4 目覚めると、やっぱり知らない場所でした。
翌朝。
目を覚ました蒼が最初に見た物は、見慣れない天井だった。
一瞬どきりとして、布団を抱きしめたままの姿勢で硬直する。
けれどすぐに、詰めていた息をほっと吐き出して、ごろりと寝返りを打った。
「…………あー、そっか。そうだった」
パニックを起こした昨日とは違って、ちゃんと思い出すことができる。
見慣れないけれどこの部屋は、ここを使ってください、と教授に案内された客室だ。
家具はベッドとサイドテーブル、それから椅子とランプしかないというシンプルな部屋は綺麗に片付いていたが、やはり普段は使用していないせいか少しだけ埃っぽくて。
昨日のうちに教授と二人で簡単に雑巾がけをしたり、箒で埃を払ったりしているうちに、日が暮れてしまった。
食事はどうするかと教授が聞いてくれたのだけれど、流石に食欲はなくて、それを伝えると、なんと風呂を準備してくれるという。
それには大喜びで飛びついた。
ついでに、サイズが合わなくてもいいからと、寝間着代わりになりそうな教授の服を貸してもらうことにも成功して。
案内された浴場はちょっとした温泉のような広さで、床や壁は高級そうな石材でできていた。
予想外の広さにまず驚き、湯船で湯気を上げている乳白色のお湯が、滾々と湧き出る正真正銘の温泉だと聞いて更に驚いた。
ちょっと変わった形だったが、蛇口やシャワーもあって、ちゃんとお湯も出た。
一人で肩までお湯につかってぼんやりしていれば、やっぱりここは日本で、ドッキリ番組か何かに、知らない内に参加させられているだけなのではないかと疑ってしまったのも、仕方ないと思う。
もっとも、風呂から上がった後にそれを教授に伝えたら、冷たい目で見返された挙句に鼻で笑われ、あわや喧嘩再びとなりそうだったことはあまり思い出したくない。
それから与えられた部屋に行き、ベッドにもぐりこんだのだが、すぐに睡魔に襲われて、夢すら見ずに熟睡してしまった。
そんなに重労働はしていないはずだったが、自分で自覚していた以上に、心身ともに疲労していたのかもしれない。
とはいえ、熟睡できたおかげか、昨日よりも頭がすっきりしているような気もする。
「着替え……どうしよう」
手元にあるのは、寝間着として着ている教授のシャツとズボン、それから昨日着ていたワンピースだけだ。
流石に昨日は洗濯をする時間まではなかったから、ワンピースは洗えていないけれど、これを着るしかないだろう。
一晩泊めて貰って、お風呂も借りて、多分食事も用意して貰えたのだろう昨晩のいたれりつくせりを思い出せば、もう一着服が欲しいなどと更に我儘を言うのも気が引ける。
何より、サイズがあっていないのだ。
身長の違いからも分かっていたことだったけれど、教授の服は蒼にとってはかなりだぼだぼだった。
袖をまくり裾を折り、腰は紐で縛ってやっと動き回れるようになるほどで、たぶんこれが服に着られているという状態なのだろう。
記憶がないから正確な年齢はわからないけれど、多分年頃の娘としては、明るい昼間にそんなぐだぐだな姿を見られるのは恥ずかしいし、情けない。
きちんと畳んで枕元に置いておいたワンピースを広げ、肩の辺りをつまんで目の前に掲げてみる。
大丈夫。目立つ汚れはないし変な匂いもしないから、我慢できないほどではない。
着替えてカーテンを開けて、窓の外に見えた風景は、どうやら森か林だった。
きらきら光る緑色の葉を、微かな風が揺らしている。
見える範囲に、他の建物は一切ない。
ということは、この家はどこかの町中ではなくて、自然の中に建てられている一軒家ということだろうか。
ふと見上げた空は、快晴だった。
蒼は顔をしかめて、すぐに目をそらす。
「……見間違い、見間違い」
窓の端ぎりぎりに見えた太陽。
記憶にある日本のそれより、かなり大きいなんて、きっと気のせいだ。