マネージャー
「というわけで、マネージャーをやってくれることになった藍野です」
「藍野美鈴です。よろしくお願いします」
勧誘した日の放課後、さっそく挨拶へと連れてきた。
「よろしく、藍野さん。部長の石見って言います。まぁ部長って言っても形だけだけど」
「美鈴ちゃんか! 可愛いな!」
「うむ。マネージャーが入るとはな。先にプレイヤーが欲しかった気もするが……まぁ良しだな」
「白岩はかてぇんだよ。この脳筋がっ」
「うん、よろしく」
それぞれ挨拶をし、秋田先輩が俺の元にスルスルと近づいてきた。
「城戸」
「はい?」
「桜井とあの子はどんな関係なんだ?」
「クラスメイト……なんですけど、なんかサッカーの戦術理論で盛り上がってました」
「サッカー好きの女子か。しかも戦術好き。これはレベル高いな……」
「先輩?」
そのまま離れていった。もしかして、あーゆーのがタイプなのか?
たしかにサッカー好きな女子は少ない。クラスでも一人いればいい方だろう。その中でもさらに戦術好きってなるとさらに希少価値は高まるだろう。
でも秋田先輩って戦術好きだっけか?
「それでは今日もフォーメーションの見直しをしましょう!」
「えっ、大会前に見直ししてるの?」
「あぁ。まだ上手く回らないんだ。とりあえず藍野に言われたやつを試してみようかと」
「あんなの身内で練習しても意味ないでしょ。もっと効率的にやりなさいよ」
「だがフォーメーションの確認をしておかないと本番で成功するはずがないだろ」
「……もしかして、守備練習ばっかりしてるの?」
「そうだが? 実際攻めは小笠原先輩と似鳥先輩、篤志の三人が軸になって、他に石見先輩と俊彦、翼が参加することになる。それこそあとは試合中の勢いで何とかするしかないだろう」
「そうかもしれないけど、攻められた後はどうするのよ。攻められた後にすぐに守りの形を整えられるチームなんてごくわずかよ。それなら守りは多少おろそかでも、攻めに力をいれればいいでしょ」
「守りを固めて、少ないチャンスで攻めあがる。そしてあわよくば点を入れ、後半の最後の最後にゾーンプレスで畳みかける」
「じゃあ点を先に入れられてしまった場合はどうするのよ」
「だから守備の確認をしているんだろう」
「確認確認って……桜井くんは頭でっかちね。攻撃は最大の防御って言うでしょ?」
「守りあっての攻めだ」
……ハラハラする。
昼休みもそうだったが、あまり表情を変えずに言い合いだけをする二人。口論というよりも、互いの戦術理論で譲れないところがあるからこその意見の違いなんだろう。現に昼休みにもこんな感じの戦術トークを繰り広げていたにも関わらず、こうして部活のマネージャーをしてくれることになったんだから、仲が悪いわけではないんだろう、と思う。
見るに見かねてといったようで、石見先輩が仲裁に入った。
だから喧嘩してるわけじゃないんだけど。
「まぁまぁ。二人とも落ち着いて。ケンカしなくてもいいでしょ」
「「ケンカしてませんけど」」
わぁ、ハモったー。
やっぱり仲は悪くないようだ。
「えっ、でもケンカ……」
「さっきも城戸くんに言われましたけど、私と桜井くんは別にケンカしてるつもりはないです。ただ桜井くんが頭でっかちだからいけないんです」
「俺は俺の信念を突き通したいだけだ」
「信念を突き通すのと頑固になるのは違うでしょ?」
「守りのシステムを理解していないと、スペースでき放題の攻め込まれ放題で試合にならないじゃないか」
「だから守りはシステムを理解できて、かつ行動に移せる人が状況に応じて行動すればいいのよ。この人数でガチガチに固めた守備は不必要よ」
「いいや必要だ」
またにらみ合う二人。
外野にはにらみ合ってるようにしか見えないが、本人たちは相手が譲るのを待っているのだろう。ややこしい。
横であわあわしている石見先輩。そんな三人を見て、小笠原先輩が大きくため息をついた。
「あーどうでもいいわ。戦術とかよくわかんねぇし。とりあえず攻めるなり守るなりどっちでもいいから練習しようぜ。時間は少ないんだ」
「だな。俺ももっと動きたい」
小笠原先輩が呆れながらボールをリフティングしながらグラウンドへと向かい、秋田先輩が付いていった。それに続いてぞろぞろとグラウンドへと行ってしまった。
結局最後まで残った俺は、依然にらみ合っている二人を見てため息をついてグラウンドへと向かった。
※システム
戦術のこと。
「フォーメーション」と「システム」は別。
「フォーメーション」は試合前の形で、「システム」は動き方。
野球でいう所の「打順」が「フォーメーション」、「バントや強打など」にあたるのがシステム。




