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黒井直人

「知り合いか?」


 そう尋ねる小笠原先輩に、桜井は非常に簡単に紹介した。


黒井直人(くろい なおと)。同じ中学のサッカー部のやつです」

「ずいぶん雑な紹介じゃーん。もうちょっと話してもいいんじゃないの? ほら、恭介の黒歴史とかさ」

「やめろっ!」

「おーコワーイコワーイ」


 黒歴史?

 聞き捨てならないワードが出てきたとき、石見先輩が二人の間に割って入ってきた。

 ジッと黒井の目を見る石見先輩。それを見返す黒井。


「……なんすか?」

「君が誰だか知らないけど、ウチのキャプテンをバカにするのもいい加減にしてもらおうか」

「キャプテン? 誰が? もしかして、恭介が? プププー!」

「…………」


 それを無言で見返す石見先輩。表情は見えないが、怒っているように感じた。

 そして石見先輩に睨まれ、おちゃらけていた態度から無の表情を作った黒井。


「はぁ。何、怒ってんの? ちょっとからかっただけじゃん。心配して昔のチームメイトが見に来たのに、そんな態度は無いんじゃないの? ねぇ恭介?」


 桜井は何も言わなかった。いや、言えなかったのかもしれない。


「はぁ、つまんないの。じゃあまたな、恭介。帰るわ」


 手をヒラヒラと振って背中を向ける黒井。

 黒井の背中を全員が睨むようにして見ていた中、桜井だけが黒井の背中から目を背けていた。




 黒井が帰った後、試合後の高揚感はどこかに消えてしまい、なんだか不快感が残ってしまった。

 時間はまだ昼を少し過ぎたころだったが、各自解散することになった。

 なったのだが……。


「よし。これからご飯を食べに行こう」


 そう提案したのは石見先輩だった。


「あっ、俺はこれで……」

「こらっ。主役が何を言っているのかな?」

「そうそう。こういうのは飲んで忘れなきゃな!」

「いや、俺未成年ですし……」

「大丈夫だ! 俺もだ!」


 帰ろうと断りを入れた桜井は、小笠原先輩と似鳥先輩に腕を掴まれた。

 つまりそう言うことなのだろう。思いっきり笑顔で掴んでいるところを見ると、さっきの話を詳しく聞きたいという先輩たちの思惑によるものなのだろうと思った。

 そしてなんやかんやでやってきたのは、電車で数駅移動して徒歩数分の小さな食堂。

 中に入ると少し恰幅のいいおばちゃんが出迎えてくれて、奥の厨房からはやせ気味のおじさんが出てきた。


「おかえり! 試合はどうだったんだい?」

「ダメだったよ。負けちゃった」

「それは残念だったねぇ」

「でも楽しかった。やっぱり試合は楽しかった」

「そうかいそうかい。じゃあお腹減ったろ。なんか食べてくかい?」

「みんなの分も良い?」

「しょーがないねぇ。初試合の残念パーティーってことでおばちゃんに任せなさいな!」

「やった。いつもありがとね」

「いいってことよ! ほれ父ちゃん! 早くなんか作ってやんな!」

「結局俺が作るんじゃねぇかよ……」

「なんか言ったかい!?」

「言ってませんよー!」


 石見先輩と仲良さげに話していたおばちゃんは厨房へと消えていき、似鳥先輩がさっさと靴を脱いで座敷の席に上がっていったのを筆頭に、先輩たちは慣れたように席に着いた。残された一年組も靴を脱いで空いた席についた。ただし桜井だけは小笠原先輩と似鳥先輩の間に引きずり込まれた。


「さてと。じゃあ早速話を聞こうか」

「ちょっと待った!」


 田辺が手を上げて遮った。


「はい、篤志くん」

「俺、財布に400円しか入ってません!」

「大丈夫。ここはタダだから」

「なんでなんすか? さっきも石見先輩と仲良さげに喋ってましたけど?」

「さっきのおばちゃんがさ、祥平の母親の妹なんだよ」

「つまり僕のおばさん」

「なーる」


 納得。そう言うことだったのか。田辺、すっきりしたよ。

 でもタダで飲み食いしてもいいのだろうか? 先輩たちみたいにフリーダムには動けないので、借りてきた猫のようになんとなくその場にいるしかできないのが現状である。


「他に質問がある人はいるかねー?」


 似鳥先輩の声には誰も反応しなかった。


「じゃあ本題に入ろうかなー」


 桜井が視線を逸らしたのだが、残念、そこはノイアー……ではなく小笠原先輩がいた。

 聞かれたくないことを無理矢理聞かれるという状況にある桜井は、どこか新鮮だった。


「じゃあ桜井くん。いろいろ話していいよ」

「ま、丸投げですか……」

「話したいようにどうぞ」

「えー……」


 困る桜井。


「仕方ないなぁ。じゃあ質問形式にしてくか。じゃあまず最初の質問。あのさっきのムカつくやつは誰なん?」

「はぁ……」


 ため息をついた桜井は腹をくくったようで、諦めて答えていった。


「中学の時のサッカー部のチームメイトです」


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