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アフロババア

作者: 安部松堅二

 

 俺の知る限り、この街には三十三の都市伝説がある。この街は歴史が古く、地元民しか知らない怪談や逸話を学生時代にたくさん聞いた。街のせいなのか、俺はよく奇妙な事件に巻き込まれることがある。

 そんな俺の住む街は、最近でも都市伝説が増える。

 今日、友人を誘って浜辺で釣りを楽しんでいた俺は、友人から妙な噂を聞いた。

「お前、この辺にアフロババアっていう通り魔が出るって聞いたことあるか?」

「ああ、最近この辺に通り魔出るんだって? アフロババアっていうのは知らなかったな」

「遭ってみたいよなあ」

「そうか?」

 誰にも話したことはないが、昨日アフロババアに遭ったことがある。

 ただそいつは紛れもなく、俺が行く床屋のばあさんで、カツラなのかオレンジ色のアフロヘアーの姿だった。しかも、背後から突然現れ、俺の髪を切ると「カット代三百万円だよ!」と謎な事を言ってげらげら笑っていた。顔なじみだし、自分も面白い冗談かと思ったから、笑って流して何事もなかったように場を過ごした。

 そして今日の朝、新聞に通り魔事件が載ってて笑った。

 記事によると、最初は三日前に通報されてて、鋏で相手の髪を切ってお金を出せと要求してくるらしく、夜の暗みで顔は不明だがアフロだったらしい。あのばあさんは冗談でやっているのは知っていたが、夜に現れたらさすがに絶対怖いだろうな。

 友達は急に俺の肩を叩いて言った。

「おい、パトカーだ」

 五十メートル程離れたところに、パトカーの周りに警官が二人いて、もう一人の警官はおばさんと床屋の入り口の前で話をしていた。

 その床屋は俺がいつも行くとこだった。

「ああ、あそこ俺がよく行く床屋だ」

「まじか、まさかあのおばさんが犯人? ちょっと近くにいってみね?」

 俺と友達はさり気なく、客の振りをして警官の方に話しかけた。

「あの、すみません。髪切りに来たんですげど」

突然、周囲を見張ってる警察が止めにきた。

「今日はダメです、お引取りください。すみません、この人に見覚えありませんか?」

 警官は手に持った紙を渡して見せてきた。その紙には、アフロの男の似顔絵が描かれていた。

 友達は不思議な顔で言った。

「誰だこいつ。ババアの顔じゃないじゃん」

 全く自分も同じ感想だ。なぜなら、俺があの時遭ったアフロババアじゃないからだ。

 あのばあさんじゃなく、四五十代くらいのおっさんだろうか。

 なんだか、昔どこかで見たことがある気がしたが、確かばあさんの息子さんかな。はっきりしないけど、この絵の顔を見るとトラウマがあるような凄く嫌な気持ちになった。その顔は、アフロババアよりも不気味で犯罪者っぽい雰囲気が出ていた。

 ばあさんがアフロババアになった理由はこれだろうか。

 確信ではないけど、床屋のばあさんに何が起きたか予想した瞬間悲しくなった。

「お兄ちゃん、昨日遭ったでしょ!」

 突然、床屋のおばさんが俺の方を見てそう言ってくると、懐から見覚えのあるオレンジ色のもじゃもじゃの物体を出してかぶりだし、言った。

「カット代三百万円だよ!」

 友達は少し引きながら、「あのアフロババア何いってんの?こわ」と笑っていた。

 警察は俺に聞いた。

「あの方と昨日どこかで遭ったんですか?」

これはもう、昨日の出来事を話すしかないなあ。

「ええ・・・」

 アフロババアは俺が喋ろうとしたとき、大声で聞いてきた。

「あんた、ほれ! 昨日! 私、通り魔したでしょ!」

 俺は思わず笑った。

「あははは、そう、されたされた通り魔」

 警察の前で大声で言うセリフじゃなさ過ぎて笑ってしまった。笑いながら通り魔されたと言う俺もおかしいが。

 アフロババアは主張してくる。

「ほら、だから私が犯人でしょ?」

 友達はつぶやいた。

「あのアフロバアアなんであんな逮捕されたがってるの? マジウケんだけど」

「いやあ、もしかしてだけど、息子さんもじゃないかな、通り魔したの」

 やばい、警察に聞かれてしまった。

 警察は俺に聞いた。

「なぜそうだと思うんですか? 正直に思った事でいいので伺っていいですか?」

 俺は思ったことを警官に話した。

「まあ、あの絵の顔がたぶん床屋のばあさんの息子に似てるなあって。 ばあさんが急にあんな変なことする理由なんてもう一つしかないと思いますけど」

「その理由っていうのは?」

 本当は知っててここ来てるクセに、白々しい質問だと思ったが答えた。

「ばあさんの息子さんが最初に通り魔したんじゃないんですか? アフロババアなんかになって自分の息子かばってると思いますよアレ、身代りにでもなりたかったんですかね。もういいですか? 釣りしてたんで」

「なるほど、わかりました。ご協力、ありがとうございました」

 この日は、それからすぐ友達と釣りを再開して遊んだ。

 翌日、新聞に床屋の親子が逮捕された記事が載っていた。

 俺はあの床屋の息子に、初めて会った日を思い出した。俺は当時高校のとき、うつ病で市内の精神科クリニックに週三日で通っていた。あのとき見たんだ。長いストレートの髪をずっと触っていて気味が悪かった。

 あれから床屋はずっと閉店していた。床屋の息子は精神鑑定留置で病院にいるらしい。アフロババアはどうなったのか、どこで何をしているのかは知らない。

 俺はそれ以来、ピエロのババアに挟みで殺される夢を見るようになり、おかしくて笑いが止まらない。


 

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