この二人
グラウンドへ向かうと、小笠原先輩に声をかけられた。
「あの二人はまだやってんのか?」
「はい。なんか睨みあってました」
「ホントにマネージャーとしてやってくれんのかよ」
「それはキチンとできると思いますよ。昼休みに桜井にスコアの書き方教えてもらってましたし」
「スコア? そんなの点数書くだけだろ? 俺でも書けるわ」
「えっ……」
ものすごい呆れた顔をして言う小笠原先輩。
じょ、冗談だよな?
「ん? なんだよその顔は」
「いや、マジで言ってるんすか?」
「は?」
「スコアっていうのは、誰がどういう風にゴールしたかとか、どういう形で失点したとか、フリーキックの結果とか、そういう試合中に起きたもろもろを書くやつですよ?」
俺がそう言うと、小笠原先輩はピタリと動きを止めた。
数瞬の沈黙が流れ、背中に変な汗が流れたのがわかった。
そして硬直から復帰した小笠原先輩が口を開く。
「まぁ知ってたし。それしかないよな。他に何も思いつかなかったわ。逆にそれ以外あんのかって感じ。逆に普通に言われたから逆にわかんなかったわ」
「そ、そうっすよね」
あははは。愛想笑いを浮かべると、急接近した小笠原先輩が俺の肩に腕を回してきた。
俺は思わず身を縮めた。
「城戸。わかってるよな? 誰にも言うなよ? 特に似鳥には言うなよ? あ? わかってるよな?」
「ハイ。ワカッテマス。ダイジョウブデス。ダレニモイイマセン」
「よし。わかってるならいいんだよ。そして今度俺にもそのスコアってやつの書き方を教えろ。いいな?」
「ハイ。リョウカイシマシタ……」
「あっれー? 小笠原くんと城戸くんは何してるのかなー?」
身体がビクッ!っとなり、肩に回されていた腕が頸動脈を圧迫し始めた。少し苦しい。
振り向くと、似鳥先輩がめっちゃニヤニヤした顔でこちらを見ていた。嫌な予感しかしない。
「な、なんだよ。別にまだ練習始められねぇんだから何してたっていいだろ」
「んー、でも晃ってばー、ちょっとスコアっていうやつの書き方がわかんないから書き方を教わろーと思ったんだけどー、これってー、淳先輩に教えてもらいたいなーって思ってー!」
わざとらしくそう言う似鳥先輩。やっぱり完全に聞かれてたパターンじゃないだよ。
プルプルと震えながら首への圧迫が強まっていく。ぐるじい。
「…………」
「あんれー? 淳くん教えてくれないんですかー?? あっ! ももももしかして書き方わかんないとかー? そんなはずないよねー! スコアくらい脱兎のごとく!」
言い切るかと思われた瞬間、ものすごい飛び出しで小笠原先輩が肩から腕を離して似鳥先輩に飛びかかっていた。似鳥先輩は持ち前の反射速度で逃げ始め、鈍足の小笠原先輩を一気に突き放していた。
「待てコラ! 家具屋!」
「ぼくちんスコアの書き方わっかんなーい!」
「……っ!」
声にならない声を出して小笠原先輩は似鳥先輩を追いかけ回していたのだが、これに終わりは来るのだろうか? というか小笠原先輩に勝ちは来るのだろうか?
俺は二人を見ながらそんなことを思った。
こっちの二人も仲がよろしいようだった。




