幻想境界の断片
「……驚いたよ」
深い暗い森の中で、地面から顔を出す苔むした岩。それに腰掛けた女性は何も無い空間に向かって、無感動に語りかけた。
その言葉は誰も聞いていないハズなのに、彼女の雰囲気からは独り言のようには見えない。
それどころか、まるでこれから誰かに語り掛けるような印象さえ受ける。
「永遠に出て来れないと予想していたが……まさか、あのラグナ=ヘブンからたった十年で帰って来るとはな」
容姿と声色から、この女性は二十代前半と言ったところだろうか。
若く、それに髪と瞳には見る者を魅了するような綺麗な蒼を宿している。
「十年か、いや……そう言うには少し語弊があったな」
僅かな表情の変化。
ただ少し考えこむというだけの、単純な仕草。たったそれだけの仕草でさえ、この女性の美しさを引き立てる。
蒼を纏う女性は自然な流れで下唇に指を当て、そして宙を撫でるように指を離した。
――そこから舞うのは光。
「十年ではなく、君は永遠を経験したんだったな――相変わらずバカだよ、君は」
放たれた光は辺り一体を舞い、粒子の一つ一つが蒼く輝きだす。
「まぁ、あまり長く話すのも不粋というものだし、手早く挨拶といこうか」
蒼い光が地面に形成したのは、様々な幾何学模様が描かれた一つの円。
だが、その円からは不可思議よりも月のような神秘的な印象を植え付けられる。
そして、同時に気付くだろう。
――それが《出口》だということに。
「永遠に壊れた時計を回す歯車よ。ようこそ――そして、おかえり。霊永なる世界に」
女性の言葉と同時に、神秘的な円から大量の光が空へと立ち上る。
「――そして、憶えていて欲しい」
その光を見つめ、彼女はささやく。
「エアリス、君が《ワタシ》を殺したことを」