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@4 無実体

宿題テスト、もう諦めた!www

 オレの中立の立場、今はハッキリ解る。人間と妖怪の境界線を侵したヤツを、人間だろうが妖怪だろうが片っ端から食い潰す。一見荒っぽいけど、コレが双方にとって一番いい方法だと思う。殺人で救えるもんなんて無いのは、とっくに知っている。でも殺してでも守るべきものがある、戦争だってそのためのものだと解釈ができる。オレは人間と妖怪の間にある、しがらみと戦争をしているのだ。


「最近は怖いわ、何人もばたばた死んでる。しかも夕方以降、仕事でよく遅くなるから心配だわ」


母さんはテレビを見て、不安そうにしている。最近はこんな事件ばかり、物騒なもんだぜ。


「お義母さん、恐らくコレは妖怪の仕業でしょう。だいたい、一日に数十人が連続して殺されるなんて明らかに桁外れです。コレは妖怪の中でもトップレベルの、悪鬼の類が行っているかもしれません」


悪鬼とは日本妖怪で、凶事を起こすとされる不吉な存在だ。妖怪と暮らして自然と、妖怪の事に詳しくなっていた。悪鬼は妖怪の中でもランクが高く、賢治の出身で名門の大百足よりも遥かに強いらしい。


「じゃ、自警団キュアオールにお母さんから依頼するわ。この事件の元凶を突きとめて、退治してほしいの。あ、無理は禁物よ!」


風子は依頼にテンションが上がり、早速事件調査に乗り出した。


カタカタカタ・・・カタカタ・・・カタカタ・・・


妖怪がパソコンというのは、あまり見慣れない光景だ。だが風子によると、パソコンは妖怪の中で重要な情報源として重宝されているらしい。


「あった、コレよ。事件には共通点があり、それは『被害者は全員白骨死体である事』だって・・・。きゃ~怖い、怖いよ~」


「ぶりっ子すんな、オマエ妖怪だろーが」


つまりこのふざけた妖怪は、人間を今でも食い殺しまくっているワケだ。一線を明らかに超えている、こんな事は許されちゃダメだ!オレは家を出て、そのふざけたヤツの出そうなところを徹底的に洗い出した。

 昼前、帰ってきたオレは昼飯を食いながら報告をした。


「よく走り回ったね、ボクなら面倒になって心が折れてるよ。そして場所は三十以上、どれかに絞り込むのはかなり難儀だね」


オレには無理だが、オマエら妖怪なら少しは絞れるだろ。妖怪の知識は多少あるくらいのオレに比べて、オマエらは純血の妖怪なんだからな。


「それならこのデパート、怪しさプンプンだわ。このデパートは最近、森を開発してオープンしたんだって近所の子供が言ってたもの。もし、この事件の犯人がとても自然思いなら確実よ」


オレ達は風子の読みを信じて、デパートへ向かった。

 デパートに着いたのは、午後四時過ぎ。もうすぐ夕方、早く現れろ不届き者。


ぞくっ・・・


何だコレ、前の高女なんかとは比べ物になんねー。妖気を人間の状態でハッキリ感じるなんて、相当のレベルに違いないぜ・・・。


「ううっ・・・」


「人の声だ!」


オレは咄嗟に反応し、声がする方向へ走り出す。二人はそれを見て付いてきた。人間を食うとしたら、人通りの少ないところに暗いところ・・・。オレは店と店の間の倉庫に目をつける。


「・・・遅かった、骨しかない。血の一滴も零れてないなんて、ご丁寧な妖怪だよ」


賢治は奥で白骨死体を見つけ、舌打ちを打つ。また人間を無惨な姿にした、自分への自責だった。賢治は以前人間を食って妖気を高めたが、それを風子に嫌われて婚儀を断られたという。血生臭いのが嫌いなのは、人間妖怪同じだという事だ。


「お褒めに預かり光栄です、大百足殿」


後ろから、とてつもない殺気が飛んでくる。気を緩めたら死ぬレベル、コレは犯人の殺気だ・・・。


「アンタ、朱の盆ね」


「ええ、ワタシは朱の盆。偉大なる茨木童子様が右腕、『縛り屋朱の盆』と呼ばれております」


朱の盆っていえば、見ただけで重病になる危険な妖怪じゃねーか。オレ、妖怪の血を持っててよかったって心の底から思った。


「まずはその体を縛り上げましょう、『鉄蛇の術』!」


ジャラララッ!


朱の盆が印を結んだ途端、地面から大量の鎖が飛び出す。オレ達はその鎖をかわしながら、朱の盆へ向かっていく。


「火気弾、受けてみろよ!」


ボオオオオオッ


この至近距離なら、完全に焼け焦げる!早々にケリが着きそうだ。しかし、火の中から朱の盆の笑い声がした。


「残念でしたね、鬼の血を持つ者とはいえ所詮は小童。ワタシの力を見ていないなら、当然ですが」


「ウソ、生きてるワケないのに・・・」


朱の盆は生きていた、何も無かったかのように平然と立っていたのだ。賢治も、動揺を隠せない。


「ワタシの力は『無実体ゼロソウル』、能力は言うまでもないでしょう。あらゆる体術、妖術、超能力や魔術が、ワタシには一切のダメージを与えられないのです」


反則すぎるぜ、体術と妖術が効かないって事はオレ達に打つ手無しじゃねーか・・・。コレが妖怪の中で最も強い、悪鬼の力なのかよ。


「確かに、オマエ達悪鬼は強い。その気になれば、世界を一日もせずに掌握する事だってできるハズだ。でも、オマエ達はそれをしていない」


朱の盆は顔を変え、オレの言葉に耳を傾ける。


「答えは簡単だ、それを望んでいないからだ!」


「・・・そうですか、アナタは解ってくれるのですね・・・」


朱の盆は印を結ぶと、こっちに歩み寄ってくる。あの無実体とかっていう、クソ強え力を解いてくれたのかもしれない。


「アナタ方は酒天童子様並びに、茨木童子様の御意志をお持ちでいます。人間と妖怪、中立を守り築き上げるために奮闘しておられる」


ガッ・・・


何だ、ヤツの腕がオレの胸に入り込んで・・・。オレの中にある何かを掴まれ、急に呼吸が乱れ始めた。コレ、まさか心臓を直で・・・!


「ですが、今更人間にそれを志す資格はないのです」


「「メイヤ!」」


コイツの握力で心臓を潰されれば、確実にオレは死ぬ・・・。どんな奇跡や神様が降って来ようが、絶対にオレの命は尽き果てる。


「ぐあっ、止めろ・・・止めてくれ・・・。オレは平成に生まれて、妖怪と人間という種族差別がどんな現状か殆ど解ってない・・・。でもな、コレだけはオレ達平成生まれにも言える・・・!こんなもんは、在っちゃいけない・・・ってな!!」


ドガッ!


「くそ、してやられた・・・」


オレの攻撃が、朱の盆に初めて当たった。ヤツの力も完全じゃない、弱点はある!


「ならば、この術を受けてまだその戯言を吐けるかどうか!見せて貰いましょう!」


ババッ


朱の盆は高速で印を結び、こっちを見つめる。その瞬間、オレ達の体は変な感覚に襲われた。このフワフワした感じ、幻術か・・・。


「ココでワタシは観戦しています。この術は茨木童子様直伝の妖術、アナタ方程度では絶対に助からない!この、相手を完膚なきまでに縛り上げる『心身永封の術』からは!」


 コレは・・・初めて、オレが喧嘩をしに行った時の・・・。こんなもん見せて、一体どうしようって腹積もりだよアイツ。


『オマエら、海藤から盗んだお金返せ!』


バキィイ・・・


「え・・・?何だよ、何の冗談だよ・・・?」


オレがぶん殴ったヤツの首が、血飛沫を上げて刎ね上がる・・・。そして、ヴィジョンの中のオレはそれを気にせず他のヤツらをぶん殴り・・・血飛沫を浴びた。


「コレは幻術だ・・・、オレはこんな事してないぜ・・・」


『次はオマエだ、朝暗明夜』


バキイィ・・・


ヴィジョンのオレはオレに近づき、血肉だらけの拳でオレをぶん殴った。ヴィジョンのヤツら同様、オレの首も高く刎ね上がり、血飛沫を幻の悪夢に浴びせながら地面に落ちていく。


「!?ど、どうなってる!?コレも幻術か、早く解けてくれ!」


オレの首はいつの間にか、体にピッタリくっ付いていた。そしてまた悪夢が、オレの首に刃を向けるのであった。


「ぐっは・・・」


ブシャアアッ・・・


血みどろになった後、またオレの体は元通りになってまた首と体が離されていく・・・。


「ククク、どうですワタシの妖術の威力は。現実では体を数多の鎖と縄で縛られ、幻術世界では無論心を縛られる。体は腐っても、心は永遠に腐らず縛られる。この苦痛、とても人間なんぞには耐え難いでしょう」


くそ、幻術のせいで妖気を発せない。せめて体が自由なら・・・。


バキイイィ・・・


オレの体はこの悪夢に魘されてる間にも、確実にその終わりが近づいているんだ。何としても、逃げださねーと・・・。そんでもって二人も助けるんだ、絶対。


「くそ、舌噛んで逝ってみるか!」


ガリッ・・・


うおおおおっ!痛い痛い!痛すぎる、幻術なんて簡単に解けるんじゃねーか!?一回じゃまだまだダメだ、何回も何回もやっていくのが吉だぜ。


ガリッ、ゴリゴリッ、ガリガリ・・・


痛みのおかげでか、全身の感覚が戻ってくる。コレを現実世界から見ていた朱の盆は、動揺した。


「なんて無茶を。ですが、そんな抵抗も無意味です」


サッ


朱の盆は印を練り、幻術を強化した。オレは口にタオルが入れられ、下を噛めなくなった。こうなりゃ、歯で自分の口をガブガブ食い尽くすしかねぇ!


ガブッ・・・


「うう、痛いぜ・・・」


この痛みで、オレの感覚で幻術内で戻った。コレなら、妖気を発して現実に戻れる!


「妖気を全開にして、この世界に幕を下ろしてやる!」


グオオオオゥ!


オレは現実世界に戻ると、縄や鎖で縛られて身動きができなかった。現実になっても縛られっ放し、そうはいくか!


「賢治!コラ木偶の棒、早く起きろ!」


「誰がだ、この鬼もどき!」


ガッ


オレは賢治の足を、縛られたままで思い切り蹴ってみる。痛みによって、賢治は現実に戻った。


「残るは風子のみ!」


ドガドガ


「痛いわね!もっと加減しなさい、このバカ」


風子も元に戻った。後はこの縛りを解きたいのだが、妖術も使えないようにしてある縄や鎖で縛られてる。つまり、力ずく以外は打つ手なしだ。


「妖気は発せられるんだ、力ずくなら!」


グオオオオオッ


縄や鎖が次々と外れていき、オレは解放される。彼是二時間以上、二人と一緒に縛られていたのだ。


「なんて方々でしょう、茨木童子様の術を・・・。おやおや、人間が騒ぎに気付いてきたようです。ではこれにて、さようなら」


朱の盆はフッと、赤い光を発して消えた。

 その夜、またニュースで人間が数十人殺されるというニュースをやっていた。朱の盆の野郎、全然懲りてねぇ・・・。でも母さんは、何だか嬉しそうだ。


「あの街の人達には悪いけど、助かったわ。メイヤが動いて、妖怪を追い払ったんじゃないの?ホントにありがとう、御礼はコレよ」


「げ、何じゃコリャ」


母さんはプレゼントとして、妖怪図鑑(広辞苑の三倍の厚さ)の本を贈ってくれた。


 

今回の登場人物


朱の盆(?)...茨木童子の部下で、情報に長ける。無実体という、体を霊体にする力を持つ。『縛り屋』とも呼ばれ、幻術を多く使える。また、長寿の術を心得ており、三百年以上生きていると言われる。

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