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身内パス

 昨日の桜井の話があった次の日。早速言っていたゾーンディフェンスの練習へと取り掛かった。

 とはいえ、元々三対二ばかりやっていた先輩たちは、その練習自体がゾーンディフェンスの練習みたいなものだし、前の中学ではゾーンを採用していた俺と西岡も動き方は知っていた。他によくわかっていなかったのは、FWバカの田辺と、実質初心者の秋田先輩と初心者の菊池だった。

 そんなわけで、田辺・似鳥先輩・小笠原先輩・石見先輩の四人が攻め、西岡・白岩先輩・秋田先輩・俺の四人が守る練習となった。石見先輩は守りよりも攻めの機会のほうが多いほうが良い、という桜井の意見により攻め側に入っている。

 そして桜井はキーパーのポジションに入って、指示を出し、菊池はとりあえず横から見てる係。


「よーし。じゃあ始めー」


 そう言って桜井がパントキックでボールを蹴り、センターサークル付近にいた小笠原先輩がボールをキープする。

 とりあえず攻め側はゾーンを崩して点を取ること。もちろんミドルシュートでもなんでもOK。守りはボールをクリアすること。クリアはサイドラインの外に出すか、センターサークル越えが目安だ。

 キープした小笠原先輩へ向かって俺がとりあえず走る。このエリアなら、まだ軽く近寄る程度で問題ない。その俺の接近を嫌うように右の石見先輩へとパスが渡る。右DFは秋田先輩が守っているが、まだディフェンスするような距離じゃないので、ドリブルの警戒だけしている。

 そんな石見先輩へ、俺が小笠原先輩へのパスコースを塞ぎながらプレスをかけに行く。そうなると石見先輩は秋田先輩のほうへと進んでいくしかないため、ライン沿いにゆっくりとドリブルを仕掛ける。あわよくば秋田先輩が前に出てきてくれればというところだろうが、桜井の教えを忠実に実行している秋田先輩は、思い切ったディフェンスはせず、あくまで慎重にゾーンを崩さないようにしながら、急激なスピードアップに対応できる準備だけをしながら守っている。

 その間に俺が石見先輩へと詰め寄った。理論上ならばこれで俺がボールをとって終わりなのだが、そうは問屋が卸さない。というかそんな簡単なら戦術なんて必要ない。

 石見先輩はクルリと切り返して、後ろにフォローに来ていた小笠原先輩へとボールを戻す。

 俺はそのボールの行方を追いながら、逆サイドに田辺、中央と田辺の間くらいに似鳥先輩がいるのを確認した。そしてセンターは白岩先輩、田辺の前方には西岡がいるのも確認。


「先輩! 少し中寄ってください!」


 俺はボールを追うように石見先輩が俺の後ろのスペースに走り込んでくることを頭に入れながら、秋田先輩に指示を出し、パスコースを限定させながら、再度小笠原先輩にプレスをかける。

 また小笠原先輩は俺を嫌うように、早めに似鳥先輩へとパスを出す。

 似鳥先輩がいるエリアは、白岩先輩の守るエリア近辺なので、白岩先輩がほぼ全力疾走でプレスをかける。

 DFは、攻めの選手がボールを持った時に自軍のゴールの方向を向かせないのが基本となる。前を向かせてしまうと、シュートも打てるし、斜め前にパスも出せるという最悪のケースになりかねない。だからこそDFの仕事は『ボールを奪う』ではなく、『前を向かせない』というのが最重要となる。

 白岩先輩もそのことはきちんと理解しているようで、似鳥先輩の背中にプレッシャーをかけるように近づいてディフェンスをしている。似鳥先輩は、ボールを取られないように白岩先輩に背中を預け、足を伸ばして遠くでボールを足裏でキープしている。

 その時に似鳥先輩が取れる行動は三つに絞られる。

 一つは強引に白岩先輩を抜いてゴールへ向かう。

 一つは小笠原先輩へのバックパス。

 一つは田辺への横パス。

 石見先輩へは、秋田先輩を中に寄せたことで、飛び出した白岩先輩との距離が詰まり、石見先輩が受け取るスペースを潰しておいた。

 その三つのうち、似鳥先輩が取るべき行動は限られてくる。

 強引な攻めはリスクがありすぎるので無し。バックパスも俺がコースをカットしているから無し。となると田辺へのパスが可能性としては一番濃い。

 こうなるとDFとしては可能性が絞られる方が守りやすいというのがあり、俺がパスコースを完全に切り、白岩先輩ががっちり前を向かせないようにする。そうなると西岡のポジショニングがだいぶ限定されてくる。少し前まで強豪校のCBを務めていた男だ。動き方はだいたいわかっているだろう。

 それを察したのか、西岡が田辺と似鳥先輩の間を警戒し始めた。視界の隅で田辺がパスを受け取れそうな場所へと移動するが、それも西岡がカットする体勢に入る。

 これで積みだ。

 俺が後ろからは白岩先輩、パスコースは西岡、そして正面から俺。三人で囲んだ状態で、俺が似鳥先輩のボールを奪いに行く。そしてボールに足を伸ばした。


「後輩にボールを取られてたまるかってんだ!」


 似鳥先輩はボールをヒールで白岩先輩の右後ろへと蹴り出した。

 そっち方向には石見先輩がいるけど、そんなノールックなパスに反応できるわけがない。

 と思っていたのだが、


「晃君、ナイス!」


 闇雲かと思われた似鳥先輩のパスは、秋田先輩を置き去りにした石見先輩の足元へと収まり、そのままドリブルをしてゴール前へと切り込み、止める気が全くない腕を組んだ桜井の足元を狙ったシュートがゴールネットを揺らした。

 まさかの失点だった。

 俺と西岡が呆気にとられていると、白岩先輩が悔しそうに言った。

 

「くそっ! あの二人の得意プレーにやられた!」

「得意プレー?」


 っていうことは、去年の三対二とかの練習かアレをしていたってことか? あんなノールックパス止められるわけないだろ。

 まさかの超身内しかわからないホットラインによって点数を決められてしまった俺は、桜井を見た。

 桜井は組んでいた腕をほどいて言った。


「DF組ー。点数を決められたので、腕立て十回!」


 やっぱりあった罰ゲーム。つ、次は。次こそは止めてみせる。



※ノールックパス

周りを見ずに蹴り出すパス。

バスケなどではよく行われるが、ピッチが広いサッカーで行うとただの闇雲パスに早変わりしてしまう。

パスを出す方も出す方だが、受け取る方はタイミングもなにもわからないため、信頼度が重要になる。

目をつぶっているわけではないので、止められないこともないが、寄せ集めのチーム等で行う場合は、とてつもない視野の広さと、ボールへの嗅覚が必要。


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