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責任

 ベンチに座る者。そのままグラウンドに尻をついて座る者。立ったまま腰に手を当てて休む者。

 それぞれ休み方は違うが、ハーフタイムに入ってからしっかりと休んでいる。それだけ余裕がないということだ。精神的にも体力的にも。

 俺は自分の役目を果たせず、しかもほぼ自分の責任で点を決められてしまったことを気にしていた。自分で言うのもなんだが、かなり気にしている。

 ベンチに座って休んでいる俺の前に、桜井が立つ。あれだけ『できる』と言っていたくせに、このありさまなもんだから、視線は合わせられない。そんなことはお構いなしに桜井は話し始めた。


「お疲れ。後半もこの調子で頼むぞ」


 少なからずイラッとしたのが自分でもわかった。そしてそれが言葉として出てしまった。


「お世辞はいいんだよ」

「お世辞なんかじゃない。俺は翼の活躍はきちんと評価している」

「活躍だ評価だ……だからどうしたんだよ。完全に俺の責任で点を入れられてんじゃねぇかよ。あんなに藍野さんのいうことに逆らってまで守備練習したっていうのに、結局この有り様じゃんかよ。あの練習は何だったってんだ」

「翼」

「あっ……」


 西岡に呼ばれ、我に返った。

 桜井が悪いわけでもないし、このチームの誰が悪いわけでもない。ただ相手のほうが一枚も二枚も上手で、こちらが一枚も二枚も下だったってことだ。それが点数として表れているからこの点差なのだ。


「……すまん。お前に当たるつもりはなかったんだ」


 唯一疲れを見せていない桜井が、小さく肩を竦め、フッと笑みを浮かべた。


「まぁ当たるのも仕方ないさ。こんな点差だ。誰だってイライラするさ」


 桜井はそう言った。なんだか時々こいつが同い年じゃなく思えてしまう。


「だが、俺が翼を評価しているのは本当だ」


 そう言って藍野さんのほうを見る桜井。それに答えるかのように、ノートを開いて何かを読み上げる。


「えっと、城戸君のミスから相手がシュートまで持って行ったのは最初の一点だけ。他は特に目立ったミスは見られなかったわ」

「は?」


 俺は思わず顔を上げて藍野さんを見た。藍野さんは依然としてノートを見ていた。


「桜井君の言うとおり、城戸君のミスはそのくらいよ。それにカバーにもキチンと入っていたし、パスも回していたように思えるわ。もしも城戸君を責めるような人がいるとしたら、その人はサッカーを知らないだけね」


 そう藍野さんはこちらへ目線を映しながら言う。相変わらず表情があまり動かないもんだから、これこそお世辞なのか本当のことなのかわからない。しかし二人とも冗談を言うタイプじゃないから、これは本当のことなんだろう。


「そうだぞ、城戸」


 地べたに座っていた小笠原先輩が、胡坐をかいていた足を伸ばして言った。


「他の二点は俺のところからの得点だ。責められるならそれは俺の役目だ」

「責めるだなんて……」


 小笠原先輩は、天を仰ぎ見ながら言う。


「そうだな。全部とはいかなくても、半分以上はこいつの責任だな」

「ちょっ、似鳥先輩っ」


 隣に座っている似鳥先輩が、小笠原先輩の肩を叩きながら言った。

 そして藍野さんに話を振る小笠原先輩。


「どうだよ美鈴ちゃん」

「どうだよって言われても……」


 桜井の顔を見るが、桜井は藍野さんに対して頷くだけだった。

 藍野さんは渋々といった感じで話し始めた。


「えー、小笠原先輩のミスは16箇所です。トラップミス等が4つ。他はほとんどがあの10番との競り負けがほとんどです。言い換えると、相手はこの10番と小笠原先輩とのミスマッチを突いてきています」

「完全に狙われてるな」

「だからこそ、この状況を打破しないとなんねぇ。で、方法はいくつかあるが、桜井はどうするんだ?」


 似鳥先輩が腕を組んで立っている桜井に声をかける。

 そんな桜井は小笠原先輩へ尋ねる。


「どうしますか? 後半もこれでいけますか? 先輩ができるなら俺は先輩を信じますが?」


 小笠原先輩はまた天を仰ぐ。それも数秒。

 そして桜井をまっすぐに見据えて言った。


「その、対策ってのは一応あるんだよな?」

「はい」

「……じゃああと一点だけだ。もう一点取られたら素直に桜井に従う。だがあと一点は先輩の好きにさせてくれ」


 その言葉に、桜井は笑顔を浮かべて言った。


「わかりました。では小笠原先輩に任せます」

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