなんとも」
「淳先輩があんだけ爆笑してたのが悪いんじゃないっすかねー?」
「だからこうして謝りに来てんだろうが」
「あでっ」
小笠原先輩が田辺を蹴った。
「言いすぎたとは思ってるんだ。でもあんなの忘れちまえばいいじゃんか。だからわざわざ新設校に来たんだろうし、それでも中学の時みたいにデカい口叩いてるのだって、あいつなりの信念っつーか意地っつーか、そんなもんだろ?」
やっぱりみんな思うところは一緒なんだろう。
「でも今日の朝練は来なかったッス」
「朝練? 何お前、朝練なんてしてんの?」
「…………まぁ」
『やべっ、しまった』という顔をして、しぶしぶ答えた菊池。人に口止めしておいたのに、自分からばらしていくスタイルか。やるな。
小笠原先輩は、顔を背けた菊池の肩を笑顔で叩いた。
「サッカーは楽しいもんなー」
「別にそういうわけじゃないっす。ただ足引っ張りたくないっていうかなんていうか」
「まぁ細けぇこたぁいいんだよ。そうやってサッカーが好きになっていくんだよなー。うんうん」
「おめぇは何様だよっ」
「いってぇ!」
後ろからのフライングクロスチョップをまともに受けた小笠原先輩は、後頭部を押さえて倒れた。
そして仕掛けたのは似鳥先輩だった。
「よっ」
「おっす」
「このバカは、もう謝った?」
「桜井が行方不明で謝ってません」
「行方不明って……大丈夫なんか?」
「学校には来てるみたいなんで」
キーンコーンカーンコーン。
チャイムが鳴った。
「やべぇ! おい、戻るぞ!」
「てんめぇ……あとで覚えとけよ……」
先に駆け出して行った似鳥先輩を恨めしく見ながら小笠原先輩も戻っていった。
顔を見合わせた俺たちは、肩を竦めて各自教室へと戻った。
戻ると、桜井が席に座っていたが、突っ伏していたので声をかけにくかった。
一時間目の授業が終わり、すぐに桜井に話しかけに行くと、俺の顔を見るなり突っ伏しやがったので、そのむき出しの頭にチョップしてやった。
すると桜井がむくりと起き上がって、なんともふてくされたような顔を見せた。
「ご機嫌いかが?」
「…………」
そっぽを向く桜井。小さい子どもかよ。
「まだおとといのこと気にしてんのか?」
「…………」
「昔のことなんていいじゃん。気にすることじゃないって。さっきそのことで小笠原先輩が謝りに来てたぞ」
「…………」
「…………」
ダメだ。会話が続かん。
と、桜井が立ち上がった。
「すまん。一人にしてくれ」
そう言うと教室を出て行ってしまった。そう言われたら追いにくい。
「次の時間、体育だからな」
俺はそれだけ言って、桜井の背中を見送った。
自分の席へと戻る途中、藍野に結果を報告しに行った。
「ダメだったわ」
「まぁドンマイ」
励まされた。




