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不足要素

 大会まであと二日となり、部活にもどことなく緊張が漂い始めてきた。

 そんな大会直前の休み時間、同じクラスの桜井は、頭をポリポリとかきながらノートに書いては消し、書いては消しを繰り返していた。宿題なんて出ていただろうか、と思い後ろからのぞき込んでみると、そこにはフォーメーションやらなんやらのサッカー情報が書かれていた。


「うぉ」


 思わず声が漏れてしまい、それに気が付いた桜井が後ろを振り返った。


「翼か。どうした?」

「いやいや。お前こそどうしたんだよ。さっきからめっちゃ悩んでるみたいだったし」

「あー、ちょっとどうしてもうまくいかなくてな」


 まぁチームのことだろう。

 俺は桜井の前の席に座った。


「どれ。聞いてやろうじゃないか」

「助かる」

「で?」

「今のままだとディフェンスはあんまり機能しないように思えるんだ」

「あー……」


 昨日までの練習で、まともに攻めチームの攻撃を守りきれた試しがなかった。

 攻めチームとしては、『相手がゾーンで守っていること』というのを頭に入れながらの攻めになる。これは敵が少なからず対処してくるのを見込んでのことだ。しかし小笠原先輩はゾーンディフェンスのデメリットである『ミスマッチ』をうまくついてきて、今の弱点である初心者DFのところを狙ってくる。手加減なしだった。

 しかし試合でも、経験者と初心者の差と言うものは歴然で、動き方を見るだけですぐにバレてしまう。スポーツは技術も大事だが、なにより経験と知識も必要だ。読みや勘が当たるのも経験や知識が必要だ。

 実際の試合では石見先輩か西岡がSBに入っているものの、攻めあがった後のカバーリングをするのは俺であり、秋田先輩であり、菊池である。だからこそそこを突かれるとものすごく簡単にゾーンが崩壊してしまう。もっと言うと、ゾーン自体が機能しなくなる。


「思い切ってマンツーにするとか」

「それのほうが難しいと思うんだ。今のサッカーの主流がゾーンっていうこともあって、ほとんどがスペースへの飛び出しを練習してるから、マンツーならスペースに走られ放題だ。だからこそミスマッチを突かれてでもゾーンでいきたい」


 ここまで言われてしまうと、なんとも言い返せなくなる。


「……いろいろ考えてるんだな」

「でもそのゾーンが機能しないなら、サイドに翼を置いて、秋田先輩と菊池にプレスかけまくってもらうっていうのも考えたんだが、翼をサイドに置くのは勿体なすぎる。かと言って白岩先輩にサイドは難しいだろうし……うーん……」


 唸る桜井。本来なら桜井がサイドまでカバーできるであろうから、やはり根本的な問題は『人数不足』ということになるのだろう。


「思い切って似鳥先輩と田辺を下げたら? それで小笠原先輩にボランチまで下がってもらえば? そうすればもうちょっとディフェンスはしやすくなるだろ?」

「それは却下だ」

「なんでよ」

「俺が好きじゃないからだ」

「……さいですか」


 好みかよ。

 でもそれを突き通すのはいいことだ。負けるのは良くないことだが、この人数でここまで好みを突き通せるなら、楽しいだろう。

 二人でノートを見て唸っていると、ふと横から手が伸びてきた。


「ここにわざとスペースを作るっていうのは?」


 いきなり話しかけられ、何者かと思って桜井とほぼ同時に顔を顔を上げると、そこには眼鏡をかけた女子生徒がノートを見ていた。下を向いているせいか、耳元にかけていた髪の毛が垂れきたが、本人は気にしていないようだった。

 桜井は返答をせずにバッとノートに視線を戻し、指された場所を見て何か考え始めたかと思うと、先を催促した。


「続けてくれ」

「いいの?」

「参考になるかもしれないからな」

「……ここにスペースを作るでしょ? そうすると相手はここを狙ってくるのは丸わかりじゃない? わざと空けてるんだから、味方もわかりやすい。ということは、逆にここに攻め込ませちゃえば、守りやすくなるんじゃない?」

「ふむ……」


 顎に手を当てて考え込む桜井。

 『どうかしら?』と言って桜井の答えを待っている真剣な顔をした女子生徒。と、俺の視線に気が付いたのか、こちらを見て名乗った。


藍野(あいの)よ」

「藍野ね」

「同じクラスなんだから覚えておいてほしかったわ」

「えっ!」


 小さくため息をつく藍野。

 そうだよな。授業間の休み時間に教室にいるのなんて同じクラスの人以外いないよな。


「あっ、俺は」

「城戸君でしょ。で、桜井君。私は覚えてるわよ。同じクラスだもの」

「ですよねー……」


 クスッと笑ってそう言う藍野。

 真面目そうな顔して、冗談も言うのか。見た目の第一印象で決めたらいけないな。

 桜井の思考が終わったらしく、顎から手を離して口を開いた。


「うん。試してみよう」

「そう。参考になったならよかったわ」

「ところで、今度の土曜日は暇?」


 は?


「何も予定はないけれど。何? デートのお誘い?」

「まぁそんなもんだ」


 おいおい。


「あらま。でも彼氏は募集してないの。ごめんなさいね」

「彼氏希望じゃあない。よかったら今度の土曜日に大会があるんだが、マネージャーとして来てくれないか?」


 ……マジかよ。

※ゾーンとマンツー

活動報告にて語りました。

サッカー用語講座の②をご覧くださいませ。

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