ゲームメイク
後半20分。
桜井が入ってから、勢いがついてきたように思えた。
小笠原先輩のシュートは外れてしまっていたが、確実に流れはこちらに傾いていた。チーム内でも『これは逆転できる』という気持ちが芽生え始めていた。
前に桜井が言っていた。
『守りの練習は必要。でも攻めの練習はそこまでしなくてもいい。結局その場その場での個人の判断と勢いとノリなんだ』
その意味がなんとなく分かった気がする。
桜井が攻める時だって、変にパスを回したりせずに、なんとなくで攻めている感はあった。
こちらが一人少ないということで、相手も油断しているというのもあるだろうが、相手は守りに人数をかけるよりも、攻めのほうに回してくれているからこそ、パスが回ってスペースが生まれている。
そんな気がした。
だから、向こうのベンチから『守りを固めろ』という指示が飛んだ今、どうやってこじ開けるべきかと考えてしまった。
センターサークルの少し右側にいた桜井に駆け寄る。
「どうする? 向こうはがっちり固めてくるぞ」
「関係ないさ。攻め側が有利っていう人もいれば、守り側が有利って言う人もいるんだ。だから五分五分だ」
いや、そうはいうけどさ、向こうとは練習量は違うし、技術的にもこっちの方が下ってことを忘れるなよな。
「それにまだ切り札があるだろ」
「あー……そうだった」
忘れてた。これからが本番だった。
桜井が藍野のほうをちらりと見ると、首を縦に振る藍野が見えた。作戦決行の時間が来たのだろう。
全員待ち構えていたのか、桜井へと視線が集まり、そのアイコンタクトだけでスタートの旨は伝わったようだった。
あれ? でもちょっと待てよ?
「って、お前はどこに入るんだよ。菊池のポジションに入るなら、お前は俺よりも後ろに来るはずだろ?」
「俺も攻撃に参加するさ」
「でもそれだと事前に決めていたことが変わってくるだろ」
「大丈夫さ。うちには篤志がいる」
田辺? なんで田辺なんだ?
そう思って首を傾げると、桜井は田辺へ声をかけた。
「篤志! ボール集めるからマーク振りほどけよ!」
「はぁ!? 無茶言うな! 俺と晃先輩だけ二人ずつついてるんだぞ! 簡単に言うなボケッ!」
「アハハ。とりあえずパス回すから点決めろよー」
「おい、恭介!」
そう言うとクルリと背中を向けてしまった桜井。
「さすがの田辺でもあれは無理じゃないか?」
「まぁ二人ついてたら無理だろうな」
「お前は鬼か」
「だから俺が入るんだ。まぁ任せておけ。戦術で負けるわけには行かん。とりあえず翼は当初の予定通り、セカンドボールの確保に全力を注いでくれ」
「お、おう」
そう言って前線へと上がっていく桜井。
そして入れ替わるように戻ってくる西岡。
「桜井か。あいつすごいな」
「すごいなんてもんじゃないだろ。有言実行とはこのことかよって感じ」
「試合中にあんなに頭回るか、ってことだよ。しかもフィールドプレイヤーとして出て10分は経ってるのに、息なんか乱れてもいない」
お前もな。
身体にエンジンでも積んでんのかってくらいのスタミナ量だ。
「あいつは別格だろ」
「とにかく、俺の仕事はサイドから白岩先輩めがけてボールを上げることだ」
「そうだったな」
この時間からは白岩先輩も攻めに加わる。
代わって、というわけではないが、秋田先輩が下がって俺と並んでセカンドボールの処理と守備気味なポジションへと入る。
ここからはゾーンプレスの時間だ。
攻める際はボールをロストしてはいけない。必ずシュートで終わらせなければならない。
この二つを必ず守らなければ成立しない作戦だ。
失敗したらすぐに点を許してしまう。
ここからが本番だ。
2-3。逆転するにはまずは同点だ。




