そして
・・・すっかり忘れていたけれど。
「アルトが彼女であるあたしからのデートのお誘いをあっさり流したって事実は変わらないわけよね・・・」
今日から夏休み。アルトからの謝罪は一向に来る様子がなく。
まあ、多分悪いことしたのに全然気付いていないってオチなんだろうけど。
そう思ってため息をついた瞬間、寮内放送のアナウンスが流れた。
・・・あれ、あたし呼ばれてる?
「う、先生の刷毛パクったのもうバレた・・・?夏休み早々ツイてない・・・」
部活で描いてる絵にどうしても必要で、こっそり拝借したんだけど・・・。返すの忘れて放置してたんだよね。でもなんであたしって分かったんだろう。
無視しても後が面倒なので、あたしはおとなしくロビーへ降りていった。
「―よぉ。元気か?」
「・・・・・・うそ」
そこにいた人物が片手を上げた。
少し短くなった髪。がっちりした肩と何よりぐんと伸びた身長―
「―アルト!?」
「なんだよ、そんな驚いた顔して」
そう言ってアルトは笑う。ああ、アルトだ、アルトがここに居るんだ・・・!
「アンタあのキュートだった身長をどこへやったの!?」
「いきなりそれかよ。ああ・・・まあ、な。やっぱり運動した方がいいかと思ってバスケ部入ったんだ。・・・おい、聞いてるか?・・・・・・・ちょ、おい近付くな!・・・測るな!そしてガッカリすんな!こっちがみじめになるわ!!」
「だって思ったよりおっきくなかった・・・まだあたしより低いし。筋肉に騙された」
「う、うるせえな。これでも一応伸びてんだよ」
アルトは拗ねたようにちょっと口を尖らせる。かわいいと思ったのは内緒だ。
「それより、ほら」
「なに?」
「行くぞ・・・デート」
一瞬その言葉の意味が分からなくて固まる。
「は?」
「は、じゃねーよお前が行きたいって言ったんだろうが」
だってそれはアルトが流して・・・
「“バカいうな”とか、言ったじゃん・・・」
「はあ?・・・ああ、違ぇよそれ。お前がここ飽きたとか言うから、それに対して言ったんだ」
え・・・じゃあ、なに、あたしの勘違い・・・?
「夏休み入ったら行こうってこうしてちゃんと入校手続きも取ってだな・・・。結構大変だったんだぞ?」
「なんで・・・そんな」
「・・・なんか・・・・・・あったんじゃねえかなって、思って」
アルトはそう言って真面目な顔をした。
「そしたら、居ても立ってもいらんなくて・・・連絡もしないで初日に来ちまったんだけど。・・・悪いな、いきなりおしかけたりして」
心配して来てくれたんだ・・・。やっぱり、離れたってアルトはアルトだ。
あたしの大好きな、アルト。
「ううん・・・・・・ありがと」
あたしは久しぶりの明るい声を出して、
「―さっすがアルト。それでこそあたしの彼氏ね」
いつものように、そう言った。
ええ、鮃です。ペンネームが読めない、という指摘をいくつか頂いたので一応言っておくと、平目、です。これできっと読めると思います。こっちだと字面が限りなく本名に近付いてしまうので敢えて常用じゃない方の字にしましたと言いつつただ画数多い方がかっこいいと思t(ry
●前作がうまくまとまったので続編とかは要らないかなあ、と思っていたのですが、枝葉が「あのね、アルトがね、アルトがね」としつこく惚気てきて、うるせえ黙れ!と一蹴したら今度は「あのね、アルトったらひどいの、もう信じらんない!」とか愚痴り出しまして、そうなったらなんだか何があったのか気になって仕方がなくなり、駅のホームで携帯を引っ張り出して枝葉の愚痴をひたすら打ち込んでしまった次第です。ちなみに実話です。
●そうそう、今回一番困ったのがその「即興」でした。前作はほぼ一晩で書いたものだったので、キャラ付けとか一切考えてなかったんですよ・・・。それをもういちど掴み直すのに大分苦労しました。おそらく自分の一番書きやすいように書いたはずなので今回もそうすれば同じようになるかなあと思ったんですが・・・。違和感とかあったらすみません。
●枝葉を書くうえで迷いがなかったことと言えば、「アルト大好きっ子」であることでした。アルト視点ではちょっと伝わりにくかったのですが、彼女はもう本当にアルトにベタ惚れです。その辺を書くのが楽しかったかなあ、と。
●予想を完全に裏切ったのは渚ちゃん。彼女は、アルトのそっけなさにムカついた枝葉に「私だったら切っちゃうけどなあ」と呟くだけの存在だったはずなんですが・・・。いつのまにやら設定(また即興ですが)が増えて、物語の核心となる人物となっていました。ただまあ一つ文句を言いたかったのは、「iinntyousann」って打つのがすごく面倒臭かったってことなんですけど・・・。もう最初から名前で呼ばせてしまおうかと迷ったんですが、「nagisatyann」と打ったところで大して労力は変わらない気もしたのでそのままにしました。