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新設校の洗礼

 俺の名前は、城戸翼(きど つばさ)。この春、高校一年生として、ここ名波坂(ななみさか)高校に入学してきた。

 名波坂は去年開校したばかりの新設校ということもあり、倍率がそれなりに高かったが無事入学することができた。

 そして俺はこの名波坂高校で、サッカー部に入るつもりだ。

 小学校二年から中学卒業までの間、ずっとサッカーをやってきた。しかし俺の住んでいた地区が強豪だらけの地区だったということもあり、レギュラー争いが熾烈で、なんとか試合に出るのが精一杯の日々だった。友達はいたがそれも違うポジションでのチームメイト。同じポジション同士だとなんだが上手く仲良くできず、中学生特有の思春期さながらの照れくささや不器用さもあって、チームとしてはまとまっていたのだが、人間関係は全然だった。

 中学卒業と同時に高校からスカウトを貰っていたり推薦やら強豪校に進むやらで、必然的に仲の悪かったやつらとは別の高校に進むことになり、俺はせいせいしていたというのが本音だった。

 しかし! 今年からは違う!

 この新設校である名波坂高校で、俺は強豪校で培ってきたテクニックやらなんやらを余すことなく発揮し、レギュラー……いや、チームを全国大会優勝へと導くのが目標だ!

 サッカー部で仲の良かった田辺(たなべ)西岡(にしおか)という二人もここに進学し、三人でサッカー部を盛り上げていくことにしたのだ。

 新設校のサッカー部。わくわくする響きだ。



「初めまして。桜井恭介(さくらい きょうすけ)だ。この名波坂高校でサッカー部を全国大会優勝へと導くつもりだ。よろしく」


 俺は口を開けてその自己紹介を聞いていただろう。

 俺と同じ考えを持つ人間が、同じ学年、しかも同じクラスにいたとは。

 三つ後ろの席でそう言った桜井。

 思わず身体ごと振り返ると、そこには180センチある俺の身長よりも少し低めの男子生徒が立っていた。少し仏頂面ではあるが、イケメンと呼べなくもないラインの顔。ま、俺もそれなりにイケメンだけどな。

 振り向いた俺と目が合い、桜井が見下ろすように俺を見ると、口の端を釣り上げるようにしてフッと笑った。

 桜井の第一印象は『嫌味な奴』と俺の脳が覚えた。



 そんなこんなで放課後。

 俺は田辺と西岡との三人でサッカー部へと向かった。

 部室はグラウンドの横にある小さな小屋。そこが用具入れ兼部室となっているらしい。新設校だからなのか、小さいが綺麗だった。

 そこのドアを開けると、先輩と思しき人たちがジャージを着ていて、スパイクの紐を結んでいたりリフティングをしていたりしていた。五人。

 その人数の少なさに『あれ?』と思ったが、一応新入生なんだし、三人で揃って挨拶をした。


「入部希望の城戸ですっ! よろしくお願いしますっ!」

「同じく西岡」

「同じく田辺っす!」


 と、元気いっぱいの挨拶をすると、先輩たちは顔を見合わせてから、喜び始めた。


「やったぁ! 新入部員だよ! しかも三人!」

「これでミニゲームができる!」


 ミ、ミニゲーム?

 どういうことなの?


「あ、あの、先輩? ミニゲームってどういうことですか?」

「僕たち、ずっと人数が足りなさ過ぎて試合どころか二対三みたいな攻めと守りの練習しかできなかったんだよ! だから三人も入ってくれたら四対四のミニゲームができるよ!」

「あ、でもキーパーなしだからきつくね?」

「キーパーなんて通りすがりでいいだろ!」

「タイム!」


 田辺が大声でそう言うと、部室から俺と西岡を引っ張り出してドアを閉めた。

 そして中の先輩たちに聞こえないように小声で叫ぶ。


「ちょっとどういうことだよ! 『新設校+サッカー部=活躍=モテモテ』っていう俺の方程式はどこに行ったんだよ!」

「しらねぇよ! そんなこと考えてたのか、お前は!」

「当たり前だろちくしょー! こんなんじゃ試合に出るどころか、まともにサッカーもできないじゃん!」

「まぁ落ち着け。サッカーは八人いれば試合ができる」

「試合はできるけど、活躍できねぇだろ!」


 割と冷静な西岡が田辺をなだめようとしたのだが、西岡の頭をパシーンと田辺が叩いた。

 でもまさか五人だとは……俺もそれは予想外だった。


「おい。通してくれ」


 俺たちが部室前であーだこーだ言っているところに、やつが現れた。そう、桜井だった。

 桜井は俺たちがドアの前から離れると、なんの躊躇も無しにドアを開けた。そしてズカスカと中に入っていく桜井を、俺たちは開いたドアから覗いて見た。


「一年四組。桜井恭介。サッカー部に入部希望です。キャプテンの方はいますか?」

「あ、あの、僕がキャプテンの石見(いしみ)だけど」


 さっきの喜んでた人がキャプテンだったのか。先輩に対して悪いけど、ちっちゃい人だな。多分160無いんじゃないかな。


「石見先輩。俺は、サッカー部を全国大会に出場させます。だから俺にキャプテンをさせてください」


 とんでもないことを言い出した桜井に、俺を含めてそこにいた全員がその発言に口をポカンと開けた。

※キーパーは通りすがり

キーパーを設定せず、近くにいた選手がキーパーの代わりに手を使っていいというローカルルール。公式戦では絶対にないルールが、そこにはある。

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