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初試合

 相手ボールでのキックオフ。

 早速、ボールを持った相手の11番に向かって田辺が突っ込んでいく。

 相手はもう慣れているのか、後ろにいる7番へとボールを下げ、それでもまだ追ってくる田辺から逃げるようにCBの2番にまで一気に下げた。そのままDFラインでボールを横に回し、右DFの6番がドリブルで目の前の空いたスペースをゆっくりと上がっていく。そこへは秋田先輩がチェックに向かう。

 相手もすぐに仕掛けるようなことはせず、中央付近にいた10番へとパスが回る。この10番こそが先ほど桜井と話していた例の選手だ。そのことは全員に伝わっており、最初のチェックは小笠原先輩が厳しめに行く。キープしようとするその背中に、ファウルギリギリのプレスをかけるが、10番は当たりにも強いらしく、足裏でコントロールしているボールを小笠原先輩が奪うことはできなかった。

 もし小笠原先輩が抜かれたとすると、次のチェックは俺になる。

 俺は周りを見て次の行動を予測する。

 秋田先輩のほうにいる6番と9番。一応11番を見ている石見先輩もそちらは警戒しているようだ。中央は俺の前に7番がいる。菊池と西岡がいる右サイドは、菊池寄りに14番、西岡寄りに11番がそれぞれいる。どうやらフォーメーションとしては『4-3-1-2』になるようだ。

 そして10番は首を振って周りを見ると、小笠原先輩を少しだけ振り切ると、西岡のさらに外を走っていた8番へと長めのパスを出した。マークは振り切れてはいないが、通ればこちらがピンチになりそうなボールだった。

 しかしこれは通るはずもなく、西岡が後ろに走って行った8番との間に入ってボールをカットした。

 すぐに7番が西岡にプレスをかけに行くが、西岡は落ち着いて真ん中の白岩先輩へと回す。


「先輩」


 ボールを受けた白岩先輩へ声をかけると、俺へのパスが来る。


「ターン」


 ボールを受ける直前、先輩から声が聞こえ、ボールを受けてそのままターンをした。

 まだ試合開始直後で、こちらの陣地内ということもあり、敵からのプレスはさっきの西岡へのプレスだけだった。

 俺は目の前に空いたスペースを埋めるべくドリブルで進み、センターラインを越えた。

 そこでやっと10番が軽くプレスに来た。

 10番は俺の足元のボールじゃなくて、一応ディフェンスの体勢を取りながら顔を見て話しかけてきた。


「よぉ。十人だなんて舐めてくれんじゃねぇか」

「別に舐めてないさ。これがウチのフルメンバーですし」

「フルメンバー?」

「そっちこそあんまり舐めてると痛い目見ますよ」

「あん?」


 俺は10番が完全にこっちを舐めきっていることに少しムカついたので、10番の向こう側で走り始めていた田辺へとシュート性の速さのグラウンダーのボールを、相手の並んでいる二人のDFの間を通すように蹴り込んだ。

 油断していたのか、相手のDFの動きは少し遅れ、間に走り込んでいた田辺の足元へピタッと収まった。

 相手DFは慌てて二人で挟むように追いかけるが、田辺のドリブルはすでに五歩以上前を行っているため、後手後手に回ってしまっていた。

 ペナルティエリアへと侵入した田辺に、しびれを切らしたキーパーが、コースを狭めるために前に出てきて両手を広げた。

 しかしそれをあざ笑うかのようにほぼ真横にボールをはたいた田辺。誰もいなかったスペースに、ノーマークの似鳥先輩が走り込んできて、無人となったゴールへボールを正確に蹴り込んだ。

 そのボールはゴールネットを揺らし、俺たちの初試合での初得点となった。

 

「よしゃあぁっ!」


 似鳥先輩が大声をあげてガッツポーズをして田辺や秋田先輩たちとハイタッチを交わした。

 その時の相手のポカンとした表情はきっと忘れることはないだろう。開校二年目の新設校の、自分たちよりも一人少ない相手に開始早々点を取られたのだ。情けなさ過ぎる。

 我に返ったのか、こちらを勢いよく振り向いた相手の10番に対して言ってやった。


「俺たちの初得点に手伝ってもらってありがとうございました。ペロペロ」


 背中を向けて自軍へと戻る時、奥にいた桜井と目が合い、右手を大きく上げると、桜井も大きく腕を上げた。

 そしてほぼ同時に、ニカッと笑った。


精神攻撃は基本。デュエルの基本。


※「ターン」

ボールを受ける選手に対して言う言葉。

「ターン」=『後ろに誰もいないから振り向けるぞ』という意味。

対義語=「背負ってる」=『敵が来てるから気を付けろ』という意味。

チームによって異なりますが、今作ではこれを採用しています。



あ、もちろん出てくる高校などはフィクションです。

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