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交代

 桜井が審判の元へと駆け寄り、正式に交代を告げ、その旨を藍野に伝え、藍野が第四審判へと伝え、交代が認められた。

 認められたが、菊池のキーパーのユニフォームが無かったため、ビブスとキーパーグローブを付けての交代となった。桜井はハーフパンツはキーパーの赤のままで、上だけ青の『1』のユニフォームに着替えていた。

 桜井はどこのポジションに入るのかと思っていると、西岡に一言声をかけ、そのまま駆け足で俺の元へと寄ってきて声をかけられる。


「翼。一つ上がってボランチだ。俺は右に入るから、小笠原先輩とフラット気味になるまで上がれ」


 俺に有無も反論も言わせる隙もなく、そのまま小笠原先輩にも同じことを伝え、小笠原先輩が少し下がり目の位置まで来た。

 顔だけこちらに向けて小笠原先輩が俺に言う。


「あいつ、大丈夫なのか? 結局下がって守備を固めようってことなのか?」

「俺にはなんとも……でもあいつのことなんで、考えがあるんでしょう」

「まぁ任せるしかないのか……」


 ピッとホイッスルが鳴らされ、相手のスローインで試合が再開となった。

 9番のスローインは右DFの6番がキープし、素早くチェックに行った似鳥先輩を避けるように最後尾のキーパーまで戻された。それをワントラップして軽くドリブルで進み、こちらの時間稼ぎと上がりを誘っていたので、田辺が早めにプレスに向かうと、すぐに逆サイドの4番へとパスが渡った。

 4番は目の前に空いたスペースを埋めつつドリブルで前進すると、10メートルくらい前の桜井が緩くプレスをかけてくるのが見えたであろう。ライン際に寄っていた14番に早めにパスを出すと、6番はそのまま14番の後方で待機した。

 そして14番にボールが渡ると同時に、赤いハーフパンツの桜井が一気にスピードを上げてプレスに行った。その急激なスピードの変化に驚いたのか、14番はプレスに来た桜井との間に身体を入れ、ボールを取られないようにとキープの体勢に入った。身体は前を向いているのだが、桜井のプレスが思った以上に強烈なため、前に進めていない。取られないようにするのが精一杯のようだ。

 そこへ、狙いすましていたかのように西岡が全力で上がってきて、桜井と共に14番のボールを奪いに行った。

 さすがに14番もキープは無理だったのか、はじき出されるようにしてボールを奪われてしまった。

 ボールを奪った西岡は、すぐに桜井へとボールを預け、そのままライン際を通って前のスペースへと上がっていった。その西岡をフリーにするわけには行かず、14番のサポートに入っていた6番は西岡についていく。すると、桜井がフリーな状態でセンターライン付近でボールをキープすることになった。

 桜井がキープしているのを見て、こうやって時間をかけてゆっくりと攻めあがるのは、この試合で初なんじゃないかと思った。一点目も二点目も、カウンター気味の奇襲でしか攻めておらず、中盤でのボール回しは皆無だった。

 ゆったりと桜井が前線の様子をうかがいながらドリブルで進んでいた。と、思った次の瞬間だった。


「上がれっ! 翼も小笠原先輩も上がれっ! 逆サイドもだ! FWはサイドに広がらないで中でボールを貰え! もっとDFをかき乱せ!」


 ドリブルのスピードを上げ、誰もプレスに来ないのをいいことに、ゴールへ向かってドリブルしながら、大声で指示を飛ばした。

 てっきりゆっくり落ち着いて攻めるのかと思いきゃ、まさかのほぼトップスピードでの攻めだった。

 ゾーンプレスの間はセカンドボールのキープを重視しろと言われていたもんだから。桜井と並ぶよりも後ろ程度で良いのかと思っていたが、まさかのそれよりも前へ出ろという指示だった。

 その激に反応したのか、敵の10番がたまらずプレスに向かった。ずっとセンターにいた10番がサイドに流れてまでプレスに行くということは、『マズイ』ということを感じ取ったのだろう。

 そんな10番が向かった先にいる桜井は、ドリブルを止めず、向かってくる10番へと突っ込む。

 あのスピードで抜き去るのかと思ったが、あと数歩でぶつかるというところですぐ近くにいた俺の元へ速いパスが出された。パスが来るだろうなと思って構えてはいたが、思っていた以上に速いパスだった。


「もどせっ!」


 パスを出した桜井が10番をフリーランで抜き去ると、折り返しのパスを要求した。

 俺は何とかして足に当てると、桜井の少し前のスペースへとボールは転がって行った。正直コントロールできたことに俺自身がビックリしていた。ラッキーだ。

 そこへ西岡へのマークを早々に切り上げたのか、6番が桜井の元へと迫ってきた。それを一瞬だけ首を振って確認すると、桜井はペナルティアークの左側へと向かって斜めに逃げるようにドリブルをつづけた。その先には似鳥先輩と敵DFの2番と4番が待ち構えていて、さらにその外には秋田先輩が9番にマークされながら待ち構えていた。

実質前のめりになっていた敵は、現在の守りはDFの四人と10番と9番の6人で守っていた。それに比べてこちらは中盤からドリブルで切り込んだ桜井と、両サイドの西岡と秋田先輩、FWの田辺と似鳥先輩、桜井を追うようにして小笠原先輩と、6人で攻め込んでいた。俺の目の前には、そこで桜井を追いかけようとしている10番を除くと、5対6の数的有利な状況が出来上がっていた。しかもマークはズレてきていて、FWの二人に付いているCBの二人以外にはきっちりと付いているものの、シュートエリアに入っている桜井へのプレスがまともにかけられていない状況にある。つまり混乱しているのだろう。今まで攻めていた相手が、たった一人の選手によってかき乱され、しかもその選手の動き方なんかが全然わかっていない。

 そんな混乱のDFへ向かっていく桜井はついにペナルティアークへと足を踏み入れた。

 ここでやっと田辺に付いていたDFの5番がマークを離して桜井へとアタックしに行った。

 横から6番、右前から5番、進む先には2番と4番。

 さすがの桜井も4人相手は無理だろう。

 しかし俺の位置からはしっかりと見えていた。

 敵のDFが桜井へ集中しすぎていて、右サイドの西岡、田辺がどフリーになっていて、さらに桜井の後ろを通ってクロスするように小笠原先輩が追い抜いていくのがはっきりと見えていた。

 完全にDFをひきつけた状況で桜井は、後ろから上がってきていた小笠原先輩が見えていたかのようなヒールパスで後ろにボールを流し、走り込んできた小笠原先輩がゴールマウスめがけて威力重視のシュートを思い切り放った。

 しかしそこはキーパーの守備範囲内だったようで、伸ばした両手に当たって、そのままゴールラインを割ってしまった。

 決定的なチャンスをキーパーのセーブによって止められてしまった。


「ちくしょー!」

「ナイッシュー! その調子でドンドン打っていきましょう!」

「悪い。決定的だったのに」

「問題ナッシングです! 切り替えてコーナーで決めましょう!」

「おう」


 俺はコーナーを蹴るために駆け足でコーナーフラッグの元へと走った。

 チャンスはダメにしてしまったが、桜井のおかげで士気が上がったのは確かだ。

 田辺が小笠原先輩に何か言っていたが、その直後に笑顔で腿らへんを蹴られていた。また何か余計なことを言ったのだろうか。

 

田辺「俺も空いてたんすよ?」

小笠原「うっせぇ」

ゲシッ(蹴り)

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