初戦の相手
ハーフタイムに入ったタイミングに合わせて、ボールを持ってグラウンドへと入る。
あらかじめ予定していた通り、パスの練習やシュート練習を行い、ボールの感覚を確かめる。
と、そこへ桜井が寄ってきた。
「翼。あいつ見てみろ」
桜井に言われ、その視線の先を追ってみると、明らかに一人だけボールタッチの柔らかさが違うやつがいた。ジャージを着ているため背番号はわからないが、顔は覚えた。
「多分あいつがボスだ」
「ボスって……。まぁキャプテンだろうな」
指示も出してるし、練習の仕切りもしているし間違いないだろう。見た目的にもがっちりとした体格で、きっと三年だろう。気合いの入り方が違う。
「ポジションはどこだろうな」
「どこにしても、翼と当たるのは間違いないだろうな。サイドっぽくない」
「勘じゃねぇか」
「勘も必要さ。でもきっと翼のマッチアップはあいつだ」
桜井に言われるとそうなんだと思ってしまう。だが覚悟しておくのは大事だ。心構えってやつ。
「それはそうと、どうだ? 調子のほうは」
「調子いいよ。浮足立ってるわけでもないし。朝の練習が効いたのかもな」
「それは良かった。走り回ってもらわないといけないから、緊張してたらどうしようかと思ってた」
「その辺は任せとけ」
「ふっ。期待してる」
肩をポンと叩いて離れていく桜井。そのまま近くにいた西岡にも声をかけに行った。もしかしたら全員に声をかけているのか?
その後も次々と部員に声をかけていく。
ハーフタイムの練習も終え、少し身体が温まる程度には動いた。
待機場所に戻ってきた俺たちは、ユニフォームに着替えて試合前のミーティングを行った。
全員の中心にいるのは、戦術盤を持った桜井。桜井の後ろには藍野さんが立っていた。
「今日が初試合です。結局十人しかいませんが、できる限りはやりましょう」
「何言ってんだ。勝つに決まってるだろ」
似鳥先輩の野次が飛んだ。
「もちろん勝ちます。負ける気なんてサラサラありません。引き分けならPKなので、逆にPKまで行けば俺たちにも勝機は見えてきます。でもPKまでには勝ちたいですね」
そう言って戦術盤を取り出してマグネットをカチャカチャと動かす。
「とりあえずフォーメーションは前に言った通り、FWに似鳥先輩と篤志、トップ下に小笠原先輩、右MFに菊池、左に秋田先輩、DFはダイヤモンドで前に翼、後ろに白岩先輩、左に部長、右に俊彦。で、キーパーに俺。システムとしては攻めるときは小笠原先輩中心、守る時は翼中心でそれぞれ動いてください。キーパーとして指示は出しますが、攻めの時はさすがに指示は出せないので、小笠原先輩に一任する形になりますが、お願いします」
「任せとけ」
「守りは翼、頼むぞ」
「おう」
そしてついに試合前。
待ちに待ったというか、来てしまったというか、なんとも言えない面持でベンチへと向かう。
ベンチに飲み物を置いて、ジャージも置いておく。
唯一ベンチに座る藍野さんは、バインダーにノートを置いてまた何か書いていた。きっとスコアを書くための準備だろう。
試合前のスパイクとレガースのチェックのため、全員で一列に並び、副審が後ろを通ってスパイクの裏を確認していく。それが終わると今度はレガースのチェック。
それも終わり、縦一列になりながらグラウンドの中央、センターサークルの中で相手チームと向かい合う。
相手は、新東高校。聞いたことはあるが、知らない学校だ。さっき桜井と話していた選手は、七番だった。
名波坂の青いユニフォームに対して、新東は黄色だ。キーパーはうちが赤、新東が黒。
そして桜井の前で行われている主審によるコイントスの結果、相手ボールからのキックオフが決まった。
試合開始の前に自陣の中央で円陣を組む。
「何か言いたいことある人はいますか?」
桜井が突然そんなことを言い始めたので、思わず全員が笑ってしまった。
「なんだよそれ。気が抜けるだろ」
「すまん。円陣のことすっかり忘れてた」
「キャプテンしっかりー」
「えー、じゃあとりあえず」
大きく深呼吸を一つ。
「絶対勝つぞっ!!」
「「おっしゃあっ!!」」
円陣を解いて各ポジションへとついた。
そしてそれを待っていたかのように試合開始のホイッスルが鳴り響いた。
補足です。
スタメン表
GK 桜井恭介 1
DF 石見祥平 2
白岩光一 4
西岡俊彦 3
城戸 翼 5
MF 秋田信也 6
小笠原淳 7
菊池貴央 8
FW 田辺篤志 9
似鳥 晃 10
数字は背番号。
※レガース
脛当てのこと。




