@8 赤丸商事
昨日は親知らず抜いて、えらく痛かった・・・。
オレ達自警団は、もう終わりだ・・・。こんなヤツが相手じゃ、勝てるワケねぇよ・・・。何なんだよあの女、何でオレ達の攻撃を全部知り尽くしてる?オレが受けたあの実験は、ネットにも流れていない極秘情報だぞ・・・。
「ハハハ、そんな実力でよくアタシに喧嘩が売れたね。ガキ故の過ちなのかもしんないが、もう少し命を大切にしな」
「何を・・・!」
ドガッ
全然攻撃が届かねぇ、ってか攻撃されてんのオレ達だけだ・・・。そもそも、何でこうなったかちゃんと思い出してみよう・・・。
事の始まりは、ニュースで見た連続殺人だった。それは実に奇妙なもので、オレは寒気がした。
「心臓だけ抉って、後はポイか。想像すると寒気するな、風子」
「心臓をバクリ、やってみたい・・・」
そうだね、キミは狼だもんね。狩猟本能は、最初からフルスロットルだよね。オレは賢治のうほうへ向く。まだオレに共感してくれるだろうと、淡い期待をした。
「人間の心臓か、あの時のように一口で食ってみたいものだ・・・」
こっちもダメだよ。
「じゃ、調べますか!」
風子の掛け声と共に、調査が始まった。そして、あの女妖怪を見つけ出し戦いを挑んだのだ。
女は名を白御前と言った。確かに白い肌で、それを強調するような紅い着物。敵じゃなっかったら、確実にお近づきになっときたいレベルだ。
「何て強さだ、アンタ何でオレの事を知ってる?ネット上では団員募集程度しか公開してなかった、と思うんだが・・・」
「朱の盆に聞いたのさ、上様の部下だからね。アタシにも情報は流れたよ。上様は昔人間と住んでたせいか、若干人間クサイの。だから妻であるアタシが、アンタら殺しにきたワケ」
じゃあ、コイツも悪鬼なのか・・・。朱の盆とは異色の強さ、縛り上げるヤツとは違ってねじ伏せるコイツ・・・。まったく歯が立たねぇワケだ。
「そういえば、アレからもう十六年なのか。アンタも、大きくなってアタシも老けたね~」
「老けてないでしょ・・・」
風子のツッコミをよそに、オレの方へ近づいてくる。目の前に来ると、顔をぐいっと引っ張った。フツーの人間なら、首が千切れている。
「アタシはね、あの完全生命体実験の参加者だったのさ。だからアンタの事は、これでもかと知り尽くしてるしこれでもかと対応できちゃうんだ」
「な・・・?あの実験の、参加者?」
白御前は耳元で囁くと、オレを後ろへ蹴り飛ばした。
「ハハハ、そろそろ決着をつけてあげようか」
「このぉ!・・・」
ゴキッ
最後の力で立ち上がった賢治を、白御前はアッサリ殴り倒す。それを見て風子も、怒りを露わにして立ち上がるが・・・。
「ううっ」
簡単に蹴り飛ばされてしまった。ココまで一方的なのは、喧嘩でもなかった事だ。オレはあの女に遊ばれてる、そう思うと尚更死ねないぜ!
「喰らえくそったれ」
印を結ぼうとした瞬間、腕が鈍い音を響かせながらだらりと下がる。印を結ぶ一瞬、そこにヤツは焦点を合わせ攻撃を仕掛けているのだ。
「確かに、あの時は印を結ばなくても妖術を使えるように実験を施そうとした。でも大失敗で、研究施設が灰になったの。で、前段階の被験状態のままアンタはこうして生きてるワケ」
って事は、前の段階で慎重にやりすぎて印をしっかり結ばないと、オレは術が使えなくなっちゃったワケなんすね・・・。
「そういえば今日は、吉日だね。よし、それに免じて殺さないであげる。ま、せいぜい頑張りなさい」
白御前はつかつかと、オレ達から離れていった。
あの後も、殺人事件は続いていった。相変わらず、ターゲットは若者に絞り込んでる。若いヤツの肝を食って、美貌を保つか。女は食っても食われるなとは、まさにこの事だ。
「その後の事件、何か解ったのかよリーダー」
「大した事じゃないけど、いろいろ解ったわよ」
風子はパソコンの画面をこっちに向け、データが載ったExcelの画面を見せた。見た感じ、コレはあの女の出没時刻ってところか。他の妖怪みたく、夜にはあまり無くて真っ昼間がかなり頻度が高い。鬼はやっぱ妖怪とは、違う種族かもしれねぇな。世界三大種族にしてもらいたいもんだ、ホントに。
「そうだ、鬼に詳しいと言ったらあの人だ。丁度この近くのハズだよね、風子」
「あ、そうよそうよ!あの人に頼めばよかった~、バカねワタシ~」
あの人って、誰だよ?オマエらの知り合いだから、妖怪だとは思うんだけど・・・。ソイツ、人間界の常識は心得てらっしゃるんですか?
「メイヤは家にいて。ワタシと賢治が会ってくるわ。だって、あの人は人間が大嫌いだもん」
「何だよ、オレは妖怪の血を持ってる。妖怪化すれば、大丈夫じゃねーの?」
風子は渋々、オレの同伴をOKした。
オレ達が着いたのは、駅前のビルだった。何でもその妖怪は、ビルの四階に住み着いているらしく
有名企業の社長さんでもあるそうだ。妖怪が社長って、儲かってるのかそれ・・・。
「四階はココだな」
ギィイ・・・
四階のその部屋には、何も無かった。確かに下の階は三階で、ココは間違いなく四階のハズだ。
「おやおや、ボク達一個余分に上がってるよ。五階だよココ」
「やだ~、ドジったの~?」
オレ達は数え間違いをしたみたいで、笑いながら下の階へ下りていく。しかし、その笑いは一瞬でかき消される。
「え、ココ三階?一つ下しか下りてないのに・・・」
「何だって?そんなハズは・・・」
賢治は上に行って、焦りまくりの顔で戻ってくる。
「上・・・五階だ・・・。何で?どういう事?ワケ解らん・・・」
このビル、タダのビルじゃねぇ。きっとその妖怪は、ビル全体を根城にしているんだろう。ってか、知り合いならこうなる事が解ってたんじゃねーの?オレ達は必死で、あるハズの四階を探し回った。
「ハァ、ハァ・・・。なぁ、その妖怪って誰だ?いい加減教えろ、何かいい方法を思いつくかもしんねーぜ?とっとと吐きやがれ、オマエら」
「・・・達磨さん、達磨さんよ・・・」
達磨って、あの達磨?人々の願いを成就させるというあの達磨、だよな?・・・達磨も妖怪になるんだな、初めて知ったぜ。
「じゃあさ、達磨をどっかで買ってまた来ようぜ」
「シンパシーってヤツかい?そう上手くいくものか、不安だね」
オレ達は達磨を買い、再びビルを登った。すると、今度はちゃんと四階が存在していた。シンパシー作戦、大成功だ。
「失礼します」
ドゴッ
オレがドアを開けた瞬間、何か硬いものが飛んできた。オレの顔面に当たり、床に落ちたそれは達磨だった。
「ノックせずに入るバカが、まだ在るなんてな!次やったら完全に殺すぞ!」
「「達磨先生、ワタシ達です。先程の無礼、誠に申しわけありません」」
倒れたオレが見たのは、テレビでよく目にする顔だった。そう、この人は赤丸商事の社長さんだ!世界十大企業の一つ、赤丸商事の社長さんだ!!
「神様、仏様、達磨様!!妖怪達磨、紅血の遊魔とはオレの事だぁ!!」
テレビじゃ出てもほんの数秒だから、知らない人が大多数だ。人嫌いなのは、そこからも読み取れる。達磨のクセに・・・というのは、禁句だな。
「最近、オマエら自警団ってもんを創ったみてーだな。あれ?オレの情報じゃ、四人だと聞いてんだがどういう事だ?」
「もう一人はアイドルのYURIKAさんで、今日は仕事でいないんです」
百合華は駆け出しで、徐々に顔が売れてきたアイドルだ。今日は撮影で、来られないのだ。
「成程、大江山の鬼どもか。オレはこんな若者の容姿だが、仮にも六百年生きてる。長寿の術を得るために、二度大江山に入った事がある。一度目は鬼どもにアッサリやられたが、二度目は鬼どもの弱点である柊の葉と大豆を混ぜて煮込んだ液体を、体中に塗りたくって勝ったのさ。節分で鬼退治する時に使うその二つが、鬼どもの弱点なんだ」
遊魔さんはオレ達を、別室に案内した。中には至る所に、達磨、達磨とうんざりするくらい達磨がある。それ程までに、達磨を溺愛しているみたいだ。
「さて、オレはオマエらの自警団を経済的にバックアップしてやりたいと思っている。オマエらが良ければ、すぐにでも援助をしよう。どうする?こっちは別に、急いでるワケじゃねぇぜ」
オレはこの話に感激し、身を乗り出すが風子に止められた。・・・まだ焦る必要はない、ちゃんと整ってからちゃんと援助してもらうべきだな。
「社長、そんな話する必要なんて、どこにもないですよ」
急に、遊魔の後ろにOLの女が現れた。どうやら、遊魔さんの秘書のようだ。
「へ~、割と若いじゃない。でも生憎、会社にはそんな若者の夢を支援する余裕なんてどこにもないの。早々に帰ってもらわないと、力ずくで・・・」
ゴオオオッ
その女は本性を現し、オレ達に火を吹きつける。その姿は達磨に顔に般若の面という、かなり異質なものだった。しかし女は、遊魔さんに止められた。
「おい若菜、オマエ二度も暴れたな?折角オレが死人のオマエに、達磨としての命を与えてやったというのに・・・。罰を受けろ」
遊魔さんは本性である大きな達磨に化け、女を頭からバリバリと噛み砕いた。そして残ったのは、人骨のみだった。達磨は願いを成就させてくれるありがたいもの、だが、その力は強大で人間や妖怪を容易く殺せる。達磨の知られざる恐怖に、オレは心の底から震え上がった。
「すまんな、こんな見苦しいのを見せちまった。だが、コレが達磨の掟だ。大達磨様が創った『達磨法典』、それに反する達磨は即死刑なんだよ」
遊魔さんは部下に茶を出すように命じ、ソファーにどんと座った。オレ達はさっきの光景のせいで、ガタガタ震えながら座ってしまった。その時、机の小さい達磨が床に落ちる。
コトン・・・
「オマエらぁぁぁぁ!!『達磨を床に落としたものは、鞭百叩き』!達磨法典に基づき、オマエらを百叩きじゃぁあ!!」
部屋の押入れから、豆サイズの達磨達がゾロゾロ湧いてくる。全員が鞭を持っており、オレ達をピシピシとぶっ叩いてきた。
「やめろ!戻るんだ、豆達磨達」
何とか処刑を潜り抜け、オレ達は本題に入った。
今回の登場人物
白御前(?)...全体的に白で統一されている妖怪で、正体は悪鬼。大江山の鬼の中ではリーダー格で、茨木童子の妻でもある。メイヤの受けた、完全生命体実験の参加者。
遊魔(?)...達磨の妖怪で、有名企業赤丸商事の社長。性格は激情家で冷酷で、部下の若菜を『達磨法典』に則り平気で食い殺した。死人に達磨としての『命』を与える力がある。
若菜(23)...女の達磨妖怪『般若達磨』。メイヤ達の訪問に難色を示し、追い出そうとするが遊魔に止められ、『達磨法典』に反した事で食い殺される。