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賢者のイシ  作者: 駿河甲斐
act4 導き
14/98

13 蒼と教授の関係。そして狼が姿を現す。

「うーわー。おっきい家……っていうか、もはやこれ、ちょっとしたお城」

重厚感溢れる、白いレンガ造りのお屋敷。

のしかかってくるような巨大さに圧倒され、蒼の声は上ずった。

見上げると、無理矢理に曲げる羽目になった首が痛い。

見慣れた水路と低木に囲まれた屋敷は三階建てのようだ。

数ある窓は空の色を反射し、周囲をも巻きこんでオレンジ色に染まっている。

「大げさですね。それほど大きくもないでしょうに」

教授は本気でそう思っているらしい。

彼の家も、かなり大きな屋敷だった事を思い出して、蒼はじとりとした目線を送る。

「あー……教授ってさ、値札見ないで買い物するタイプでしょ、絶対。金銭感覚とか、なんか麻痺してそう」

「何を一人でぶつぶつと」

「価値観の違いについての考察を少々」

「そうですか。思考を繰り返すことは大切です。が、時と場合を考えることは、更に大切ですよ」

堪えた風もない教授はそっけなくそれだけ言って、さっさとドアベルを鳴らしてしまう。

蒼は、繰り返しの呼び出し音に何の反応もない屋敷を再度見上げた。

「留守、だね。うーん、困った」

「本気で困ってるようには見えませんが」

蒼は、むっと柳眉を逆立てた。

「困ってるよ。でも、困った仕草したって何も変わらないじゃない。だったら、ポジティブにいかないと損、損」

「お気楽な人ですね、貴女は」

呆れたように言われるが、気にしない。

条件付きではあったが、前向きなのは良いことだと教授に言われたばかりでもあるし、何事も前向きに考えることが出来る自分の思考は、嫌いではない。

きっと記憶をなくす前の『私』も、同じような思考回路の持ち主だったのだろう。

なら、それでいい。それが、いい。

「しかし」教授が屋敷を見上げた。「災種(カリク)が解放されていたら事態は一刻を争うのに、賢者はどこで何をしているんだか。どこかで新しく現れているかもしれない災種(カリク)を、把握できない問題もあるというのに」

「その問題って、記述書が使えないせい?」

「そう。現れた場所がわからなければ、早い段階で消滅させることができませんから、色々と面倒なんですよ」

教授が苛立たしそうに足元の小石を蹴った。

石が描いた灰色の軌跡を目で追いながら、蒼は「でも」と呟く。

「ここまで災種(カリク)は見かけなかったし、そんな慎重にならなくてもいいんじゃない?」

「いいえ。災種(カリク)に関しては慎重になりすぎるくらいが丁度いい。……それが、オレ達に課せられた〈約束〉(マナ)であり、責任だから」

言いながら教授がどこか苦しそうに表情を歪めて、蒼は首を傾けた。

責任。

この単語を、確か以前にも聞いたことがある。

「責任、ってどういう意味?」

「……貴女には、関係のないことです」

教授は短く言って言葉を切った。

それは明らかな拒絶。

そうわかってしまったから、蒼は何も言えなかった。

微かにちくりと痛んだ胸元を、彼に気付かれぬように押さえる。

(関係ない、かぁ。それはそうなのかもしれないけど……)

関係。

教授と自分の関係はなんなのだろう、と考えてみる。

今一緒に行動しているのは、お互いに『賢者に会いに行く』という目的が一致しているからだ。

教授は記述書の件を確認するために。

蒼は導きを受けるために。

けれど、それぞの目的が済んだあとは?

教授は賢者と一緒に、黒く染まった記述書を調べようとするかもしれない。

では、自分は?

賢者のもとで何か分かればいい。

けれど、何もわからなかったら?

「蒼」

地面を睨みつけていた蒼は、どこか緊張を含んだ教授の声に顔を上げた。

「あ、何?」

「動かないで下さい」

「え?」

「何か……います」

すぐそばの低木が、がさりと音を立てた。

教授が、蒼を庇うように一歩前に出る。

姿を現したモノを見て、蒼は悲鳴と息を飲みこんだ。

それは教授の屋敷で見た、藍色の狼だった。


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