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続 コイノボリ  作者:
2/4

怪しい委員長

「えっ、折村さんって彼氏いるんだ」

「・・・まあ。幼馴染なんだけどね」

翌日の3限、化学の答案返却でのことだった。時間を持て余してお喋りしていたあたしは、もともと努力して隠す気もなかったそれをすぐにバラしてしまった。

「幼馴染かあ・・・いいね。私、ちっちゃい頃は引っ越してばかりでそういう人作れなかったから憧れるな」

委員長さんはそう言って窓の外を見やった。

「そんなにいいもんでもないと思うけど。アルトってば堅物だしその上面倒臭がりだし」

こちらに視線を戻すと、委員長さんはあたしの顔を不思議そうに眺めた。

「よく分かんない人だね」

「でしょ?それにさ―」


あ、ヤバいと思ったときにはもう遅く、あたしは彼氏の居ない(というか居なさそうな)子に向かって盛大に惚気話(愚痴も2割くらい)を披露してしまっていた。

「・・・ごめんねなんか。こんな話聞いても面白くないよね」

流石に申し訳なくなってそう言うと、

「あ、ううん。そんなことないよ。面白い人だね、折村さんの彼氏さん」

委員長さんは笑って手を振った。

・・・良かった。こういうの気にしない人みたいだ。心配して損したかも。

「私彼氏とかそういう人居ないから新鮮だった。また聞かせてくれる?」

「うん、こんなので良かったら」

初めて委員長さんと話が合うかもしれない、と思った。っていうかいつまでも「委員長さん」とか呼んでるのもアレだよね・・・。タイミング見て名前で呼んでみようかな。

そんなことを思いながら、アルト絡みを除けば今年一番良いであろう機嫌を引っ提げて放課後の部活動に臨んだ。


***


その日の夜、あたしは九時になるのを見計らって携帯を開いた。

部活から帰ってご飯を食べた後のアルトが少しゆっくり出来る時間にだけ、あたしは毎晩電話を掛けることにしている。変な時間に掛けて話せなかったりしたらいやだし。

まあそれでもたまに、どうしても声が聞きたくなって夜中に掛けてしまったりするんだけど。そういうときアルトは面倒臭がりながらも電話を切ったりはしない。声が眠たげでちょっぴりセクシーなのがお気に入りなのは内緒だ。

昨日はちょっと気恥ずかしかったので電話はあの一回きりだった。

呼び出し音は5回。

『―おー、機嫌は直ったか?』

皮肉げでもなんでもない普通のアルトの声。気にしてはいないみたい。

「今日は良いことがあったからね♪許してあげる」

『へーへーありがとさん。で、良いことって?』

「うん、前に話した委員長さんっているじゃない?あの子がさ―」

出来るだけ長く話していたくて話題を次から次へと引っ張り出すから、あたしの生活はアルトに筒抜けだ。けれどアルトは自分から話すことはあんまりないから、あたしはアルトの今の生活をほとんど知らないんだろうなって思う。

『―なんでよく知りもしない他校の女子に俺のことが暴露されてんだよ・・・』

「いーじゃん別に。惚気たいんだもん」

『のろ・・・ッ!?本人にそういうこと言うか、普通?』

アルトが呆れたようにため息をつく。

「あたしは普通じゃないくらいアルトのこと大好きだからいーの」

そう言ったら黙り込んだ。

「・・・あ、照れてる?」

『・・・うっせーよバーカ』

ねえ、あたしも知ってるんだよ、アルトの癖。

照れくさいときはやたらとバカバカ言うの。かわいいからいつまでだって聞いていたくなるんだ。

「アルト大好き」

追い討ちをかけてみる。本気の言葉で。

『・・・き、切るぞ。切るからな!』

けれどアルトは慌てたようにそう言って本当に電話を切ってしまった。あーあ、残念。

あたしは肩をすくめて携帯を閉じた。


***


「―ねえ、折村さん」

聞き慣れない声に振り返ると、少し茶色味のあるストレートの女の子がいた。

思い出した。クラスメイトの・・・そう相沢(あいざわ)(ひと)()だ。後ろにも何人かクラスメイトがいる。

「何?」

少し警戒しながら尋ねる。なにしろこの子とあたしは約三ヶ月に渡る高校生活のなかでろくに話したこともないのだ。・・・いや、まあ委員長さん以外はほとんどそんな感じなんだけど。

「いや、さ。昨日渚に話してたじゃん・・・その」

彼女はとても歯切れが悪そうだった。後ろの子たちもそんな様子だ。

「あ・・・やっぱりあんまり惚気たりするのよくなかった?」

思い当たる節といえばそれくらいだけど。

「いやそうじゃなくって・・・それは別にいいんだけど・・・なんていうか」

急かしても仕方がないし、あたしはおとなしく待つことにする。

彼女はええと、とかどこから話せば、とかぶつぶつ言いながらしばらく逡巡している風だったけれど、後ろの子の後押しもあってようやく口を開いた。

「・・・その、やめたほうがいいよ。あの子に彼氏の話するの」

やっぱり惚気が、と思いかけてそれはいいと言われたのを思い出す。

「なんで?」

「アヤカ・・・同中の子に聞いたんだけどさ、あの子・・・“寝取り女”なんだ」

「は?」

「いや、もちろん本当に寝取るわけじゃないけど、ええと・・・単純に他人の彼氏を奪うのが、趣味・・・みたいな」

「・・・あの、委員長さんが?」

信じられないし想像すらできない。

「アヤカだけじゃないんだ。他にもいろんな子が・・・彼氏を取られたって言ってた。一見悪い子じゃないし、顔もかわいいからみんな騙されるんだって」

話し方で分かる、嘘は言っていない。聞いたまま、ありのままを話しているんだ。

「あたしたちもほら、一応彼氏いるしさ。あんまり近付いて欲しくなくて・・・。そのうち折村さんと仲良くなったみたいだけど、彼氏居ないなら大丈夫かな、って・・・思ってたんだけど」

昨日の惚気話で違うと知って、こうして忠告しにきてくれたわけか。でも。

「・・・多分、大丈夫だと思うよ」

「え?」

「遠距離だから。番号とか住んでるところとか、あたしが言わなきゃ分かんないし」

彼女たちは顔を見合わせた。

「・・・それもそっか。でも、用心はしといた方がいいと思う」

「ありがとう。じゃ」

あたしはそのまま振り返らずに教室を出た。

シャツをじっとりと濡らすいつもとは違う汗。あたしはアルトと付き合ってから一度もそういうことを考えたことがなかった自分に呆れていた。

絶対なんてない。アルトに限って、とかそんなの何の当てにもならないんだ。

ねえアルト、大丈夫だよね?あんまり学校のこととか話してくれないのは、向こうで彼女を作ってるから・・・とか、そんなんじゃないよね?

ねえ、アルト・・・・・・!



「・・・どうしよう」

色々考えてしまっているせいか、アルトに電話を掛けるのが怖い。

「九時過ぎちゃった・・・」

・・・よし、メールにしよう。今は声を聞くのも怖かった。

ひどくゆっくりだった指の動きが段々と普段通りに、いやそれ以上に速くなる。

『sub:アルト元気ー?

あたし一高飽きたかも(笑)

暇つぶしにデートでもしてあげよっか?』

送信。

・・・ばかみたい、こんなにあっさりデートに誘えちゃうなんて。この前あんなにうじうじ考えていたのが嘘みたいだ。

でもやっぱり少し、怖い。会いたくない。でも会いたい。

延々とループする思考の中へ沈みそうになっていると、突然携帯が震え出した。

アルトからのメールだ。

『sub:バカいうな

なんのためにそこに入ったんだお前

真面目に勉強しろ』

ディスプレイを凝視したまま一瞬固まった。しばらくして沸々と怒りがこみ上げてくる。

なに、なによこれ。それが「会いたい」って言ってる彼女に対する態度なわけ!?

ありえない、あたしじゃなかったら絶対切ってるよ。

そう思ってからまたも固まる。

「うそ・・・・・・」

こんなにあっさりと「切る」っていう選択肢が出てくることに自分で驚く。

アルトに振られるかもってそればっかり考えていたけど、あたしアルトを振る可能性だってあるんだ・・・。

「どうしよう・・・」

全然、大丈夫なんかじゃなかった。

アルトとあたしの関係なんて、それだけのものでしかないんだ。

「このままじゃ本当に、終わっちゃうかもしれない・・・」


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